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第2話 二本の矢

「ところで疲れているところすまないが、もう一点だけ確認しておきたいんだ」


 雰囲気を改めて、皓矢こうやが持っていた金属トレイにかけられた布を外した。中には削った石のようなものが二つと、金属片がある。


「それ!!」


 はるかは素早く指差して声を上げる。


「君には心当たりがあるね?」


 皓矢がそう聞けば、永は大きく頷いた。


「なんだ? あれ」


 それを初めて見た蕾生らいお生は鈴心すずねに小声で聞いた。


「あの二つのやじり詮充郎せんじゅうろうが持っていたぬえの遺骸から出てきたものと、鵺化したライが吐き出したものです」


「えっ!」


 驚いた蕾生の声に、永が向き直って言った。


「そう。元ははなぶさ治親はるちかが持っていた二本の矢。名を翠破すいは紅破こうはと言う」


「やはりそうか」


 皓矢が確信を持って言うと、永はその矢だったものを指差しながら説明した。


「ライくんが吐き出した紅破の方はかなり前に鵺化した時、体に刺さったままで今まで行方不明だった。遺骸から出た翠破は前々回の転生で鵺に取り込まれたからよく覚えてる」


 すると皓矢もその返答として報告する。


「簡単にだけどこれらの探知を行った結果、鵺の気配が宿っていたのでおそらくそうだと思ったが、実際に知っている君が言うんだ、それで間違いないだろうね」


「じゃあ、そっちの金属はもしかして……」


 永が残された金属片の方を指差して言うと、皓矢は深く頷いた。


「こっちの方はこちら側に充分データが揃っているものと合致した。現在行方不明中の萱獅子刀かんじしとうの切先部分だ」


「やっぱり本物は行方不明だったか」


 永が肩で息を吐きながら少し責めるような視線を向けると、皓矢は素直に頭を下げる。


「申し訳ない。これも身内の恥だ──前回のことだから君達も覚えているだろうけど」


「まあね。ていうか、今はっきりと思い出したよ。確かに萱獅子刀は鵺によって折られていた。その破片が取り込まれていたんだね」


 前回のこと、と言われても蕾生にはよくわからなかった。詮充郎が言っていた「御堂みどうが裏切った」ことと「紘太郎ひろたろうがそれに加担した」ことは関係があるのだろうか。だが、今はその疑問を出すべきではないと思った。

 話の流れを遮ってしまうと思って、蕾生が黙っていると、皓矢が話を続ける。


「萱獅子刀の一部が出てきたことで捜索が進むかもしれない。これはこちらで預かっても?」


「仕方ないね、探してくれるって言うなら。ただし、翠破と紅破は返してくれる? 慧心弓けいしんきゅうを探すのにあった方がいいだろうから」


「探すと君は簡単に言うけど、具体的な方法があるのかい?」


 少し挑戦的な言葉で皓矢が問いかけると、永は言葉に詰まった。


「それは──」


「うちで分析させてくれたら、銀騎しらきの術者総出で慧心弓も探そう。どうかな?」


 少し詮充郎の様な強引さを纏った皓矢に、鈴心が遠慮がちに言う。


「でも、それでは銀騎におんぶに抱っこで……それに刀と弓は、私達自身で探し当てることに意味がある気がするんです」


「それも道理だとは思う。結局は君達の運命だからね。ただ、現状君達に捜索の手段がない限り、遊ばせておくのは時間の無駄じゃないかな?」


 至極もっともな皓矢の申し出に、鈴心は困った顔で永を見た。


「……」


「わかった。あんたの言う通りだよ。じゃあ、貸してやるけど、分析結果は仔細全て僕らに教えること! あと絶対返せよ!」


 鈴心にそんな顔をされたら永は観念するしかない。上から目線で言ったのは精一杯の虚勢だった。

 それを見透かしている皓矢はにっこり笑って言った。


「勿論だよ、承った。まずこちらで解析してみたら何か新しい手段を君達に提示できるかもしれない」


「よろしくお願いします」


 素直になれない永の代わりに蕾生が少し頭を下げる。そんな蕾生に笑いかけながら皓矢は会話を結んだ。


「さて、今後について話し合いたいことは山ほどあるけれど、今日はもう遅い。家に帰りなさい、明日も学校があるだろう」


「そうさせてもらおうかな、疲れたし」


「──だな」


 永も蕾生も軽く伸びをして、今日の出来事を振り返る。

 とても濃密な時間だった。様々なことが起こって、正直まだ少し混乱している。

 それでもひとつピンチを乗り越えたのだという満足感があった。

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