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第36話 仙台駅前ダンジョン第1層 停電

■仙台駅前ダンジョン第1層 <屋台エリア>


 照明用の電源が途絶えたのか、ダンジョンの中は暗い。

 煌々と輝いていた天井照明が消え、非常灯の緑がぼんやりと辺りを照らしていた。

 ソラはデイバックからLEDランタンを取り出し、電源を入れる。


「そ、外から来ましたよね!? 入口が開いたんですか!?」


 屋台の店主らしき男が小走りに駆け寄ってきた。

 手には売り物だったのだろう、三日月型のペンライトを持っている。

 仙台藩初代藩主、伊達政宗の兜飾りをモチーフとしたものだった。


「ああ、一応な。まだ瓦礫をどけてるところだろうから、ちゃんと救助が来るまで大人しくしてた方がいいぞ。入口に殺到して将棋倒しなんて目も当てられねえ」

「えっ、それじゃあなたたちは……?」

「善良な一般市民にしてボランティアってとこかな」

「ああ、ボランティアだ。ついでに人探しに来た」

「そ、そうですか?」


 予想外の答えに、店主は若干混乱する。

 崩落したダンジョンに一番乗りで駆けつけるボランティアなど聞いたこともない。


「なに、焦ることはねえ。あの様子なら1時間とかからねえだろうぜ」

「すみません、携帯もつながらず、外の様子がわからず焦ってしまって……」

「ホントだ。圏外だね」


 ソラはスマートフォンを取り出して電波をチェックした。


「基地局がやられちゃったのかな?」

「だろうな。スマホで連絡を取るのは難しそうだ」


 ダンジョン内には通信各社の小型基地局が無数に設置されている。

 ダンジョン由来の新技術も使われているそうだが、門外漢のクロガネたちに原理はわからない。


 ともあれ、目下の状況ではスマートフォンが繋がらないという事実が重大だった。

 災害用伝言ダイヤルや、メッセージアプリでアカリに向けた連絡を残しているが、通信ができないのではそれを確認する手段もないだろう。


「そういえば、人探しに来たって言ってましたよね?」

「おう、そうだが?」

「みんな避難所に集まってます。そこで探してはどうでしょう。案内しますよ」

「そりゃありがてえ。助かるぜ」


 二人は店主の案内に従って進む。

 薄暗い屋台の群れは静寂に包まれていた。

 昼間の喧騒がまるで嘘のようで、異世界にでも迷い込んだ気分がした。


「この先の広場です。あの、写真か何かあればお手伝いできると思いますが」

「それはありがてえが……」

「アカリさん、ほとんど映ってないんだよね」


 ダンジョンに向かう途中、写真が必要になる可能性を考えてアーカイブでアカリが映っているシーンを探していたのだ。

 しかし、声は入っているものの、肝心の姿は映っていない。


 唯一映っていたのは<ギルタブルル>との戦いのあと、クロガネの応急手当をしていたときだ。

 だが、これも後ろ姿しか映っていなかった。

 平時であれば、これが黒子に徹するカメラマンのプロ意識なのかと、二人も舌を巻いていたことだろう。

 しかし、いまはそのプロ意識が逆効果になっている。


「写真くらい撮っておけばよかったね……」

「いまさら言ってもしょうがねえ」


 広場に到着した。

 そこには疲れた顔の人々が石畳に直接座り込んでいた。

 場所を取るからだろう、椅子やテーブルは端に寄せられている。

 内訳は、半分が配信者、1割が屋台の関係者で、残りが観光客と言ったところか。

 怪我をしているものもおり、あちこちからうめき声が聞こえた。


「おーい、アカリ! いるかー!」

「アカリさーん、いますかー!」


 店主と分かれ、二人は人混みを縫ってアカリを探しはじめる。

 店主は入口が開通したことを避難所のまとめ役に話してくると言って別れた。

 念のためアカリの外見や特徴などを伝えておいたが、口頭のみでどこまで伝わるかはわからない。


「見当たらないね」

「ここにはいなそうだな。2層に降りるか」


 一通り回ってみたが、アカリの姿は見えない。

 2層へ降りる階段へ向かうと、先ほどの商店主がまたやってきた。


「待ってください! 下に降りるんですか!?」

「ああ、この辺にゃいなそうだからな」

「下層は危険ですよ。モンスターが上がってきていて、みんな1層に避難してきたんです。安全地帯のはずだったのに……」


 店主が顔を両手で覆い、崩れ落ちて膝をつく。

 ダンジョンの3層までは安全地帯――それが常識であり、日常だった。

 迷宮震の影響なのか、その常識は通じなくなり、非日常が溢れ出た。

 避難していた人々が、みな一様に疲れた顔をしていたのも無理のないことだ。


「忠告ありがとよ。だが、用事があるんでな」

「危なかったら引き返してくるから大丈夫!」


 二人は店主に例を言い、第2層への階段を下りはじめる。

 その背中を、1機のカメラドローンが音もなく追っていった。

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