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3-2 亡き父

「お父様が亡くなったのはわたしが産まれる直前。確か、三十六歳、くらいだったかな?それより前に何か大怪我をして、そのせいで──」


「あの写真の人だよね?あれは若い頃の?」


 戸棚の中に飾られた若い男性の写真立てを指してはるかが言うと、星弥せいやは素直に頷いた。


「うんそう。まだ二十代だと思うよ。その頃大怪我をしたから、あの写真以降のものがないんだって」


「へえ……」


「その親父さんはどうだったんだ?そういう陰陽師的な力……」


 蕾生らいおが恐る恐る聞くと、永は少し逡巡した後答えた。


「彼は──、まあ、力はあったんじゃない?彼についてはよく知らないんだ」


「わたしも知らない。兄さんがどれくらい強い術者かも知らないくらいだし」


 すでに故人となっている父親の話がどう関係しているのか、蕾生にはよくわからなかった。

 だが、永の歯切れの悪い口ぶりが少し気になった。そんな蕾生が違和感を考える間もなく、永は少し笑って問う。


「そういう訳で銀騎しらきが僕達と因縁があるって意味、わかった?」


「俺達がかかってるぬえの呪いが、陰陽師に関係があるってことか?」


「うーん、不正解」


「え?」


 永は陽気な声音で、けれど渋い顔をして首を振った。


「逆なんだ。銀騎が陰陽師だから、僕らにかけられた呪いに興味を持たれた」


「どういうことだ?」


「銀騎の目的は、実は僕にもよくわからないんだよね。何回か転生を繰り返してるうちにいつの間にか絡まれるようになっててさ。多分、専門家から見たら、僕らの呪いって特殊なんじゃない?だからしつこく追い回すのかなって」


「じゃあ、銀騎を探っても鵺の呪いを解く方法はわからないってことか?」


 銀騎の家が陰陽師だと聞かされた時から、蕾生は自然にこの呪いは銀騎がかけたのかもしれないと思い込んでいた。

 永は肩を竦め手のひらを掲げて答える。


「うーん、だと思うよ。銀騎が僕らの呪いを独自に分析してる可能性もあるけど、基本的に彼らの興味は鵺そのものだから」


「鵺そのもの?」


「うん、何度かライは捕まりそうになってる。多分、銀騎は僕らを捕らえて隅々まで調べたいんじゃない?調べて何に使うのかはわからないけど」


 そこまで聞いて、星弥は大きく頷きながら言った。


「そっか、お祖父様ならそうかも。知的好奇心の塊みたいな人だから」


「ライくん、僕ら人体実験されちゃうかもよー?」


 少し戯けた永の態度をいなす余裕は今の蕾生にはない。代わりに少し睨んでやると永も咳払いをして真面目に言った。


「とにかく、僕らが鵺の呪いを解こうと頑張ってると絶対に邪魔してくるのが銀騎ってワケ」


「そういうヤツらの所にリンが転生したのか……」


 鈴心は偶然だと言い張ったが、今の蕾生にはとてもそうは思えなかった。


「ライくんだってここまで聞けば、何かあるって思うでしょ?」


 ここでようやく蕾生にも鈴心の置かれている状況が「出来過ぎて」いることがわかった。

 鵺に興味を持った銀騎詮充郎が前回の転生においてリンに目をつけ、何らかの方法で身内に取り込んだ可能性は十分に考えられることだ。


「そうだな。でも陰陽師ってそんなことまで出来るのか?」


「さあ、そこは銀騎さんに聞きたいところなんだけど」


 永が視線をやると、難しいテストを解くような顔をして星弥は眉を顰めていた。


「人一人を狙い通りに転生させる……?うちにそういう秘法があるかどうかはわたしにはわからないな。兄さんなら知ってるかもしれないけど」


「だよね、じゃあそこは一旦棚上げで。話を変えるけど、御堂みどうって銀騎の分家だよね?」


 その言葉を聞いて、星弥は呆れるような、怖さを感じているような声で率直な反応を見せる。


「よく知ってるんだね……」


「まあ、ちょっとね。分家にも術者はいると思うけど、リン──鈴心すずねにはそういう力は?」


「あ……」


 それまで自分の家のことを隅々まで知っている永に微な嫌悪感を見せていた星弥だったが、そう問いかけられて急に怯えた表情を見せた。

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