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第2話 ツレがオカルトマニアな件

「ライくん、人魚のミイラがニセモノだったって!」


 弁当を食べ終わるやいなや、はるかが携帯電話の画面のニュース記事を目の前に掲げて興奮気味に言った。


「お前……」


 食後のパック牛乳を飲みながら、蕾生らいおは白けて永を見る。


「やっぱりかー、こういうのって大抵が見せ物として作られたヤツなんだよねー」


「お、おう……」


 また始まったな、と思いつつも蕾生は一応相槌を打った。

 悔しそうに歯噛みしながら永はさらに続ける。


「でも、地元の信仰対象なのに科学的メスを入れてくれたこのお寺には敬意を表したい」


 真顔で言う永には彼なりの矜持があるのだろうが、蕾生にはピンと来ない。


「そうか」


 なので相槌もおざなりになるのだが、大好きな未確認生物のことを語る時の永は気にしない。


「あーあ、ツチノコが本当にいたんだから、人魚だっていてもおかしくないのに」


「まあ、そうかもな」


「おとぎ話に出てくる綺麗なお姉ちゃんタイプの人魚じゃなくて、妖怪みたいな──半魚人?いや、半魚の獣?そんなタイプの新生物なら可能性はあると思うんだよねえ」


 流れるようにまくしたてる永の剣幕に、蕾生は少しあきれながら頷く。


「うん、まあ……」


「ライくん、そんなドライな感じでいると大発見があった時に腰抜かすよ?」


「いや、抜かさねえよ」


「わかんないよ? ツチノコが見つかった時だって、そんな態度の一般民衆が驚天動地で慄いたんだから!」


 そう言いながら、永は携帯電話の画面をいじって昔のニュースを出して見せた。


「ほら、世界がひっくり返るくらいにツチノコフィーバーが起きてるって! 発見した研究者なんてテレビに出まくって、世界に影響を与えた日本人のナンバーワンになってるから」


「へ、へえ……」


 永の勢いに押されながら、蕾生はその記事に載っている研究者らしき人物の写真を見た。

 四十三歳と書いてあるけれど、その人物は年齢よりもずいぶんとお爺さんに見えて、研究者って老けるんだなと少し驚いた。


「あー残念だなあ、こんな大事件が僕らが生まれる前に起きてるなんて。歴史の証人になりたかったのに」


「そうかよ」


 蕾生は永への応対に少し疲れて窓の外に視線を移す。

 永は昔からオカルトめいた話が好きで、心霊スポットや未確認飛行物体などの情報を幾度となく蕾生に講釈している。


 最近のお気に入りは未確認生物らしいのだが、蕾生にはイマイチ興味がわかない。ただ、この話題をする時の永はとても楽しそうなので付き合って聞いている。おかげで蕾生もこういった不思議な話にはかなり詳しくなった。


「ライくん、何見て──あ、銀騎しらき研究所だね?」


 窓の外には学校の隣の森林公園を挟んで白い建物の一部が見えている。蕾生は特に意識しておらず、言われて初めてその景色を認識した。


「ツチノコを発見して、全く新しい生態系を確立させたあの銀騎博士がそこの研究所にいるだなんてワクワクするよねえ」


「あのビル、研究所なのか」


「そうだよ。建ったのは最近なのに、ライくんは知らなかったの?」


「興味ねえもん」


 欠伸混じりに言う蕾生に、永は大げさな身振りで言った。


「非地元民め!」


「お前が知りすぎなんだろ」


 頭を掻きながら、蕾生はすでにこの話題から興味をなくしている。それでも永は構わずに続けた。


「噂では、あの研究所で新しい未確認生物が発見されて、着々と第二のツチノコ的なものの発表の準備をしてるって」


 何かとても重要な情報を暴露するかのような、ワルイ雰囲気を込めて永はふざける。


「お前はほんと好きだな。ユーマ? っていうやつ」


 あきれながら蕾生が言うと、永は急に真面目な顔でそれを訂正する。


「違うよ、ライくん。UMAなんてオカルトじゃない、これは、れっきとした生物学なんだよ」


 永はゆっくりと言い聞かせるように語りかけるが、最後にはいつもこう言うので、蕾生は話半分に聞くことにしている。


「見つかるといいな」


「心がこもってない!」


 普段は物静かで飄々としている永だが、未確認生物のことになると熱弁を振うようになる。こうなると適当に相槌を打ちながら、落ち着くのを待つしかない。


「とにかく銀騎研究所っていえばさ……」


 そこからたっぷり三分間、蕾生は頷きながら思考を停止していた。我に返ったのは、永が何かのプリントを机に広げ始めてからだった。


「で、来月の連休あるでしょ? 一般公開するんだって」


「……何を?」


「だから、銀騎研究所が市民向けに見学会を開くから申し込んだんだよね、二人分」


 ニヤリとピースサインを掲げる永の言葉に蕾生はやられたと思った。


「あー、まあ、そうなるか」


「当然でしょ」


 そう言って笑顔で背中を叩かれれば、蕾生は断れない。というか、断る選択肢はない。


「まあ、別にいいけどよ……」


 永が行くところには必ずついていくのが蕾生にとっては当たり前のことだった。

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