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第35話『現役JDVtuber超美少女漫画家魔女まんじ』


《先遣隊日誌第一公転目》

《我々選ばれし五人の勇者は、蒼き隣星の次元異常を鑑み虹の橋を踏破するも、怪奇な怪物らの襲撃を受け、我一人を残し壊滅の憂き目となってしまった。幸い我は装備の大半を失うも蒼き隣星への侵入に成功す。蒼き星は高重力なるも幸いな事に携帯型動力ユニット一基が無事な為、重力バーリアを展開し、以後隠密行動に徹するものである。

蒼き星は腕と脚を二対しか持たぬ異形の巨大生物が跳梁跋扈する危険な地であるが、後続部隊の到着を待ちつつ、橋頭保を築き、特異点の特定を急ぐものである。


                              紅き星の勇者ポポイ》



 ◇



 ファンシーな異界とも言える空間が、むくつけきおの子の群に満たされれば、嫌が応にも夢と現実の軋轢がせめぎ合い、施された夢の魔法も自然、ほころびを見せようもの。



 お昼時ともなれば『ミルキー☆テイル』の店内は否応なしにごった返しになってしまう。

 ただでさえメインの一人、あまねが無断欠勤しているのだ。そのしわ寄せは新人のまなみに重くのしかかっていた。


「はひゃあ~。五番テーブル、ハイプリけも耳オムラブましまし二つ、エクス神秘瞳ブル

ハワソー一つ、ハニブロていシルフロー一~つ」


 一気に魔法の呪文を唱え、注文書きをボードに貼り付けてカウンターに突っ伏すまなみに、厨房のタマさん店長はにこやかに、容赦なくコトコトと料理や飲み物を並べてみせる。


「は~い、まなみちゃん。これ七番テーブルへお願いね」

「はひゃあ~」

「こらこら。女の子は、もっと優雅に」


 へばってるまなみのお鼻を指つんするタマ店長。


「タマさ~ん」

「もう。それ運んだらお昼休み、入って良いから。まかないは中華丼よ」

「や、やったぁ~!」

「あらあら。お声が大きいわよ。うふふ」


 厨房に立つタマの周囲だけ、不可思議なキラキラが数割増し増し。色を失いかけたまなみの瞳も再びキラキラを取り戻し、尻尾を立てて跳ね起きた。


「私、行ってくりゅ~!」

「足元に気を付けてね~」


 お盆の上にお料理満載。それをこぼさない様に、尻尾ふりふり、お耳ぴこぴこ。まなみは黒いエナメルのパンプスも軽やかに、お店の中を急いだ。



「大丈夫か、あれ?」


 ひょいと奥から顔を出したパイに、タマは静かに瞳を閉じる。


「あの子は良くやってくれてるわ」

「ふう~ん。はい、これ。ハイプリけも耳オム一丁~。あと一つね~」


 お客さんの注文する声を、厨房の中に居ながら聞き取っていた地獄耳の為せる早業。手はすぐさま、次の一品にと取り掛かる。

 じゅわ~。じゅっじゅ。カチャカチャと、ラード、卵とフライパンで炒め始めるパイの目線はもう手元に戻っていた。



「「「お帰りなさいませ、ご主人さまー!」」」


 カラカランとドアベルが鳴り、また新たな来客を告げる。華やいだ声がそれを出迎え、ふわり膨らむ店の活気。きゃっきゃうふふと微笑ましい。


「「「萌え萌えきゅ~ん!」」」

「「「萌え~!」」」


 時折、はしゃぐお客様の奇声が沸き起こり、それを背中に感じつつ転がり込む様に裏方へ戻ったまなみは、休憩中の先輩方にぺこり頭を下げた。

 先日は教育係のあまねとミャオに付いて回ってたから、あまり言葉を交わした事が無かった二人だけど。


「お疲れ様でーす」

「お疲れ様~」

「まなみちゃんだっけ? 働いてみて、ど~う?」


 一人はもう賄いを食べ終えてスマフォをいじっており、もう一人はまだ食事中なんだけどレンゲを片手に笑顔で話しかけてきてくれた。


「もうへとへとですよ~。わ~、美味しそ~!」

「食べ放題だからってほどほどにしときなさいよ。動けなくなっちゃうから」

「食べ放題!?」


 テーブルの脇、キャスターの上に大きな業務用の炊飯器と大きな中華鍋がドンと置いてあり、山盛りの美味しそうな中華丼のアンがどっさりテカテカと魅力的な輝きを放っていた。海老やうずらの卵やイカにかまぼこ筍、木耳~。じゅるりん。もう目が釘付けです。


「食べ放題~」

「食べすぎると、制服に身体が入らなくなっちゃうわよ~」


 ひひひともう一人が。


「太っちゃってクビになった子も居たよね?」

「マジですか!?」

「あははは。マジまんじ。制服のサイズが次々と合わなくなっちゃって……」


 きゃー!!


