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第28話 仙台駅前ダンジョン第1層 スカイランナー vs クローン戦士

 ソラのクローンが、片手盾を突き出し半身の構えになった。

 ソラは間合いを詰めつつも、クローンの左側へ回り込んでいく。

 クローンは盾を構えたまま、ソラの動きに合わせて身体を回転させる。


「さあ、いよいよ試合開始です。解説のクロガネさん、先に仕掛けるのはどちらでしょうか?」

「普通ならリーチのある武器持ちから仕掛けるだろうが、スカイランナーなら――」


 クロガネが言い終わる前に、ソラが動いた。

 一気に間合いを詰め、踏み込んだ勢いのまま跳躍。

 駒のように回転し、後ろ回し蹴りを放つ。

 クロガネ直伝の高速ローリングソバットだ。

 しかし、その蹴りは盾であっさり防がれ、鈍い金属音だけが残った。


「ふぅん、そんな感じね。じゃあ、こういうのはどうっ!?」


 蹴り。

 蹴り。

 蹴り。

 蹴り。


 内回し蹴り。外回し蹴り。前蹴り。下段蹴り。掛け蹴り。踵落とし。飛び膝。横蹴り。重心を落としての払い蹴り。

 ありとあらゆる種類の蹴りが、嵐の如く吹き荒れる。

 隙間のない連撃にクローンは防戦一方だが、ほぼ・・すべての攻撃を片手盾バックラーで防いでいた。


「スカイランナー選手、開幕早々、凄まじい連打です! しかし、ダメージはわずかでしょうか?」

「んー、動きは派手だがまずは挨拶ってとこだな。実力を計っている段階だ」


 クロガネの予想通り、ソラの連打が止む。

 半歩下がって距離を開けた。

 打撃の届く間合いではない。

 これは剣の間合いだ。


「さ、次はあんたの番だよ」


 ソラは右手を伸ばし、手の甲を相手に向けてくいくいと手招きする。

 明らかな挑発だが、クローンの表情は動かない。

 闘う意志があるのかさえ疑わしい虚無の表情。

 しかし、反撃のチャンスは逃さなかった。


「戦士スキル<強打スラッシュ>」


 感情のない声とともに、白刃が振るわれる。

 真っ向正面、唐竹の振り下ろしが、ソラの脳天目掛けて風を切る。


「わぉっ! 大迫力!」


 ソラは身を捻り、最小限の動きでそれをかわす。

 そのままの勢いで回転し、後ろ回し蹴りを放つ。

 高速の踵がクローンの顔面に直撃し、大きく仰け反った。


「あー、やっぱり当たった。ダメだよ、攻撃のときはしっかりガードを上げとかないと」


 ソラは左腕を上げ、右手でパンパンと叩いてみせる。

 盾をちゃんと構えていれば、今の蹴りは入らなかったはずだ。


 試合中の相手へのアドバイス。

 これも明らかな挑発だが、クローンの表情は動かない。

 虚ろな目をしたまま剣盾を構え直す。


「もう、張り合いないなあ。じゃあ次はこれっ!」


 高めの前蹴り。

 片手盾がそれを遮ろうとする。

 だが、ソラの蹴りは盾をすり抜けて・・・・・クローンの側頭部に直撃した。


「おおっと、今の蹴りはなんでしょうかクロガネさん! 盾をすり抜けたように見えましたよ!?」

「ああ、いまのは……いや、コメントが来てる。【ブラジリアンキック!】【膝の柔らかさがパねぇ!】入力速えな。おっと、それはいいか。そのとおり、今のはブラジリアンキックだ」


 クロガネは、アカリから渡されたタブレット見ながら応じた。

 ブラジリアンキックとは、その名の通りブラジルで生まれた技だ。膝から先を自在に動かすことで、蹴りを放った後から軌道を変化させる空手発祥の技である。


「動きが素直過ぎるんだな。開幕のラッシュでも下段と払い蹴りはあっさり入ってた。教科書通りじゃ、スカイランナーは捉えられねえよ」


 ブラジリアンキックのダメージで、クローンはまだふらついている。

 ソラは畳み掛けることはせず、カメラに向かってポーズを決めたり、バク転を決めるなどのパフォーマンスをしてあえて回復を待っていた。もし客席があったなら、手拍子の催促でも始めていたことだろう。


 コメントは大盛り上がりだ

 美技で魅せ、パフォーマンスで客を惹き込む。

 軽妙にして華麗なプロレス。

 これが父から受け継いだソラの信条スタイル魅せるプロレスルチャ・リブレだった。


「おっとー、ちょっとはしゃぎすぎちゃったかな」


 回復したクローンに背後から斬りかかられるが、捻り側転ロンダートで軽々かわす。


「それじゃ、ルチャらしく決めちゃおうか!」


 バク宙蹴りサマーソルトで突き飛ばし、距離を開ける。

 すかさず駆け込んで跳躍。

 首を両腿でがっちり挟み込む。

 それを支点に全身を振り、扇風機の如く回転。

 クローンは踏ん張って耐えるが、遠心力に翻弄され重心が崩れる。


「無理にこらえると、首が逝くよっ!」


 回転が最高速度に達した瞬間、ベクトルの向きを下に変える。

 クローンの身体がつむじ風に巻き込まれた落ち葉のように舞う。


 ――轟音


 クローンが背中から地面に叩きつけられる。

 床板が粉砕され、破片が舞い散る。

 塵芥じんかいがパラパラと落ち、大の字になったクローンに降り積もる。

 埃で白く汚れる身体は、それを払おうという動きすらできない。


「ひゅー、デビュー戦から大技を決めやがる」

「い、いまのはなんて技なんですか?」

ヘッドシザース・ホイップ両足鋏投げ。ウラカンラナとかフランケンシュタイナーとも言うな。それをアレンジしたスカイランナーのオリジナルだ」


 ――天地無用トルネイド・竜巻投げインベルソ


 それはルチャ・リブレの代名詞とも言うべきヘッドシザースを進化させた、先代スカイランナー風祭 鷹司が得意とした必殺技フィニッシュホールド

 ソラは、亡き父の技を見事に再現してみせたのだ。


 両手を広げて天を仰ぎ、小さな声で呟く。


(デビュー戦、見てくれた? お父さん)


 クロガネのゴングが試合終了を告げる。

 ソラは満面の笑みとともに、両手でVサインを決めて飛び跳ねた。

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