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第37話 仙台駅前ダンジョン第2~9層 突撃!屋台アタック!

■仙台駅前ダンジョン第2層 <屋台エリア>


「うぉぉぉおおおおおおおおおお!!」


 人外じみた咆哮がダンジョンに響き渡る。


「どけどけどけどけどけーーーー!!」


 少女の絶叫がそれを追いかける。


 咆哮の主はクロガネ。

 ラーメンの屋台を押して、無数に群がるアルキキノコを弾き飛ばす。


 絶叫の主はソラ。

 華麗に宙を舞いながら、空中から飛びかかるアルキキノコを打ち倒す。


 アルキキノコは、本来4層から出現し、近づけば攻撃してくるものの凶暴とまではいえないモンスターだ。キノコに小さな手足がついたフォルムは可愛らしく、モチーフにしたキャラクター商品も展開されている。


 そのアルキキノコが、皺だらけの醜い姿となり、鋭い牙と爪を生やして次々と襲いかかってくる。数えるのもうんざりするほどの群れ、群れ、群れ。


 一匹ずつ相手をしていたのではキリがない。

 対抗するために、クロガネが持ち出したのが手近な屋台だ。

 ラーメン屋台に瓦礫を詰め込み、それを押して猛烈な勢いで驀進ばくしんしている。

 進路に立ちふさがるものはキノコも障害物もお構いなしに粉砕。

 通り過ぎた後に原型を留めるものは何一つない。


 ソラはその屋台の屋根に立っている。

 シイタケやヒラタケなど、傘の広いアルキキノコが滑空で襲ってくるのだ。

 それを蹴り墜とす、蹴り墜とす、蹴り墜とす。

 一度の跳躍ごとに、3体、4体、5体。

 宙を舞いながら連続で撃墜する。


「クロさん、右、人!」

「うぉぉぉぉおおおおっしゃぁぁぁあああ!!」


 ソラが指す方向に、屋台が急カーブを決める。

 屋台がドリフト横滑りしながら無数のアルキキノコを巻き込む。

 転換した方向の先には、即席のバリケードに立てこもる一団がいた。


「アカリぃぃぃいいい!! いるかぁぁぁあああ!?」

「アカリさーーーーん!! いたら返事してーー!!」


 バリケードの周りを転回しながら叫ぶ。

 内側から男の声が返ってきた。


「アカリって人ならいないぞ! だが、助かった!」

「わかった。こっちも急ぐんでな。ちぃと掃除したらお暇するが大丈夫か?」

「立て直す時間がもらえた! もう大丈夫だ!」

「道はだいぶ片付けたから、今のうちに上に脱出した方がいいよ」

「了解だ! ありがとう!」


 クロガネはジャイアントスイングの要領で屋台を振り回し、バリケード周辺のモンスターを一掃する。度重なる衝撃に耐えきれず、屋台は半壊し、車輪がひしゃげ吹き飛んでしまった。


「ちっ、便利だったのによう」

「あんた、よかったらこれ使ってくれよ! あんたなら使えるだろ!?」


 商売人風の男が内側から顔を出し、バリケードの一角を指す。

 そこには『後藤商店』というロゴの入った、立て看板のようなものがあった。

 クロガネはそれを見て、にぃと歯を剥いた。


「ありがてえ、借りてくぜ!」


 クロガネはそれ・・を受け取り、再び全力で駆け出した。




■仙台駅前ダンジョン第9層 <石灰の森>


 仙台駅前ダンジョンの7層から9層は、珊瑚骨兵コーラルゴーレムの出現エリアだ。

 石灰質で出来た骨格は脆く、木の棒で叩いただけでも簡単に折れる。

 だが、アルキキノコと同様に、コーラルゴーレムもまた変質していた。


 くすんだ灰白色だった骨格は、いまは血のような赤色や、真珠を思わせる乳白色に変わり、強度が大幅に高まっていた。

 そんな強化をされたコーラルゴーレムの群れが、上層から竜巻の如く降ってきた何かを阻止しようと殺到する。


「とぉぉぉおおおりゃぁぁぁあああ!!!!」


 しかし、止まらない。

 漆黒の鉄塊がコーラルゴーレムたちをマッチ棒のように軽々とへし折っていく。

 クロガネが手にしているのは畳1畳分はある大きさ、厚さの巨大な鋼板。

 それを片手にひとつずつ持って、砕氷船の如くコーラルゴーレムを粉砕しながら突き進んでいた。


 その名は<巨人の盾ティタンシールド>。

 大きく、分厚く、重く、そして盾と呼ぶには大雑把すぎる鉄塊。

 巨人系モンスターからドロップするレアアイテムだが、重すぎてネタ装備として扱われている防具だ。『後藤商店』の男も、客寄せの看板代わり使っていただけだ。まさか実戦で扱える人間が現れるなど、今日までは夢にも思っていなかった。


 クロガネが盾を振るうたび、『後藤商店』のロゴがひらめき、何体もの珊瑚骨兵コーラルゴーレムがただの石塊に変わっていく。

 大人数人がかりでやっと動かせる代物を、クロガネは団扇うちわか何かのように軽々と振り回していた。


「クロさん、前方、デカいやつ!」

「おうっ!」


 視線を上げると、10層へ続く階段の手前に巨大な骸骨が見えた。

 下半身が存在せず、上半身だけで3階建てのアパートくらいの高さがある。

 頭蓋骨には、鬼を連想させる捻じくれた角がでたらめに生えていた。


 ――骨禍禍禍禍禍禍禍禍禍コカカカカカカカカカッッ


 下顎骨が小刻みに振動し、歯を打ち鳴らして嗤った。

 長大な腕を無造作に振るい、コーラルゴーレムたちをゴミのように払い除けた。

 骸骨とクロガネの間に、何も存在しない空隙が生まれる。


「いざ尋常に、ってか? 悪りぃが、いまは付き合ってらんねえんだ……よッッ!」


 クロガネの両腕から2つの鋼板が放たれる。

巨人の盾ティタンシールド>をぶん投げたのだ。

 2枚の鉄塊は一直線に宙を走り、骸骨の左右の鎖骨を砕いて突き刺さった。


 ――骨餓餓餓餓餓餓餓餓餓コガガガガガガガガガッッ


 巨大骸骨が身を捩らせる。

 だが、鎖骨を砕かれた両腕は垂れ下がったまま動かない。


「悪いけど、速攻決めさせてもらうね」


 頸骨に絡みつく人影――ソラがつぶやいた。

 切り株のような第三頸骨を、両脚でがっちりとホールドしている。

 クロガネが<巨人の盾ティタンシールド>を投げるのと同時に、その影に隠れて飛び出していたのだ。


 ロックした頸骨を支点に全身を540度回転一回転半させ、遠心力とテコの原理で捻じり切る。

 ソラよりも大きいしゃれこうべが、支えを失い、地響きを立てて石畳に落下した。


「リベンジマッチはいつでも受け付けてるぜ」

「頭が取れちゃったら無理なんじゃないの?」


 即席の合体技ツープラトンで巨大骸骨をあっさり撃破すると、二人は下層へ向けて再び走り出した。

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