■仙台駅前ダンジョン第1層 <神社:拝殿>
参道を進んでいくと、さすがに屋台もなくなっていく。
敷き詰められた玉砂利の中央に伸びる石畳の突き当りに拝殿がある。
拝殿の正面には縄のれんがかかっており、アカリはそれを手で除けてくぐる。
「なんだか居酒屋みてえだな」
「お邪魔しまーす」
続いてクロガネとソラが縄のれんをくぐる。
そこには五十畳以上はあろうかという板間が広がっていた。
壁際には無数の彫刻が並び、クロガネたちをぐるりと囲んでいる。
座禅を組んだ
「なんつうか、悪趣味だな」
「ニンジャを信じてる外国人がイメージする神社を十倍酷くした感じだね」
国籍不明の空間だった。
それでも土足は禁止のようで、上がり
三人は靴を脱ぎ、板間に上がった。
板間の中央には大きな賽銭箱があり、左右に「撮影禁止」の札を持った二頭身の伊達政宗人形が立っている。
賽銭箱の上には太い
「ガラガラを鳴らしますんで、ソラさんは二礼二拍手一礼をお願いします」
「はーい」
アカリは賽銭箱に据え付けられた読み取り機にスマートフォンをかざし、賽銭を決済する。
金額はいくらでもいいが、とりあえず100DP。
大金を払えば何か特典があるのではと海外の富豪が1億DPを奉納したことがあるが、結果は何も変わらないというオチがついたそうだ。
ガラガラと鈴が鳴り、続いてソラが柏手を打つ。
天井がないせいなのか、音はほとんど響かず闇に吸われていく。
ソラが手を合わせ、最後の一礼をする。
――じじじじじじじじじ
ゼンマイのような音。
方向は、上だ。
闇の中から、近づいてくる。
――じじじじじじじじじ
ぼんやりと青白い光が降ってくる。
辺りが青く染まる。
こぽこぽと、水音がする。
――じじじじ、じじ、じ
巨大な円筒が、賽銭箱の向こうに降りた。
下手なマンションにある貯水タンクよりも大きい。
円筒は半透明で、
こぽこぽと、間欠的に水泡が上がっていた。
「うわ……きも……」
「むう……」
ソラとクロガネは思わず眉をひそめた。
その原因は円筒の中に浮いているものだ。
肉色をした皺だらけの物体。
脳髄にむき出しの眼球が2つ。
下部からは無数の白い糸がだらりと垂れ下がり、水中を漂っている。
それは、すさまじくグロテクスなクラゲのようだった。
『よくぞ我が神社に参っタ。
機械音声。
半端に人間らしく、半端に機械らしい声が円筒から発せられる。
調整不足の音声合成ソフトで作ったような声だ。
よくよく見ると、円筒の下部にはスピーカーが備えられており、そこから数えきれないほどの配線がどこかに向かって伸びている。
『我は運命とジョブを司りし神、アメノフトダマ。天然有機化合生物たちヨ、求める
蛍の如く舞いながら、やがてひとつの形を作っていく。
四角い枠の中に、複数の文字列が浮かぶ。
それは――有り体に言えば、ゲームのステータスウィンドウだった。
「ドットが荒くて読みづらいんだけど」
「スーファミくらいの解像度だな」
『スーファミなどという16bit機と一緒にするでなイ。我はその
声からして機械のようだと思っていたら、スーファミに例えたら機嫌を悪くした。
いや、正確には機嫌が悪くなった気がする。
見た目は変わらないが、ムッとしている風に聞こえた。
クロガネは、声を潜めてアカリに尋ねる。
(これ、怒ってんのか?)
(さあ、脳みその表情なんてわからないですし。それよりソラさん、ジョブ候補には何が表示されましたか?)
(うーんとね……)
ソラはスマートフォンの癖で、ウインドウを2本指でピンチアウトした。
すると画面が拡大され、文字が格段に読みやすくなる。
(タッチパネルには対応してるんだ)
(妙なところで今風なんだな)
(ちょっと覗かせてもらいますね)
『いちいち小声で話すナ。すべて聞こえておル。集音などという無駄な演算に、我という空前絶後にして唯一無二の存在を煩わせるなナ』
「あっ、なんかすみません……」
やはり怒っているようなので、三人はとりあえず頭を下げる。
それからソラのスタータスウインドウを確認した。
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・なまえ:風祭青空
・かな:かざまつりそら
・せいべつ:おんな
・ねんれい:17
・レベル:1
▶ジョブ:むしょく
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「無職って……せめて高校生とか学生とかあるでしょ」
『ダンジョンにそんな身分など関係なイ。我が演算結果に文句があるのカ』
「あー、ないですないです。めっそうもないです」
この脳みそ、ちょっとめんどくさい性格をしてそうだと思ったソラは適当に流す。
ジョブの横の三角形がタップできそうだと、そこを指先で叩いた。
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▷ジョブ:無職
┣せんし ←
┣まほうつかい
┣そうりょ
┣とうぞく
┣しょうにん
┗
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折りたたまれていた文字列が展開され、ジョブの候補らしきものが表示される。
「すごい適性ですね。基本職がほとんど網羅されてます」
「なんでモンクだけ英語なの?」
『文句があるのカ?』
「いや、別に文句はないですけど……」
『モンクに、文句があるのカ?』
「いや、だからないって」
『本当は、
なぜか
ソラが返事に詰まっていると、クロガネがぽんと手を叩いた。
「なるほど、モンクと文句をかけたダジャレか」
「ちょっと、クロさん。そんなわけないでしょ」
「そうですよ、コースケさん。そんなダジャレ言うわけないじゃないですか」
『そ、そうダ。わ、我は下らぬ駄洒落など言わヌ。いいから早く、ジョブを選ぶのダ』
「そうかあ? まあ、別にどうでもいいんだが」
思いつきを否定され、クロガネはぼりぼりと頭をかいた。
クロガネの耳には、