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6.講義終わりの出来事

今日最後の講義が終了してみんな続々と帰っていく。

庄司と諏訪さんは最後の講義を受けていないので、

残っているのはさちと俺だけだ。

さちはあれだけ長時間の講義だったのに疲れている様子がない。


さち「これで今日の講義は終わりやな」

俺「長かったな」

さち「帰って復習しとかんとな」

俺「え、帰ってまで勉強するの?」

さち「復習して記憶を定着させんと役に立たへんで」


勉強に対してこんなに真面目に取り組む人を、

今まで見たことなかった。


さち「何なら恭平の勉強も見てあげよか?」

俺「いや、俺は……」


そこまで真面目に勉強しようと思ってなかった。

ただなんとなく大学に進学しただけで……。


さち「まあテスト前でもええか。昨日のアニソンランキングの番組見た?」


俺の雰囲気を見てある程度察したようで、

唐突に話題を変えてきた。


俺「見たぞ」


こういう話ならついていける。

たしか一般人の投票で一番人気のアニソンを決める番組だった。

いろんな曲を聞けたり懐かしのシーンとか見れたりするので、

けっこう見ている。

まあ定番曲が多いけど。


さち「ランキングにいまいち納得いかへんのよな」

俺「わかる」


ああいうランキングって大体古いのが勝つんだよな。

思い出補正というやつなのか単純に投票する人が多いのか。


さち「古い曲が勝つこと自体はええねん」

俺「そうなのか? てっきりそこが気になってるのかと」

さち「うちらの年齢で[あしたのジョー]とかに入れるか?」

俺「そこはもっと年上の人が入れたからでは?」

さち「ちゃうねん、10台の集計にも100位とかに入ってたんよ」

俺「まあ作品自体は有名だし」

さち「有名でも投票しようっちゅう気にならんと思うねんな」

男「なかなか面白いことを話しているね」


教室で雑談していたせいか知らない男が話しかけてきた。

身長160cmぐらいの眼鏡をかけたクールな感じの年上っぽい男性だ。


さち「恭平の知り合い?」

俺「いや、さちの知り合いじゃないの?」

さち「うちも知らへん」

男「最初から投票の選択肢として書いてあった可能性があるね」


不審がるこちらを尻目に俺たちの話に混ざってきた。

でも選択肢か。それがあっても選ばないんじゃないかな。


さち「選択肢あるからって選ばへんのと違うか?」


さちも気になったのか男に質問を返す。

年上の男が話しかけてきたのに本当に人見知りしないな。

こんな調子で誰彼構わず付いていって、

大変なことにならないだろうかと心配になる。


さち「恭平もそう思うやろ?」

俺「わざわざ選ぶ理由ないもんな」

男「1


なかなか興味深いことを言ってきた。

たしかにどうしても選ばないといけないなら、

きっと名前を聞いたことがあるものを選ぶだろう。

それが曲名から選ぶならなおさらだ。

作品名ならともかく曲名までは覚えていない。

作品名=曲名ならかなり選びやすいだろう。


俺「なるほど、それなら有名でなおかつ作品名と曲名が一致しているもの選ぶな」

さち「でもなんでそないなことするんやろ?」

男「幅広い投票結果にしたかったんだろうね」

俺「どういうこと?」

さち「なるほど、そうせんと覚えてるもんしか入れんちゅーことやな」

男「正解」


二人は分かってるみたいだけど俺にはさっぱりだ。

さちが俺の顔を見て説明を始めた。


さち「一般人に好きなアニソン10曲教えてと言っても無理なんは分かる?」

俺「分かる」


俺も好きな演歌10曲選べとか言われたら好き以前に10曲出てこない。


さち「選択肢がある場合、思い出せなくても10曲選ぶことは出来るんよ」

俺「ああ、なるほど」

さち「それに曲名を見れば思い出すケースもある」


たしかに好きな曲だからと言ってすぐ思い出せるとは限らない。

曲名を見れば思い出すことも多い。


さち「さらに一定の年代ごとに選ばせれば結果がばらけやすくなるんよ」

男「まあこの方法だと結局知名度勝負になるんだけどね」


なるほど、全部聞き覚えのない曲から選べと言われたら、

曲の知名度で入れるしかないからか。

だから作品タイトルと曲名が一緒なのが上位だったと。

なかなか面白い話だ。


男「あくまで仮定の話だよ」


男が笑いながら話す。

詳しい説明を受けてようやく理解できたけど、

さちはあれだけの会話で理解できたのか。


男「こういう話は面白かったかい?」

さち「おもろいな」

俺「そうだな、面白いと思う」

男「私はブレストサークルというものをやっていてね」

さち「怪しいサークルやな」

男「大したことはやっていない。ただ好きなものを語るサークルさ」

俺「いまいち活動内容が分からない」

男「なら一度来てみるといい、来週月曜日の18:00にこの教室だ」


男が去っていった。

なんというか、すっと混ざってさっと去っていったな。

人の心に入り込みやすいタイプだと思う。


俺「どうする?」

さち「うちは行ってみたい」

俺「俺はやめとくかな」

さち「え……、興味あるん違うの?」

俺「ついていけそうにないし」


さっきの感じだと理解力がないと話にならない。

俺がいてもガヤぐらいにしかならないだろう。


さち「そうなんか……」


さちがものすごく落ち込んだ顔をしている。

なんか申し訳なくなってしまうな。


さち「うち、恭平と一緒に行きたい」


まっすぐ俺の目を見て真剣な顔でそう告げられた。

そうか、夜に知らない人の集まりに行くのは何があるかわからない。

下手すれば襲われるかもしれないだろう。

知り合いと行きたいと思うのは当然かもしれない。


俺「わかった、女の子一人じゃ危ないだろうしな」


キョトンとした顔でこちらを見ている。

あれ?違うのか?


