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キミがいない️️ナツ
倉木 元貴
ミステリーサスペンス
2024年07月31日
公開日
15,202文字
連載中
大学1年の花火大会から半年後、付き合っている彼女の沙也加が突然音信不通に。彼女の家に向かうが、もう既に引っ越しをしていていなかった。1度は自分の家へ帰るが、大学で沙也加の友達である沙也加と接触する。津川と共に沙也加を見つけるためにあらゆる手を使い、沙也加を追い詰める。果たして沙也加と会うことはできるのか。
そんなサスペンスミステリー作品です。

第1話

 君との待ち合わせは、いつも成都駅の前だった。初めての夏祭りも、その次の年の夏祭りも、いつもこの場所だった。

 大学1年の夏。2022年8月20日、僕らの地元で開催される花火大会に向かうため、僕らは成都駅で待ち合わせをしていた。本当は1日中一緒にいたいが、君がどうしても浴衣を着るからと、実家に戻り成都駅での待ち合わせになっていた。

 この駅には渋谷のハチ公のように、目印になる待ち合わせ場所はない。だから駅を出てすぐの公衆電話の前で、いつも待ち合わせをしていた。

 今日はお祭りだということもあって、臨時の電車が走っていて、僕より先に君がいつもの公衆電話の前に着いたらしい。後を追いかけるように改札を出ると、人混みの中必死に背伸びをして僕を探している浴衣を着た君の姿があった。その姿が可愛くて愛おしくて、浴衣姿の君に見惚れてしまっていた。

 そんな僕を君が見つけると、決まってこう言っていた。


「もう! 見つけてるならこっちに来てよ! 話しかけてよ!」


「ごめんごめん……」


 僕の胸を優しくグーで叩く君が可愛くて、いつも意地悪をしてしまっていた。

 僕が何度謝っても君は許してくれなかった。 そんな怒った君が、機嫌を直すのには綿菓子の力が必要だった。


「わたがし奢ってよね……」


「わかった」

 でも、今日だけはなかなか君の機嫌は直らなかった。


「絶対、馬鹿にしているでしょ!」


 君はまた僕の胸をポンポンと叩き、顔をふぐのように膨らませていた。


「馬鹿になんかしてないよ。ただ、可愛いなって思っただけ」


「それを馬鹿にしているって言うんじゃないの?」


「そんなことないよ」


「じゃあ、なんで笑っているの?」


「沙也加が可愛くて微笑ましいから」


「もう! そう言うのいいから。早く行こ」


 そう言って君は一人先に歩いて行った。

 君は隠しているつもりなのだろうが、耳が赤くなっているのが後ろから見てもわかる。

 僕は手を繋ごうと君の腕を握ったが、機嫌の悪い君は僕の手を振り払った。この人混みの中迷子になったら、身長の低い君を探すことは困難を極める。どうにか機嫌を直してほしいが、綿菓子を待つしかなさそうだ。

 必死に君について行ったが、僕は君を見失った。祭りはまだ始まったばかりだ。君が一番最初に向かう出店は、大体は見当がついている。


「もう。一人で先々行かないでよ」


「竜也が歩くのが遅いだけ」


 そうここは綿菓子屋さんの前だ。

 先に一人買うこともなく、店の前で僕を待っていた。

 約束通り僕は綿菓子を購入し君に渡した。


「竜也! ありがとう!」


「どういたしまして」


 綿菓子を渡すと、君は子供のように目を輝かせていた。気がつけばいつもの優しくて可愛い君に戻っていた。

 そんな君が僕は大好きだった。


「ねえ、竜也は何が食べたい?」


「沙也加の好きなものでいいよ」


「だめ! いつも私ばかりが食べたいもの選んでいるから、たまには竜也が選んで」


 そう言われても、僕は特に食べたいものはない。ベタな焼きそばやたこ焼きは気分ではないし、かき氷を食べられるほど暑さも感じていない。辛めのものが食べたい気はするけど、今の僕の気分はイカ焼きだ。君がイカを嫌いだから何年も祭りでは食べていないけど君の機嫌を損なわないためにもここは我慢して、おやつ系で考えよう。だからと言って、チョコバナナのようなデザート系よりかはもっとあっさりしているものが食べたい。甘さを欲してないわけじゃないけど、大判焼きやたい焼きのような甘味ではなく。きゅうりもいいけどそうじゃない。あっさりしすぎていない君の好物。


