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5-2 謎の生物

 中に入ると広い廊下が奥まで伸びている。その左右にいくつも部屋が並んでいるようだった。外見に反して随分広い造りのようだが照明もつかず薄暗いので全貌は見えてこない。


「すげえ数だな」


 左右に並ぶドアの数々を見回して蕾生らいおが声を上げる。


「時間が惜しい。手分けして探そう。リンは銀騎しらきさんと一緒に」


「御意」


 はるか、蕾生、鈴心すずね星弥せいやの三手に分かれて端の部屋から調べていくことにした。

 幸い各部屋は施錠されていないので容易に見ることができた。部屋は古い本が並べられていたり、植物標本が保管されていたりと、用途別になっているようだった。


 その中で永が踏み入れた部屋には様々な動物の剥製が並べられていた。それらをざっと見て、特に異常はないので部屋を出る。


「すごいな、博物館並だ……」


 独言のように呟いた後、蕾生が入ったであろう部屋を通り過ぎる時、そこから震えた蕾生の声が聞こえた。


「永──なんだこれ」


「何かあった?」


 足を止めて永もその部屋に入って驚いた。中には壁と見紛うほどの大きな石板がドミノのように整然と数枚並べられている。一番前の石板の中央には動物の上半身を彫刻したようなものがあしらわれていた。


「彫刻……?でもやけにリアルだな……まるで生身の動物が封印されたみたいな──」


 永が思わずその顔の部分に触れると、瞳が紅く光り、次の瞬間周りの石板が音を立てて崩れていった。


「──!」


 一歩後ずさった永の目の前には、生きたライオンのような生物が立っていた。その獰猛な瞳は永を見据えて低く唸っている。


「永!」


 蕾生がすぐさまその間に割って入る。その背の後ろで永も背負っていた竹刀に手をかけた。


「永、どいてろ」


 その一言で永は竹刀から手を離し、ゆっくりとその生物から目を離さずに後退りながら部屋を出る。

 蕾生も同じように生物から視線を逸らさずに、比較的広い廊下に出た。ライオンのような生物は蕾生に続いてゆっくりと前へ進む。


「どうし──ヒッ!?」


 奥の部屋から出てきた星弥が、目の前の生物を見て顔を引き攣らせる。


銀騎しらき!来るな!鈴心、守れ!」


 蕾生が怒鳴ると、遅れて出てきた鈴心は即座に星弥の前に躍り出た。星弥を守るように立ち、その生物の後ろで息を潜める。


「こっちだ、来い!!」


 蕾生の声に反応して、ライオンのような生物は真っ直ぐ蕾生に飛びかかる。蕾生はその動きを見定めて一撃必殺の拳をみぞおちに叩き込んだ。


「ガアァッ──」


 幅のない廊下で、自分の後ろには永が控えているので身を躱すことはできないという状況で、蕾生がとった行動は的確だった。真っ直ぐに叩き込まれた蕾生の拳を受け、その生物は動きを止め僅かな呻き声とともに倒れ込んだ。


「ヒュー!」


 永は口笛を鳴らしてその健闘を讃える。

 鈴心も息を吐いて緊張を解いた。


「す、すご……こんなにもだったなんて──」


 星弥は目の前で起こったことに頭がついていかずにその場で座り込んでしまった。


「なんだ、こいつ」

 息ひとつ乱さずに蕾生はそれを眺めていた。


「どれどれ」


「ハル様!危険です!」


 倒れ込んだ生物に近づこうとする永に鈴心が喚くが、永もすでに落ち着いていた。


「あー、だいじょぶだいじょぶ、完全に沈黙してる」


「ライオンか……?」


「頭はそれっぽいけど……体に斑点があるね、ヒョウかな?するとこいつはレオポン?」


 屈んでその生物をしげしげと見た後、首を傾げながら永が言った。聞き慣れない言葉に蕾生も疑問を口にする。


「なんだよ、それ」


「昔、ライオンとヒョウを掛け合わせた動物が見せ物にされてたんだよ。今ではもちろん禁止されてる」


「動物実験までやってるってことか……」


 蕾生の言葉を訂正しながら永は生物の下半身を指差した。


「動物、ではないね。石から出てきたし。こいつの尻尾見てよ」


「──蛇?」


 蕾生が覗き込むと尻尾があるはずの場所には違うものが生えている。尻から出ているそれは鱗状の細長い胴で、尻尾の房であるはずの部分は蛇の頭だった。


「これじゃあ、まるでぬえの出来損ないだ」


 頭は猿、胴体は猪、尾は蛇、手足は虎──という鵺の姿に、この生物は酷似している。


「これが……?」


 初めて見る鵺のようなものに、蕾生は少しの間目を奪われた。鈴心もそれを聞いて一歩足を前に進めて、その姿をよく見ようと目を凝らしている。


「まさか、銀騎研究所は鵺を造ってる……?」


 永の言葉に、蕾生も鈴心も言葉を失った。星弥は一人取り残され呆然としている。その背後から黒い影が蠢いた。


「銀騎!!」


「え?」


 蕾生が気づいて、星弥が振り返るとその目の前にまた別の生物──今度は黒い犬のようなものが牙を剥いていた。

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