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第6話

 外観は至って普通の家。外からは生垣が邪魔して1階部分はよく見えないが、見える限りの窓はシャッターが閉められていた。


「じゃあ、私の言った通りに」


「わかった」


「うん」

 津川さんが生垣の門を潜って中に入ったタイミングからスマホのストップウォッチの開始ボタンを押した。

 タイムリミットは2分。2分以内に何も連絡がなければ僕ら2人も中へ入る。


「こうしていると何だか緊張するね」


「そうだね。津川さん大丈夫かな……」


「それに関してはあまり気負わないで。真琴が進んで言ったことだから。何があって君には責任はないよ。君は自分が巻き込んだと思っているかもしれないけど、それは違うよ。僕だって田尾さんは元クラスメイトなんだよ。元クラスメイトだけど、いなくなったら心配するよ。だからこれは、君が発端で起きていることではなくて、僕らはただ単に利害が一致しただけ。そうでしょ」


 津川さんの言っていたことに内心反対していたが撤回しよう。彼、達川君とは仲良くできそうだ。


「ありがとう」


「それは早すぎない? せめて田尾さんが見つかってからでしょ」


「今のはここまで連れてきてくれたお礼」


「わかった。そう言うことにしておくよ。それより、真琴が中に入ってから何分が経った?」


「丁度、1分ってとこ」


「あと1分以内に連絡がなければ僕らも突入する。体と心の準備をしておこう」

 そうだ。何が起こるのかわからないのだから、最悪も考えて準備しておかないと。


「あとどのくらい?」


「30秒……そろそろ連絡くれてもいい時間だよね……」


「まだ30秒ある。最悪も考えて武器になりそうなものでも準備しておこう」


 武器になりそうなもの……僕は何も持っていない。替えの服とかの一式は実家に置いてきたし、今持っている鞄に入っているものは財布とハンカチくらいだ。武器として使うにはどれも心許ない。仕方ないから僕は素手だ。


「あと10秒で時間だよ……」


「よし……」


 達川君もすごく緊張している。


「あと5秒……4……3……2……」



 覚悟を決めたその瞬間、津川さんは現れた。


「わあっ! びっくりした……何でそんなところに隠れているの?」


「何もなくてよかったよ……」


「いやいや、それよりも『閑静な住宅街だから変な行動しないで』って言ったよね。怪しさ全開じゃん」


「まあでも、人は誰も通ってないからセーフってことで……ダメかな?」


「まあ、人が通ってないのならギリギリセーフかな」


「よかった。それよりもどうだったの?」


「それが……どこの窓もシャッターが閉まっていて外からは何も……でも得られた情報もあるよ。家を1周回って見たけど庭の雑草は全然生えていなかったし、ポストの新聞は3月からしか溜まっていなかった。と言うことは最近までは出入りがあったってことでしょ。2つ隣に住んでいる昔よく遊んでもらったおばあちゃんがこの辺のことに詳しいから聞き込みに行ってみよう」


 何だか沙也加に1歩近づけた気分だ。

 この調子なら、2つ隣のおばあちゃんのところも期待できそうだ。

 期待と希望を胸にいざおばあちゃんの家に。現れたおばあちゃんは、期待も希望も持てないくらい老ぼれた人だった。


「おばあちゃん久しぶり。私のこと覚えてる?」


「はて、誰だったかな? なんせ見たことある顔だから余計に思い出せんの……」


 大丈夫だろうかこの人。


「おばあちゃん。真琴だって言えば思い出せる?」


「あーあー、真琴ちゃんか。これ随分久しいものだからわからんかったわ。えらい大っきいなって綺麗になったな。この間までこんなに小さかったのに大きいなったな〜」


「何言っているのよ。つい1年前にも来たでしょ。その時も同じこと言ってたよ」


「あら、そうだったかしら。あはははは」


 多分ダメだこの人。


「それよりも、おばあちゃんに訊きたいことがあるんだ」


「真琴ちゃんの言うことにゃあ、何でも答えるよ」


「ありがとう。そんでね、おばあちゃん。沙也加の覚えている?」


「沙也加ちゃんで? 覚えとるよ。田尾さんのとこのお孫さんよ」


「そう、その沙也加。最近この辺で見かけてない?」


「見とらんな。沙也加ちゃんもそうやけど、お子さんも見とらんのよ。引っ越してどっか行ってしまったんかいな」


「そうなんだ。ちなみに、いつくらいから見てない?」


「あれはな。雨が降っとた日よ。風も強うてな家がよう揺れたんよ。あれは怖かったよ。また家が飛ばされるかと思ったよ」


「瀬戸君。ここ最近で雨が降って風が強かった日を調べて」


「ああ、うん……」


「それで、お家大丈夫だったの?」


「飛ばされはせんかったけど、電気が止まってしまってな、真っ暗でなどうしようかと思った時に沙也加ちゃんが来てくれてな。いやほんま、感謝しかないよ。おかげでこの街1番の老ぼれになってしもうたんよ」


 話の脈絡が全然わからない。

 次々に違う話になり変わっている気がする。


「瀬戸君。どうあった?」


「うん。ここ最近だと、2月の27日。天気は1日中雨で風速も最大が7メートルで最小も3メートル。1日中風は強かったみたい」


「じゃあやっぱり、3月まではこの辺でいたと言うことか」


 津川さんと僕がそれで納得しようとしていたら、横から達川君が水をさした。


「そうとも限らないよ」

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