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2-3 会いたい

「ライくんは初めてのことで違和感があると思うけど、あえて現在の僕達のことを『今回の転生』って呼ぶけど……」


「ああ、それでいい」


「今回の転生では、リンの合流が遅れていたんだ」


「そうか?十五、六になる頃だろ?だったら今がちょうど──、あ」


 単純に出会った結果だけ考えれば今回も矛盾はないように思えたが、蕾生らいおは昨日拒絶されたことを思い出した。

 これまでのはるかの説明から想像すればリンも仲間としてぬえの呪いと向き合うことになるんだろう。だが、昨日の姿からはそんな雰囲気は感じられなかった。


「僕もうまく説明できないんだけど、いつもだったら『リンがくる』っていう感覚があって、『やっぱりきた』って思うんだ」


 永にしては珍しく感覚的な物言いだった。


「だけど、今回の転生では『リン遅いな』って思ってしまった。そんなこと考えたことがなかったのに。これは十分異常事態なんだよ」


 だから自ら銀騎しらき研究所に乗り込んで調べようとしたのか、と蕾生は思った。


「昨日会ったアイツはそういう雰囲気じゃなかったよな。なんていうか、俺達を拒絶してた」


「結果として僕達はリンに会えたけれど、合流には至っていない。もしも昨日会えなかったら、リンは合流しない可能性だってある。そんなことは今まであったことがない。それに昨日会ったリンはとても僕達と同い年には見えなかった」


 確かに、昨日見たリンの姿は高校生には見えなかった。せいぜい中学生か、小学校高学年といったところだ。

 その姿を思い出すとともに、蕾生はあの時ひどく永が狼狽したことも鮮明に思い出した。


「だから、永はあんなに取り乱してたんだな」


「ええっと、話を少し戻すけど、リンが遅いって思った時に、少し思い出したことがあって」


 へへ、と照れくさそうに笑った後、真面目な顔になって永が続ける。


銀騎しらき詮充郎せんじゅうろう。あいつが前回の転生でリンに異常な興味を示していたんだ」


「あのVTRのじいさんか?異常な興味って?」


 昨日の銀騎詮充郎の姿を蕾生は思い出す。

 皺が深く刻まれた顔の中に、落ち窪んだどす黒い目。しゃがれているのに心の奥深くまで突き刺さる声。

 まるで死神のような威圧感で睨まれたらきっと身がすくんで動けないだろう。あんな存在とこれから関わらなければならないと思っただけで背筋が寒くなる。


「ちょっとそれはまだ言えないかな。とにかくリンと銀騎詮充郎の間に何かあったのかもしれないと思って、僕は昨日君を連れて研究所に行ったって訳」


 永の更なる隠し事に、蕾生の苛立ちがますます大きくなった。大袈裟に睨むことで意思表示を試みる。


「──」


「だから、言えないことがあるのはゴメンって!一度に話すには僕達の歴史は多過ぎる」


 永は蕾生の目の前で両手を合わせて謝った。ここまでしても教えてくれないなら、次の機会に期待するしかない。


「……まあ、わかった。つまり、昨日のお前の目的は、刀とリンか?」


「そうだね、ただリンのことは確信があった訳じゃないから、本来の目的は刀の方だった。だけど、いざ研究所に入ってみたらリンの気配を感じたもんだから、僕も驚いてしまって──。後は知ってのとおり」


「そうか……」


 永にしてみたら、九百年もずっと仲間だと思ってきた相手に昨日突然拒否されたことになる。

 蕾生にはその時間の重みはまだわからないけれど、もし、永にあんな態度を自分がとられたらと思うと、昨日あんなに永が取り乱したのもわかる。


 永に自分以外にもそんな相手がいたことは少しショックだし、嫉妬のような感情と相まって、蕾生にはリンに対する怒りのようなモヤモヤした感情が生まれていた。


「で、ミッションの話をするよ?」


「お、おう」


「まずは、もう一度リンに会いたい」


 蕾生がリンに感じている不信感など欠片も持っていないとわかる真剣な表情で永は訴えた。

 そんな澄んだ目をされては、自分の持ってる感情が子どもっぽいものに思える。

 リンのことも永と同じように身内のこととして考えなくてはならないんだと、蕾生は実感した。


「そうだな。でも、どうやって?昨日のはただラッキーだっただけだろ?それに──」


「うん。リンははっきりと僕達を拒絶してきた。だからリンが今回一緒にいてくれる可能性は低いかもしれない。もう、嫌になってしまったのかも。とても酷い運命だから」


 永のこれまでの苦労はとても測れるものではない。酷い、と言い切る程の経験を永とリンはしてきたのだろう。


「それでも!」


 永は自ら奮い立たせるように、きっぱりと蕾生に訴える。


「僕はもう一度リンに会いたいんだ」


 少しだけ声が震えている。揺らぐ瞳の中にはリンに対する純粋な思いがある。それを感じ取ったからには、蕾生が戸惑う理由はない。


「──わかった。絶対にお前をリンに会わす」


「ありがとう、──ライ」


 やっと安堵したように破顔した永を見て、蕾生の心は決まった。


「で、具体的にはどうするんだ?」


「うん。それなんだけど」


 急に永らしい余裕の笑みを浮かべて──、というかワルくニヤリと笑って言い放った。


「ライくんに、女の子をナンパして欲しいんだよね!」


「──ハア!?」


 突拍子もない言葉に蕾生は思わず声を上げる。

 同時に昼休み終了のチャイムが甲高く鳴り響いた。

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