 恐怖の怪談がしゃもじを持つまなみの手をピタリと止めた。

 炊飯器の中には、純白の悪魔が暖かな湯気と共に手招きしている。何という事でしょう!?


「こ、これくらいなら……」


 ちょっと他所行きに小さくよそう。そんなまなみを、二人はくすくすと。


「え~い!」


 こんな程度では、中華アンに負けてしまう!

 まなみは、更に純白の悪魔を追加! 更に倍! そしてそれに負けじと中華アンをどば~!


「おっお~……」


 出来上がったチョモランマを手に、感動に思わず声を漏らすまなみに二人もびっくり。


「これは凄い」

「大物だわ」

「てへ~」


 早速、記念撮影が始まった。

 で、まなみの携帯にまたびっくり。


「ガラケー!?」

「今時!?」

「あ、あははは……バイト代が出たら、スマフォにするつもりなんです~」


 写真を撮り合ってきゃっきゃとはしゃいだところで、漸くお昼ご飯です。

 二人の向かいに座って、いただきまーす。ぱくり。う~ん、美味しい~! 筍に白菜がとろりアンでこれぞ中華丼だわ~!


 労働の価値を再確認するまなみ。歓喜に頬をゆるゆるにさせていたら、さっきからスマフォを覗いてた先輩が嬉しそうな声をあげた。


「おっ!? 魔女まんじ先生のライブ始まった!」

「え!? 嘘!?」

「本当!?」


 まなみも驚いて、サッとその人の横に回り込む。

 魔女まんじ先生。現役女子大生ながらVtuberで活動しつつ週刊連載を三本もこなしているという超売れっ子天才美少女漫画家なのだ。特に週刊電撃マーガレットこと『電マ』で連載中の『魔法少女プリティ☆まんちゃん』『プリまん』は日朝でアニメ化までされ、この前映画も作られ世界中で様々な賞を総なめした上に歴代興行成収入を塗り替えてしまった。今やその登録者数はアメリカ大統領を凌ぎ、TIMESの表紙まで飾ってしまう全国女子高生あこがれの人ナンバーワン。それが魔女まんじ先生なのである。


『やほ~、今日も我に会いに来てくれてありがとなのだ~』


 スマフォの小さな画面に、銀髪ケモミミの可愛らしい女の子がぴょんと現れ、愛嬌を振り蒔いてる。当然、この店に集まってる店員はケモナーがほとんどなので、これだけで黄色い嬌声が沸き起こった。


「や~ん、まんじ先生、今日も超かわいい~!」


 まなみも例に漏れず、魔女まんじ先生の熱烈なファンであった。


『今日も華ノ水、東京電波大学のいつものスタジオからお送りしておるのだ~。さあ、みな我に投げ銭を捧げるが良い。おっ!? 愛い奴愛い奴。早速の投げ銭ありがとなのだ~。えっと、千葉の泥縄きゅん。沖縄の星ちん。えっと、これ、何て読むのだ?』


 いつものゆる~い語り口調で魔女まんじ先生のライブ放送が始まった。ちょっと時代がかった言葉遣いがまた新鮮だと評判で、浮世離れした雰囲気がまた受けている様だ。


『えっと。今日はこの間、寄せられた質問からお答えしていこうではないか。(ぱらぱらぱら、ピタ!)え~……まんちゃん先生は週刊連載を三本も持ってるって本当ですか? 全部アシスタントが描いてるって、なんじゃこの質問は!? われアンチか? 我が全部描いてるに当たり前であろう? え? 無理だろって? 寝ないで描けば良いのじゃ寝ないで描けば。我は神に近い存在であるからにして、寝ないでも描けるのじゃ。ぶち(ぴー)すぞわれ!』


 またもや投げ銭のラッシュが沸き起こり、失礼なコメントを画面外に押し流して行く。

 そんな有様を三人は無邪気にきゃっきゃと笑いながら眺めていた。



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