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第31話『その頃、もっと~♪では』


 今朝の秋葉原退魔支部もっと~♪店内では──


「な、な、何だこれーっ!?」


 裏口から入った紀子は、むわっとむせかえる様な熱気と汗臭さ、そして床一面に並べられた紙、紙、紙。一枚拾って見ると、なんか上から捉えた写真が……


「ああ、それ? ボビーがハッキングしてチェックした奴だよ」


 聞き慣れない声に、面を上げると、そこには見知らぬ男がだぼだぼの服を着て立っていた。手には見慣れたエナジードリンクのでかい缶。そのキングサイズのズボンや上着に、紀子も見覚えがあったので、まさか、もしやと思いながら一応聞いてみた。


「えっと。まさかと思うけど、栗林さん?」

「そうだよ! ちょっと痩せちまったけど、お前の上司だ! 失礼な……」


 そう口をへの字にしながら、一息にエナドレを煽り飲むとバシュッと両手で潰してしまう。


 んん? 心なしか、少しお顔が膨らんだ様な……


 栗林は潰した缶をゴミ箱に放ると、冷蔵庫から同じものをもう一本取り出して、またもぐびぐびと飲みだした。


「いや、なにな。夕べ一戦交えてな。カロリーを消費しちまったって訳よ」

「カロリー……」


 まあ、栗林の術は肉体派だから紀子の術とえらく違うのは何となく判る。判るんだが、それって本当に人間の身体?

 自然と異形の妖魔を見る様な目になる紀子だが、栗林はどうも勘違いをしたらしい。


「ほい。お前も飲め」

「え? い、要らないですよ!」


 もう新しい缶を取り出す栗林は、紀子の分と一本放って寄越した。


「やるよ。欲しいんだろ? んふふ……」

「あ~、はぁ~……ありがとうございます……」


 見た事も無い気持ち悪い笑みを浮かべる栗林に、ぞぞぞっと寒気を覚えた紀子は、大人しく上司の好意を受け入れる事にする。社会人になれば、嫌な上司から酒を無理強いされるなんて話を耳にした事がある紀子だが、実際は部活の先輩から自販機のコーヒーをおごって貰った事くらいしか無く、栗林がいつも愛飲している気持ち悪い色彩のエナドレをまさか飲まされる事になるとは……


 ばしゅっ!


「うえ……甘ぇ~……」

「ふふふふ……まだ子供の口には厳しかったかな?」

「子供って。いや、まぁ、ギリ未成年ですけどね!」

「はっはっはっは。で、夕べの話、聞きたくない?」

「あ、はい……」


 いつもだったら、情報の共有って朝礼で行うものだけど。


「端的に言うと、敵は術者だ。人形に魂を憑依させているのか、その辺は良く分かんねえが、鏡と同系列らしい。それであいつが良く狙われたってところか」

「空間系ですか」

「ああ」


 栗林は新しい缶を取り出して、バッシュっと空けてまた飲みながら語った。


「でも、使役するにしてもあたしが遭遇した妖魔は、ちょっと強過ぎやしませんかね?」

「夕べは、そいつが出なかった。妖気も弱いものだった。が、人死にが出ちまったみたいだ。現場に残された血の量と鑑定結果から、被害者は血液型の違う最低二人はいる。どうも、どっかに引き込んで儀式をしているみたいなんだが、何をどうしようとしているかまでは判んねえ。ただ、少なくともただの愉快犯って訳じゃなさそうだ」

「はあ~。あいつは出なかったんですか。う~ん……」


 あの化け物が人を襲うのなら、何もこそこそ動く必要は無いだろう。堂々とやる。そして、術者が感知して襲って来ても、喜々として返り討ちにするに違いない。あいつは、そういう奴だ。


「何だ? 何をやろうってんだ?」

「まだ半覚醒の妖魔を育ててるとか、動けない妖魔に餌を運んでるとか、色々考えられるが、どうも結界か何かで普段は妖気を遮断しているんだろうって鏡が言ってたな」

「人を引き込んで、殺す時だけ結界に穴が開く。だから妖気を感知出来たって事か!?」


 びちゃあ。

 興奮して手を振ったら、缶からジュースが飛び出してしまった。

 床に置かれた何枚かの紙を汚して。


「で、こっちは監視カメラの映像から、イベントで商品を買った奴を顔認証で割り出して、身元を洗った訳だが、いずれも白。半分は中国人転売ヤーに雇われた常連のアルバイト。残りは鏡の同類さ。今、転売先を当たっているんだが、どれもハズレ臭い。まぁ、高い金払ってこんな使い方する奴は、普通居ねぇわな」


 そう告げながら、栗林は床に敷き詰められた紙を拾い集め出した。


「じゃあ、後は?」

「海賊版か、製造過程のミスロットか。かあ~、フィギュアの闇は深いわ!」

「うぇ~、鏡サンの世界ですね」

「工場のある中国までは、行けねぇよなぁ~」

「お金出してくれるなら、あたし行きますよ!」

「ば~か。俺が行くわ」


 そんな話をしていたら、いずみが裏から入って来た。



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