さち「教室で何か出来るわけないやろー」

俺「いや、ほら帰りとか危ないし」

さち「恭平が狼かもしれんやろ、あははー」


さちがニッコニコで答える。

何が面白かったんだろう。


さち「という訳で今日は恭平の御宅訪問をします」

俺「どこに「という訳」があるのか」

さち「恭平に送り狼された時に迅速に警察呼べるようにやで」

俺「そんなことしないし、そもそも名前がばれてる時点で警察呼べるよ!?」

さち「ということで行くでー」

俺「ツッコミは無視かよ!?」


という訳?で家まで案内することになった。


・・・


さち「これおいしそう」


さちが笑顔で俺の買い物かごに食材を放りこんでいく。

どうしてこうなった。

帰り道で晩御飯の話になって買い出しがまだと伝えたら、

「うちが一緒に選んだるわ」と言い出した。


さち「お、ほうれん草安いやん」

俺「俺、ほうれん草とか買ったことないんだけど」

さち「茹でるなり炒めるなりすればすぐ食べられるで」


買い物かごにほうれん草も追加された。

うーむ、炒めるだけならいけるか?


最初は自炊しようと思ったけど数日で面倒になった。

今はご飯とみそ汁だけ作っておかずは購入している。


俺「お、刺身セールしてる。これにしよう」


一人暮らしすると大体好きなもののループになる。

俺の場合、大体は総菜系と刺身のループだ。

肉も好きだけど焼肉ぐらいしか出来ないし、

フライパンが汚れるのが嫌であんまり食べない。


さち「あ、恭平、これおいしいで」


さちが試食コーナーで何かを食べている。

見た感じウインナー?か何かのようだ。


さち「これもうとこ」

恭平「俺の意見は?」

さち「うちが美味いいうてるんやから信用してーな」

試食のおばちゃん「あら、若いのに夫婦?」

さち「ちゃうちゃう」

試食のおばちゃん「そうなの、なら彼氏?」

さち「彼氏かって聞いてるで?」


(・∀・)ニヤニヤしながらこちらに振ってきた。

周りからはそんな風に見えてるのか。

さちの彼氏……。そんなことになったらいいなぁ。

美人だし愛想いいし話していて楽しいし。

でも俺みたいなのがそうそうモテるとも思えない。

あ、もしかして変に答えるとまずいかも。


試食のおばちゃん「表情がコロコロ変わる子ね」

さち「信号機とちゃいます?」

俺「なんでさちまでツッコミ側なんだよ」

試食のおばちゃん「あら呼び捨て。もう旦那面してるのね」

さち「そうなんですよ、「さち、メシ」とかで困ります」

俺「内容も言葉遣いも全部嘘だろ!?」

さち「あははー」

試食のおばちゃん「仲が良いのね。おまけしてあげる」

さち「ありがとうございます!!」

俺「あ、ありがとう」


かごの中に入っていたウインナーの袋に特売シールを貼ってくれた。

てっきり外部の人だと思っていたけどスーパーの人だったのか。


さち「いい人でよかったな」


レジで精算を済まして二人で一つずつ袋を持つ。

俺が持つと言ったがまったく譲る気配がない。

なんか本当に新婚みたいだ。


さち「家はここから近いん?」

俺「もうすぐだよ」


スーパーからすぐ近くに俺の家はある。

何の変哲もないアパートだ。


さち「ここが恭平のハウスね」

俺「まさか公式でパロディされるとはね」

さち「それぐらい有名やからな」

俺「宮崎吐夢はおっぱい占いの方が、あっ」

さち「うちはCカップやで!!」


どやぁと胸を張っているのがかわいい。

よかった、もろに下ネタだから引かれるかと思った。


さち「ん?エロい目で見ても触らせてあげへんで?」

俺「そんな目で見てない!!」


嘘だ。実際はかなりエロい目で見てしまった。

服の上からでもしっかり分かる膨らみ。

Cカップというのは普通ぐらいのイメージだけど、

実際に見てみるとけっこう大きく見える。


さち「意外と綺麗にしてるやん」


きょろきょろと辺りを眺めている。

家を見られるのはちょっと恥ずかしい。

まだ引っ越してきたばかりだから綺麗だったのが幸いだ。


さち「ふーん」

俺「荷物適当に置いてくれればいいから」


さちは荷物を置いて冷蔵庫に生ものを入れ始めた。

置いておくだけで構わなかったんだけどな。

でもこういうフォローをしてくれるのはすごく嬉しい。


さち「自炊しとらへんな?」


たださちはさちなりに目的があったらしい。

冷蔵庫の中身を確認して自炊していないと確信したようだ。


俺「だって面倒だし……」

さち「栄養バランス偏るで」

俺「自炊してもそこは変わらないと思う」


悩んでいるような顔をしている。

顎を手に当ててちょっと首をかしげる仕草はかわいい。


さち「まあええわ、じゃ、そろそろ帰るわ」

俺「え、あ、ああ、またね」

さち「またなー」


突然帰ると言われて困惑する。

いきなり態度が変わったように思うけど何だったんだ?

もしかして怒らせるようなことした?

でも挨拶はしてくれたし……。


相変わらずさちは何を考えているか分からないな。

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