「じゃあ、ベビーカステラ」


「わかった。じゃあ、それ買いに行こっか。って、ベビーカステラって私の好物だよね。もう、竜也の好きな物って言ったのに」


 君はまた頬を膨らませていた。

 割と本心で言っていたつもりが、ついつい君のことを考えてしまっていた。


「でも、ベビーカステラを沙也加と一緒に食べたい」


 君を納得させられるような言い訳は浮かばなかったが、優しい君は不満を漏らしながらも許してくれた。

 そっぽを向いて隠していても、照れているのは明白だった。


「もうわかったよ。そう言うことにしておいてあげる。来年はちゃんと食べたい物決めといてよ」


「わかった」


「本当いっつもそうなんだから。私たち付き合ってからも1年もなるのだから我慢なんてしないでよ」


「してないから大丈夫」


「そう? ならよかった」


 そう言って笑う君の笑顔を、僕はずっと見ていたかった。

 僕らはベビーカステラを売っている店に向かい、ベビーカステラを1袋購入し海の見渡せる海岸にやって来た。ここに来たのは後5分で始まる花火を見るためだ。


「竜也も写真撮ってね!」


「下手だからSNSに載せられるような、綺麗なものは撮れないと思うけど……」


「いいよそんなの。竜也がどんなふうに花火を撮るのかに興味があるから」


 いざ花火が始まると、写真どころではなかった。


「綺麗……」


 花火に見惚れる君の横顔に僕は見惚れて、気がつけば君の横顔を写真に収めていた。


「もう、何撮ってんの? 私なんかより花火の方を撮ってよ」


「ごめん綺麗だったからつい……」


「そんなお世辞言ったって何も出ないよ」


 そう言って、君は決まって照れていた。


「お世辞じゃなくて本心だよ」


「わかった。わかったからもうやめて」


 そう言いながら、大して暑くもないのに団扇を使って顔を仰いでいた。

 花火に照らされて顔を赤めた君もまた綺麗だった。

 花火が終わった帰り道、人混みではぐれないように僕らは手を繋いだ。


「花火すごく綺麗だったね」


「うん……」


 花火よりも何よりも君の顔を収めた写真が撮れたことが嬉しかった。


「来年もまた一緒に来れたらいいね」


「今度こそは食べたいものを決めておくよ」


「絶対だよ。約束だからね。じゃあね」


「うん。また……」


 駅までは同じだか帰る方向は違う。改札まで君を送りそこでお互い別の方向へ別れた。

 それから半年が過ぎた2023年2月22日のことだった。君からの連絡が一切途切れたのだった。

 今すぐにでも君のいるアパートに向かいたいところだが、あいにく僕らは遠距離恋愛で、今日は水曜日だということもあってすぐには動けなかった。どうせまた、スマホを壊したとか返信をするのを忘れていたとかそういう類のものだと勝手に決め込んでいた。

 僕の人生で1番後悔をしたのはこの時だった。

 2日経った、2023年2月24日金曜日。君からの連絡は誰を通してもなく、僕は君のアパートへ行くことを決意した。

 荷物は少なく、財布に携行食に水。スマホの充電器に着替えを一式リュックサックに詰めた。

 僕のアパートから君の家までは、飛行機を使えば3時間くらいで着くが、今の僕にはそんな余裕はない。それに、飛行機なら最短で明日の朝、07時45分発の便になる。夜行バスを使えば時間はかかるが安く、飛行機で行く時と同じくらいの時間に着くことは可能だ。ただ、飛行機も夜行バスも地元の1番大きな駅まで時間で、君のアパートはそこからも随分とかかる。それを考慮した時、僕が君のアパートに着く頃には11時ごろになる。バイトが入っているかもしれない君が、そんな時間にアパートにいる確率は低いと考える。入れ違いになるのは避けたい。地元に帰るのが夜中になるけど仕方ない。新幹線と夜行バスを使って、できるだけ早く君の元へと向かう。

