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第27話 仙台駅前ダンジョン第1層 スカイランナー vs クローン(ジョブ付き)開幕

「なにこれ……あたしのクローン?」

『くくく、その通りダ。正確には、戦士レベル1となった貴様を再現していル。この玩具と闘い、我が権能ジョブ運命の力を思い知レ』


 ソラを文字通り生き写しにしたクローンが構えを取る。

 半身になって左手のバックラー片手盾を突き出す構えはなかなか堂に入っていた。


「あっ、すみません。イレギュラーイベントなので、撮影許可いただけませんか?」


 いざ開戦か――というところでアカリが手を上げた。

 その手には<記者証>が握られている。


『ふん、許可すル。ジョブ運命に逆らう愚を、低能なる天然有機化合生物どもに教えてやるがいイ』

「配信するの? じゃあ着替えるからちょっと待ってて」

「はーい、私はカメラの準備してますね」


 ソラはジャージの上下を脱ぎ捨てる。

 ジャージの下から表れたのは、片方の肩を大胆に露出したクロップトップへそ出しのシャツに、レギンス、膝下まである編み上げのロングブーツという出で立ちだ。涼し気なスカイブルーを基調とし、アクセントに白いラインが幾筋か走っている。ソラの名前の通り、青空をイメージした衣装だ。

 背中にかかる髪をヘアゴムで一つにまとめれば着替え完了だ。


 なお、手持ち無沙汰のクロガネは、ソラが脱ぎ捨てたジャージを畳んでバッグにしまった。


「カメラ準備オッケーです。ソラさん、準備ができたら挨拶からお願いできますか」

「こっちも準備オッケー! いつでもいけるよ!」

「ではいきますよ! 3、2、1」


 アカリが右手をすっと下ろす。

 撮影開始の合図だ。

 ソラはカメラに満面の笑みを向け、声を張る。


「はじめまして! WKプロレスリング公式チャンネルへようこそ。今日はサプライズがふたつあります。まずひとつ目はこの配信! な、な、な、なんと! あの陀亞真だあま神社でのゲリラ配信です! これは相当レアなんじゃないですかっ!?」


 ソラが<神社>のことを知ったのは昨日の今日だ。

 いかにもすごそうに話しているが、実際のところは知らない。

 また、人間とは大したことがないことでも、自信たっぷりにすごいと伝えれば、案外勢いに飲まれてしまうものである。


 実際、さっそくコメントが付きはじめた。

 アカリのスマートグラスに【神社の中って撮影禁止だよな?】【この娘だれ?】【かぁぃぃ】【脳みその間か】【壁の像の中に自分に似たやつが絶対に1体はいるらしいよ】といったコメントが流れていく。

 とくに拾えそうなものはないので、一旦スルーだ。


「そして第二のサプライズ! 何を隠そう、このあたしが登場してること! 往年の名レスラー、スカイランナーの名を受け継ぎし、超絶可憐な女子高生、スカイランナーⅡのデビュー配信の瞬間に立ち会えるなんて、視聴者のみなさんはラッキーだね!」


 ソラは人差し指と親指で指ハートを作り、カメラに向かってウインクする。

 コメント欄は【かわいい】だの【太ももがむちむちだと……いいね!】だの【格ゲーの女キャラみたいな体型だな。かっけぇ】だの、そういうコメントで埋め尽くされている。

『風祭青空そら』というコンテンツ・・・・・は強いと予想してたが、想像を超える盛り上がりだ。アカリは自分の読みが当たったことに、内心でガッツポーズをする。


 しかし、容姿にまつわるコメントには触れない。

 振ったところで「ありがとう」くらいしか反応のしようがなくて膨らまないし、男に媚びていると受け止められると女性ファンがつかない。この種のコメントについてはスルーすると決めていた。


「【ザ・フォートレスはどうしたの?】とコメントが来てますね。クロガネさんは今日はどうしたんですか?」

「昨日の配信で怪我をしちゃったので、今日は故障欠場です。見学に来てるけど、血に飢えた野獣みたいなとこがあるから乱入してくるかも!?」


 ソラがクロガネの方を手のひらで指し、アカリのカメラがその先を映す。

 そこには包帯まみれで不機嫌そうにあぐらをかいているクロガネの巨体があった。

 もちろん、不機嫌そうなのは演技なのだが、コメントでは【こっっっっわ!】【冬眠から叩き起こされた熊みたい】【いや、ゴリラだろ】【ヒバゴンだな】など好き放題言われている。


「それで、どうして<神社>で突発配信をすることに?」

「ジョブを辞退しようとしたら、そこの脳みそさんが怒っちゃって」


 脳みそフトダマが水槽でピカピカと点滅する。


『我は脳みそさん・・・・・などという名ではなイ。偉大なるアメノフトダマであル。ジョブを不要などと妄言を吐く天然有機化合生物どもに、ジョブの有用性を教育するために配信を許してやっタ』

「フトダマさん、解説ありがとうございます。ジョブのないスカイランナーと、ジョブのあるスカイランナーのクローンが1対1で闘い、優劣を競うということでよろしいでしょうか?」

『競い合いになどならヌ。あるのは一方的な蹂躙のミ。ジョブ運命に抗う己の蒙昧を痛感せヨ』


 スマートグラスに【クローン?】【何の話だ?】【脳みそ、相変わらず偉そうがすぎるw】などと言ったコメントが流れていく。


 アカリはカメラを横に振った。

 画角を調整し、右手前にオリジナルのソラ、左奥にクローンが映るようにする。


「あちらが例のクローンですね。剣と盾を装備していますが、見た目はスカイランナーそっくりです。図らずも配信デビュー戦がご自身のクローンという形になりましたが、この一戦にかける意気込みは?」

「ルチャの、プロレスの魅力を感じてもらえるよう、精一杯がんばります!」


 ソラはカメラに向けてファイティングポーズを取る。

 対象的に、背景に映るクローンは棒立ちのままぴくりとも動かない。

 闘うためだけに作り出された――ということだろうか。


『茶番が長イ。早く始めロ』

「あいよ。それじゃゴングだ」


 カーンと甲高い金属音が響き渡る。

 クロガネが、小型ゴングと木製ハンマーを手にニイッと笑った、

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