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第3話

27日の朝、8時に帰ってきたのはいいけど、今日は9時から授業が始まる。お風呂に入って軽食をとってギリギリ間に合うかどうか。

 そんな状態だったけど、全力で急げば何とか授業には間に合った。だけど、授業には全く集中できないし眠くてたまらなかった。何度か意識を失っていて、受けた意味がないくらい授業内容が入ってこなかった。


「竜也が授業中に寝ているなんて珍しいな。明日は雪でも降るんじゃないか?」


「地理的な要因を考えると可能性としては低いけど、季節的な要因を考えれば可能性はあると思うよ」


「竜也、どうしたんだよ。今日は一段と元気がないな」


「気にしないでくれ。ただの寝不足だ」


「女でも部屋に連れ込んでいたのか?」


「暖じゃないんだからそんなことはしないよ。あ、そうだ。それより、暖って戸末縞東高校出身だったよな?」


「ああ、それがどうした?」


「津川さんだっけ? 沙也加の友達に話を聞きたいんだ。仲介をしてくれないか?」


「あー、いいけど、津川は彼氏持ちだぞ?」


「そんなんじゃないって!」


「まあ、一応、連絡はしてみるけど、津川は警戒心が高いって言うか、晴翔以外の男子からのメッセージはほとんど返さないって有名だから、期待はしないでくれ」


「……わかった?」


 もしも、沙也加が僕に連絡してこない原因が、あの隣人が言っていたように見限られたのだとしたら、津川さんが接触することはない。そうだったらな、この捜索自体も終わる。津川さんから返信が来るまでは、僕から津川さんに接触するのもやめておいたほうがいいな。と言うか顔を知らないから暖なしでは会えもできないか。

 その夜、暖から謝罪とともに、津川さんとのトーク画面の写真が送られてきていた。そこにはこう書かれていた。


(同じ学部の瀬戸が、田尾さんについて話がしたいって言ってるんだけど、会ってくれない?)


(何で私?)


(田尾さんと津川さんって仲良かったじゃん)

(どんなお願いなのか聞いていないけど、頼む)

(同じクラスだったよしみで)


(無理)


(はい。失礼しました)


 最後の一文に関しては、3時間も前なのに既読すらもつけられていない。

 津川さんにとっての暖の位置付けみたいなものがよくわかった。

 それよりも、津川さんの協力が得られないようだから、捜索は困難を極めることになる。隣人も何度か連絡をくれているが、見つかったと言う報告はまだない。それどころか手がかりさえも完全になくなった。振り出しに戻ったと言うより、プレイ中の双六自体をバラバラに壊された気分だ。

 とにかく、君の捜索の手立てが、地元のスーパーを回ってくれている隣人だけになっている。これを打開しないといけない。だが、現実問題、打開策が1つもない。僕にできることはもうない。強いて言うなら、地元に戻って君を地道に探すくらいだ。それしかないのだけど、優柔不断な僕はそれができずにいた。

 僕も地元の大学にしていれば、こう言う時にいち早く君を探せるのに。

 親元を離れて遠くの大学を選んだことを1番後悔した瞬間だった。

 次の朝。

 考え事をしすぎて、またしても寝不足だった。


「竜也また寝不足か?」


「昨日はシンプルに寝れなかった」


「夜更かしはほどほどにしないと体壊すぞ」


「心配ありがとう。夜更かしって程じゃないけど気を付けるよ」


「おうよ。そう言えば竜也は昼飯どうするんだ? ちなみに俺は学食に行く」


「俺はいいよ。昨日食べそびれたおにぎりがあるからそれで腹を満たす」


「そっか。じゃあ、また後でな」


 実を言うと食欲がないわけではない。暖に誘われた学食を断ったのは、あの場が苦手だからだ。大勢の人がいて回転を重視しているあの場に慣れないからだ。それだったらといつも、落ち着ける中庭にわざわざ出てきて昼食を摂っている。


「やほー。隣いい?」


「あ、はい、どうぞ」


 知らない女子に話しかけられた。

 しかも僕の隣に座った。ベンチは他にも空いているところがあるのにだ。普通に昼食を食べ始めた。と言うか、「やほー」と言われた? もしかして僕の知り合いなのか?


「ん? どうした? そんなに私の顔ばっか見て。何かついてる?」


 どれだけ思い出そうとしても全然思い出せない。僕はこの人を知らない。


「あ、いや……すみません。あ、あの、俺先に行きますね」


 おにぎりも食べ終わったし長居するのは気まずかったからベンチから立ち上がると、見ず知らずの女子に腕を掴まれた。


「待って」


 僕は走って逃げ出したかった。

「あ、あの、僕に何の用ですか?」


 逃げても碌なことが起きないとわかっていても逃げ去りたかった。


「君、本当にわかってないの?」


 謎の女子は深くため息をついていた。


「あ、あの……心当たりが全くないのですが……」


 謎の女はまた深くため息をつた。


「等々力の友達で沙也加の彼氏の瀬戸竜也って君でしょ?」


「え、は、はい……僕ですけど……何か?」


 謎の女は鞄に手を入れ1枚のカードを取り出した。そのカードは僕も持っている。この大学の学生証だ。


「津川真琴……き、君が?」

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