 現時刻は18時50分。19時04分発の新幹線には乗れそうだ。その新幹線が21時24分に駅に着き、そこからはバスに乗り替える。このバスが21時29分発の最終便だから駅に着いたその瞬間から走るのは確定だ。もしこれを逃してしまえば、次は明朝の05時15分発のバスが最短。このバスは、飛行機や夜行バスと地元に着く時間はたいして変わらない。だから、乗り遅れたならお金を無駄にするだけじゃない。時間も大いに無駄にする。なんとしても乗らなければならないバスだ。

 新幹線が駅に着いたそれと同時に僕は座席から立ち上がり、新幹線が完全停止する前だったからバランスを崩しながらも、我先に先頭で扉の前に立ち、開くと同時に走ってバスターミナルへ向かった。

 僕らの地元は田舎だから、たとえ金曜日だとしても空席は必ずある。予想通り空席が8席も残っており、運転手に話を通すと快く乗せてもらえた。このバスは僕らの地元の駅に23時35分に着く。その駅の最終電車は23時42分。またしても走らないといけないが、この電車に乗れたら君のアパートがある最寄り駅に0時32分に着く。

 真夜中に君のアパートを訪れるのは君に迷惑がかかるから、近くにあるホテルで夜が明けるのを待つ。

 もちろん僕はホテルの予約なんてしていないから、こんな日の夜中から泊まれるホテル。一人で入るのは少し寂しいが田舎だということもあって泊まれる場所はそこしかない。

 僕以外にこんな経験をしている男子がいるなら教えて欲しい。ラブホテルに男一人で宿泊なんて世にも珍しい体験だ。

 僕の乗っている夜行バスは大きな橋を2回渡り、朝と夕方だけ大渋滞を起こす国道を南に走った。

 もうすぐ僕らの地元で1番大きな駅へ着く。少し早いが降りる準備を始める。持ってきた水と半分食べた携行食をリュックサックに詰め込み体の前に抱えた。

 バスが駅に着くと僕は誰よりも早く座席から立ち上がり、乗客の中で1番にバスから降りた。

 それから僕は20秒くらい走った。田舎でバスのロータリーから駅までが徒歩でも1分圏内でとてもよかった。今だけは田舎であることを褒めよう。

 券売機で切符を1つ買い、改札に立つ人に手渡しハンコを押してもらい、停車している電車に乗り込んだ。

 現時刻は23時37分。5分も余裕があるということは、バスから走らずとも間に合っていたのかもしれない。まあいい。これで君のアパートにに確実に近づくことができた。

 電車に揺られること約1時間。0時32分、予定通りに電車は君のアパートの最寄り駅に到着した。ここからは空きのあるラブホテルを探す。と言ってもこの街にあるラブホテルは2つだけ。どちらもネット上では空きがあるそうだが、真偽は不明だ。

 さすが田舎といったところだろうか。

 空きの心配をしていたが、埋まっている部屋が少な過ぎて経営の方が大丈夫なのかと心配になる。僕としては空きがあるからそれはそれでありがたい。

 現時刻は0時56分。君のアパートには7時ごろに着けばいいから、5時間は寝られる。でも寝坊はできないから確実に起きられるよう頭は高く、目覚ましは5時半から2分おきに鳴らして、音量は最大。電源が切れないように充電器に差しっぱなしで、置く場所は枕元。早めに起きられたら朝風呂に入る。眠い目もそれで一気に覚めるだろう。

 そう考えながら眠りについた。

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