「ふははは、まるで人がゴミの様だ~」
「あははは、ゴミめ!」
窓辺に集まった三人が、某アニメのセリフを連呼していた。
スタジオまんまん。佃島のタワーマンション、最上階の一室で見られるいつもの光景。
眼下に広がる都会の街並みに向かい、それぞれが好きなポーズを決めてメガネくいっを楽しんでいる。
「ほほほほ! 初めて来た人は、みなソレやるのう~」
「ま!?」
「まままま!?」
「まんじ先生!? いつの間に!?」
現役JDVtuber超美少女漫画家『魔女まんじ』がいつの間にか戻って来ていて、自分たちが入筆した原稿のチェックをしていて超びっくり!
白磁の様な白く透き通った美貌の人。浮世離れした和装の美少女。肩には彼女最大のヒット作『魔法少女プリティ☆まんちゃん』のまんちゃん人形をちょこんと乗せ、これがまたとてつもなく可愛らしい。
「え? え? だって、先生。たった今まで大学でライブ放送してたんじゃ?」
「してたぞよ」
「ははあ~、実はリモートで」
「かしこいガキは嫌いじゃぞ」
「うわあ、それで返すか~!?」
またも某漫画の有名なシーン。
窓辺から喜々として戻る三人は、自分たちの仕事をチェックして貰おうと各自に割り当てられた作業机に戻るとPCの画面を開き、緊張の面持ちで順番を待つ。
魔女まんじも、自分のデスクに戻れば全員分の原稿をチェック出来るのに、わざわざ各自の作業机に行ってチェックし、あれこれ細かい指示を出していく。それを憧れのキラキラした目で、若いアシスタントは食い入る様に見つめ、一々大げさな返事をする。
「では、次じゃな」
「せ、先生! お願いします!」
「うむ」
向かいの席から呼ばれ、魔女まんじがその机を離れると、すぐさまそこに着いた若者は目を大きく見開いて頭から突っ込む様にPC画面へと挑みかかり、猛烈な勢いで修正に取り掛かる。
その様は、正にまんじ空間に囚われた虜。憧れ、歓喜、そして僅かの不安。それらにドーピングされた若者は、正に通常の三倍の力を絞り出すのだった。
「うはあ~、描ける! 私にも描けるぞ! ララァ! 見守ってくれ!」
既に某キャラクターに脳内シンクロを果たし、池田ボイスっぽく声まで変わる。すると別の机から。
「そんな理屈~!」
とちょっと鼻にかかった変な合いの手が入り、一気に妙な熱気がうねり出す。そんな様を数百体に及ぶ美少女フィギュアの群がじいっと見つめていた。
「ほほほ、皆、若いのう」
そんなセリフを残し、この中で一見一番若く見える魔女まんじは、己のデスクに戻り、ゆったりとくつろぐ様にその小さな体を黒い革張りの椅子に預けた。
カツカツと液晶タブレットを叩くペンの音が無数に響く中、その熱気を吸い取る様に深い呼吸を楽しみ、うっとりと。
「もうすぐじゃの」
「は……」
そう返事を囁いた肩の人形をちょこんとデスクの脇に置き、魔女まんじは実に遠い目をする。たっぷりの邪悪な笑みを浮かべ。
「楽しみじゃのう~」