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4-3 コレタマ部

 放課後、はるか蕾生らいおが体育館横の部室棟の前で待っていると、星弥せいやが息を切らせてやってきた。


「ごめんね、お待たせ」


「──首尾はどうだった?」


 永が尋ねると、鍵を目の前にぶら下げてにっこりと笑う星弥は勝ち誇った金メダリストの様だった。


「もちろん大成功!はい、これが部室の鍵。部長が責任持って預かるようにって」


「さっすが銀騎しらきサマ!」


 わざとらしく誉めそやした後、永はその鍵を受け取り、角部屋の扉を開ける。

 中に入ると机と椅子が粗雑に置いてあり埃っぽかった。三人は窓を開けて軽く掃除をした後、机と椅子を四つ、班を組む時のように向かい合わせで並べた。


「うん、こんなもんかな」


 パンパンと両手の埃を払いながら星弥が満足そうに部室を見回した。


「じゃあ、まずは祝杯をあげよう」


「──ん」


 永の号令に、蕾生は来る前に自動販売機で買ったパック牛乳を配る。星弥はそれを受け取って弾んだ声を出した。


「わあ、用意がいいね」


 三人はそれで乾杯をした後、各々席につく。すると永が仰々しい口調で切り出した。


「では、コレタマ部の活動を始めます!」


「コレタマ?」


 星弥が首を傾げると、待ってましたと言わんばかりに永が説明した。


「これからの地球環境を考える──略してコレタマ部ね」


「……」


 星弥が無反応なので蕾生は渋々捕捉してやった。


「あれからずっとそのあだ名考えてたんだと」


 蕾生が目撃したのは午後の授業中、永がノートのはじに何かを書いては頭を捻っていた姿だ。

 授業が終わる頃、やっといくつか書いた単語の中のひとつに花丸をグリグリと書いた様を後ろから見ていた蕾生は何とも言えない気持ちになった。


「そうなんだ、か、可愛いと思うよ」


「まあ、俺はなんでもいい」


 どもりながら目を逸らす星弥と無関心の蕾生。

 二人の否定的な反応にもめげずに永は続けた。


「ふ、ヒラ部員は黙らっしゃい。ンン、初日の今日はとても重大な議題があります」


 咳払いで空気感を変え、神妙な面持ちで言えば、つられて二人も固唾を呑んで永の言葉を待つ。


「リンをこの場にどうやって呼ぶのか?──であります」


 改まったわりに想像の域を出なかった議題に、蕾生も星弥も緊張を解いて唸った。


「あー、それな」


「そうなんだよねえ……」


「一番簡単なのはリモート参加だけど、銀騎家の携帯電話やパソコンは無理でしょ?」


 永がそう言うと、星弥も即座に頷く。


「だねえ。電波を傍受されてたら、クラブ作った意味がなくなっちゃう」


鈴心すずねはこの時間だと何やってるんだ?」


 続いて蕾生が質問すると、星弥は小首を傾げながら答えた。


「うーんと、多いのは勉強かな。兄さんが毎日パソコンに課題を送ってくるから、それをやってると思う。ここ数年は研究で忙しくてマンツーマン授業ができなくなったんだよね」


 それを聞いた永が前のめりになって尋ねる。


「ふうん。じゃあ、以前よりもリンは自由なんだ?」


「そうだね、活動範囲は自宅と研究所だけなんだけど、好きな時に勉強したり、読書したりしてるみたいだよ。研究所も顔パスでどこでも入れるし」


「それは普通に軟禁状態だろ」


「まあ……」


 蕾生の冷ややかな指摘に星弥は苦い顔をしてみせた。


「ふむ。やっぱり研究所の敷地より外には出られない感じ?」


 永が問うと、星弥は頷きながら答える。


「難しいと思う、お祖父様から禁止されてるし。わたしから兄さんに頼んでみることも考えたけど──」


「怪しまれるだろうな」


「うん……急にそんなこと言い出したら、ね」


 蕾生の的確な言葉を肯定して、星弥は困った表情で眉を寄せた。


「せめてあそこから出られたらなー。その後こっちの学校に忍び込むくらいはリンなら簡単なんだけど」

 永もぼやくけれど良い考えは浮かびそうにない。


「アナログだけど、交換日記くらいしか思いつかないかなあ」


「そうだねえ、メールやメッセージアプリは危険だから、手書きのノートでやり取りするのが一番秘密は守れる」


 星弥と永のやり取りを聞いて、蕾生は少し苛立って反応した。


「──めんどくせえな、タイムラグもかなり出来るし」


「でも、それくらいしか……」


「思いつかないよねえ……」


 結局この日は良いアイディアが出る事はなく、とりあえず星弥がノートを買っておくことだけが決まって散会となってしまった。

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