じゃり。
踏み固められた土の上に、薄っすらと砂利が感じられる。
教会の裏手、店の斜め前に広がる公園は、ちょっとしたグランド並で、今日も二十人程の少女らが賑やかな音楽に合わせてくるくると舞い踊っていた。表通りに出れば、向かいのドン・キホーテの最上階で華やかなステージが今日も催されている事だろう。この少女らも明日のスポットライトを夢見て、踊るのかも知れない。
「本当にここで良いのか?」
「イエス、イエス。ミーはココがイイね」
2.5次元人の鏡には、三次元の少女などさしたる興味のあるものでは無かったが、アメリカ人のボビーは少女らの瑞々しい躍動にいたく気に入った様子で、これを堂々とガン見出来る木製のベンチにドカッと腰を降ろし、その長い脚を投げ出した。
「まぁ、良いさ。俺は一回りしてくるぜ」
「ハ、鏡はマジメだネー。イッテらっしゃーイ」
へらへらと笑うボビーは、その大きな掌をひらひらとさせ、半ばのけぞる様に鏡を見送る。この地区の巡回を、鏡一人に任せようというのか。
否。
その瞳も半眼に、まるで居眠りでもしているかに脱力した。
やはりさぼろうというのか。
否。
むくり。むくむくと、ボビーのラッパズボンが、紫のラメ入りシャツが異様な脈動を見せると、その襟もとから数話の鳥が、ズボンの裾から無数の小動物が飛び出した。
白頭鷲を始めとした大小様々な鳥が一斉に羽ばたき、リスや跳びネズミ、イタチ、カワウソ、バービーと多種多様な小動物が少女らの足元を駆け抜け、散った。
「きゃ!?」
「やだ、凄い風!」
踊る少女らは、まるで見えていないのか、ほつれる髪を押さえ、一時その舞踏を止めた。
「はーい! また頭からもう一度!」
リーダーらしき、気の強そうな太めの少女が、この一陣の騒ぎに負けじとラジカセへと走る。これに気を取り戻したか、少女らはわらわらと、それぞれの立ち位置へと。
「いくわよ! いいわね!」
その掛け声に、ざざざっと土を踏む音で少女らは答えた。
ボビーの放った動物たちを、一般の人間が目にする事は出来ない。
その散り行く様を、鏡はちらり目線を送り、フッと口元に笑みを浮かべた。
「また派手だねえ」
彼らには肉体が無い。
いわゆる精霊という奴だ。
北米の精霊信仰。部族毎に彼らの祖先霊を刻み、祭って来たものが、近年では祭る者も居なくなり、多くが朽ちて消えゆくままにされていた。これを集め、人為的に使役する研究の結果、生み出されたのが「運ぶ者」。それがボビーの正体である。
ボビーは生きたトーテムポール。
無数の精霊をその身に刻み、人格が破綻しなかった唯一の実験体。それが何故、この魔都秋葉原にその身を潜めているのか、それはまた別の物語である。