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第2話『錆びたシャッター』

 真冬の冷気が全てを押し包んでいた。

 東京は日ノ本が国の首都。

 その東京の鎮守である神田明神より見下ろすこの街も、今は夜を迎え、昼とは違うもう一つの顔を浮かび上がらせていた。

 秋葉原。

 古きビルは取り壊され、新しくも美しい建物が築かれる。幾度も繰り返される街の輪廻。生まれたてのビルは、ガラス張りの衣装を身にまとい、まるで地上の宝石さながら、街明かりをキラキラと映し出していた。

 が……唐突にその輝きに染みが。

 まるで墨を撒くかに走った。

 闇に潜む者がいる。

 闇を蠢く者が……


 暖色の灯りに幾つもの影が、奇怪な影が一斉に跳ねた。


「ひぎゃっ……」


 ギャシャァァァァァァァァァァァァァァン!!!!


 落下する勢い、錆びたシャッターがワンと大気を震わせ、何者かの悲鳴を掻き消した。それは同時に光をも切り取り、漆黒の闇がこの路地を包んだ。まるで真の闇に塗り込められたかに。

 それは僅かの間の錯覚。

 幅2mも無い細い路地。

 この路地のみならず、表通りから一歩入ったこの辺り一帯が暗い。

 停電か?

 ならば、先程の灯りは何か?

 普段ならば通る者が無くとも、ただひたすらに街灯や周囲のビルが辺りを照らし、不夜城の如く全てを明白に曝していた。

 だが、不可思議な事に今宵この辺りは、ケバブ屋も、メイド喫茶やPCパーツショップの看板も、常なる人工の光に照らし出される事なく、遠い光によりその輪郭を浮かび上がらせるだけにとどめていた。

 シャッターの内側では何かが砕け、千切れ、掻き毟る様な湿った鈍い音が。次第にそれも小さくなる。

 一条の涙の如き黒い流れが、路地のアスファルトを伝おうが誰が気付こう。誰があえてこの薄暗い闇へと脚を踏み入れよう。


 その路地を風が流れた。

 乾いた風が。

 それに乗ってか、ふわり軽やかに路地の入り口で舞う白い影。

 清純を想わせる白。

 闇にあって、明瞭にそのシルエットを浮かび上がらせた。

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