「そうなの? 二人とも、こういうのに興味あるんだ」
「そりゃあ、あの
「あ、ああ……」
「
「ま、まあ、少し……?」
「そうなんだ、若いのに珍しいね。お祖父様が脚光を浴びた頃ってわたし達まだ生まれてないのに」
言いながら銀騎星弥は苦笑している。お祖父様と呼ぶ様が少しよそよそしくて、あまり喜んではいないように思えた。
「だからさ、この前の見学会はすごくためになったよ。
「兄さん、緊張しいだから頼りなく見えたんじゃない?」
永も彼女の微妙な雰囲気を察したらしく、兄の話題をつけ足してみると、幾分か顔を綻ばせ始めたので、少しほっとした。
「そんな事なかったよ! 皓矢博士のキメラ細胞の研究、医療への実用化に向けて着々と進んでるって聞いて、夢みたいな話だなあって思ったんだよね!」
「うん……最近はそれでずっと研究室にこもっててあんまり会えないの」
寂しそうな顔を見せる彼女に、永は話を畳み掛ける。
「キクレー因子、だっけ? 特殊なDNAで、それを解明すると生物学の根幹が変わるかもしれないんでしょ?」
「すごいね、そんな専門用語まで知ってるなんて」
「そりゃあ、両博士の論文は全部読んだから」
嘘やはったりではなく、永のことだから全部読んだんだろうなと蕾生はこっそりあきれた。
「そうなんだ。論文て全部英語なのに、ますますすごいね」
「僕は銀騎両博士の大ファンだからね!」
両、の部分に力を込めて永は笑った。すると、銀騎星弥は少し言いにくそうに喋り始める。
「あの……もしよかったらなんだけど」
「うん」
もしかして作戦通りのことが起ころうとしているのでは、と永と蕾生の間に緊張が走った。
「
「──うん?」
二人が想像していなかった角度の話が来て、永は思わずうわずった声を上げた。
「あのね、親戚の子を今うちで預かってるんだけど、その子がお祖父様や兄さんの研究についていろいろわたしに聞くの」
「ハア」
「でもね、わたし、兄さんみたいに生物学とかさっぱりでよくわからなくて。全然答えられないから、その子に冷ややかな目で見られちゃって……」
「ほう」
永の相槌はなんだか間が抜けてしまっている。会話の行方を懸命に頭の中で試行錯誤しているからだ。
「わたしの代わりに周防くんにその子の話し相手になってもらえたらいいなって思ったんだけど……どうかな?」
「そ、それはつまり、銀騎研究所に行ってってこと?」
「あ、うん。自宅も研究所の敷地内にあるから、もちろん」
──きた、と蕾生は心の中で拳を握った。
永を見ると、目が喜んでいた。即答しそうになる気持ちをぐっとこらえて一応謙遜してみせる。
「いやあ、でも、身内の銀騎さんを差し置いて、僕なんかができるかなあ」
「そんなに深い内容じゃなくていいの。その子、まだ十三歳だから。外部の人が知ってるような基本的なこともわたしはうまく説明できなくて……」
「そう? それならお邪魔させてもらおうかな」
わざとらしく飄々と永は言ってのける。銀騎星弥は嬉しそうに声を弾ませた。
「本当? ありがとう! ──それと、唯くんも一緒に来てくれる?」
「あ、ああ、俺も行ってみてえな」
自分も無事に呼んでもらえた安堵で蕾生は思わず前向きな回答をしてしまった。嬉しそうな彼女の笑顔につられたのだ。
「よかった! じゃあ、今度の日曜日はどうかな?」
「いいよな、永」
「もちろん」
二人が頷くと、銀騎星弥は上着のポケットから携帯電話を取り出した。
「じゃあ、時間とかは調整してから……連絡先交換しない?」
「あ! 僕、携帯電話カバンの中だ。ライくん持ってるでしょ、交換しといて」
「お、おう……」
永に言われて蕾生はズボンのポケットから携帯電話を取り出す。
「じゃあ……」
銀騎星弥は自分の携帯電話を蕾生の携帯電話の上にかざした。軽快な電子音が番号の交換が成功したことを伝える。
画面の中に女子の名前が入ったのを見て、蕾生は気恥ずかしい心地がした。
「じゃあ、後で連絡するね」
「おう、また」
満足げに笑った銀騎星弥は、プリントの束を持ってその場から立ち去った。
「ちょっと、ライくーん? 初めて女の子の連絡先記録したんじゃない?」
永はニヤニヤしながら蕾生の腕をツンツン突いて揶揄う。
「うっせ! てか、お前携帯持ってないって嘘だろ」
常に情報を取得できる状態にいないと気が済まない永が、携帯電話を携帯していないなどあり得ない。
「バレてたか」
永はペロと舌を出して目を逸らした。
「あいつの番号、俺から教えても大丈夫な雰囲気だったよな?」
「あ、僕はいいです。知りたくないので」
永はきっぱりと冷たく断った。その態度に蕾生もさすがに首を傾げる。
「お前、あいつに関しては徹底してるな……」
「だから、彼女との連絡係はライくんってことで」
「まあ、いいけど」
「別にイイのよ? それ以外でも使っても!」
「しねえよ!」
「ハッハッハ、青春だねえ」
「永!」
ムキになって声を上げてしまったことと、それを永に見透かされている恥ずかしさで蕾生の手の中の携帯電話は汗まみれになってしまっていた。