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第6話 仙台駅前ダンジョン第10層 チーム<金愚烈怒>

■仙台駅前ダンジョン第10層 チーム<金愚烈怒キングレッド

「おら、待てっ! ぶっ殺してやる!」

 ユウヤが片手剣を振るう。

 血しぶきとともに豚面人身のモンスターがぴぎゃあと悲鳴を上げた。

 仔豚頭ピギーヘッドと呼ばれるモンスターだった。体長は1メートル程度で、力は弱く、動きも鈍重。臆病で自分から襲いかかってくることは滅多にない無害なモンスターだ。

「ぎゃははははは! こいつら弱えー!」

「憂さ晴らしは豚狩りに限るよな!」

金愚烈怒キングレッド>の3人は、ピギーヘッドの虐殺をしていた。

 群れを見つけては爆発魔法で驚かせ、逃げたところを追いかける。浅手を与えながら執拗に痛めつけることを繰り返す。

 その様子を身につけたアクションカメラで配信する。

金愚烈怒キングレッド>の定番コンテンツだった。

 悪趣味だと批判されることも多かったが、もっとやれというファンも多い。

 とくにモンスター虐待板という掲示版では好評だった。

「ぴぎぃぃいいい!!」

「おっと、近寄るんじゃねえ! 臭えんだよ!」

 いよいよ追い詰められると、ピギーヘッドも反撃してくることがある。

 ユウヤは血とよだれを撒き散らして飛びかかってきた1匹を盾で殴り飛ばす。

「生意気なブタ野郎が! 死ねやっ!」

 ユウヤの剣が、ピギーヘッドの首をねた。

 仔豚の頭が、辺りを鮮血で汚しながら石畳を跳ねた。

 その目は恨みと怒りに見開かれているが、ユウヤはまるで意に介さない。

「ひゅー、相変わらずすげえ切れ味だなあ」

「ふん、俺様の腕がいいのさ」

「ぎゃはははは! 言うねえ」

 ユウヤの剣は特注品だ。

 今日だけでもう何匹ものピギーヘッドを斬っているが、刃こぼれひとつない。

 ユウヤの剣の技量は、たしかに高い水準にある。

 数多い配信者の中でも上澄みと言ってよいだろう。

 だが、剣によってそれが底上げされているのも間違いない事実だった。

 特殊なチタン合金で作ったワンオフ品。

 地上の技術で作れるものとしては、最高クラスの品を使っていた。

「そういやさ……」

 仲間のひとり、ケンジがマイクをオフにして小声で話す。

「入口にいたおっさん、あれ、大丈夫だよな? 推薦に響くとやべえんだけど……」

「ハッ、あんな小汚えおっさん、仮に死んでもどうとでもなるに決まってんだろ。何も言わなくてもうちの親父がもみ消すさ。くだらねえ心配してんじゃねえよ」

「そ、そうだよな! うちの親さあ、浪人は絶対許さねえとかうるさくてよ」

金愚烈怒キングレッド>の3人は、不良めかしてはいるが全員が良家の子息だった。

 とくにユウヤの家は戦前から続く政治家の家系であり、父は現職の県知事、祖父は参議院議員というエリートだ。そこらの国産車よりも高価な剣も、ユウヤにしてみれば親にねだれば買ってもらえる玩具に過ぎない。

 ダンジョン配信も、派手な格好をすることも、「受験勉強の気晴らし」と言っておけばなんでも許された。跡取りとしてふさわしい学歴さえ身につけられるのなら、他に注文は何もないのだ。

「にしても、今日もカメラドローンが来ねえなあ」

「同じことばっかやってると来なくなるとか掲示版に書いてあったぜ」

「同接も1000超えなくなってきたしな。ぼちぼち別の遊びを考えっか」

「サキュバス狙いとかどうよ? 20層くらいから湧くらしいぜ」

「おー、ブタなんかより断然アガるな」

「首輪つけて便所の横につないでおこうぜ。公衆便所って書いて」

「ぎゃはははは! それ、センスあるな!」

 げらげらと馬鹿笑いをしながら、3人は残りのピギーヘッドを殺していく。

 もはや痛めつけることにすら関心がない。

 手慰みに処理をしているだけだ。

 最後の一匹にとどめを刺した、そのときだ。

 闇の奥から、ごろごろと遠雷のような重低音が轟いた。

「なんだ、この音?」

 仲間のひとり、リュウセイが音のした方に歩いていく。

 ヘッドランプのスイッチを入れ、闇を照らす。

 LEDの白い光が、闇を少しずつ退けていく。

 ごろごろと、再び、轟音。

「な、なんか気味が悪りぃな」

 リュウセイが、半歩下がって振り返る。

 顔は笑っているが、頬が引きつっていた。

 これ以上、奥に進む勇気がリュウセイにはなかったのだ。

「そ、そういやあっちは行き止まりだったよな。は、はは。あんな音ほっといて、さっさと下層に――ぶぎぇゃあっ!?」

 リュウセイの身体が唐突に弾き飛ばされ、石畳を転がってユウヤの足元で止まる。

 ジェラルミン製の鎧が無惨にひしゃげ、潰れたアルミ缶を連想させた。

 轟音。

 近い。雷鳴では、ない。

 闇の中から何者かが姿を表す。

 焦げ茶色の剛毛で覆われた、見上げんばかりの巨体。

 抱えられないほどに太い足の先には、石臼のような蹄。

 大人の胴をも一掴みにできる手には、丸木を削り出した棍棒。

 そして異形の頭部。

 全体としては、猪を思わせるが、決定的に違う部分がある。

 真っ黒い正円の眼球が、蜘蛛のように八つ並んでいた。

「な、なんだよ、この化けもん……」

「ケンジ! 鑑定かけろ!」

「わ、わかった! <魔物鑑定>!」

<魔物鑑定>とは、モンスターの強さや特徴を看破する魔法だ。

 それを発動したケンジの額に脂汗が浮かび、顎先からぽたりと垂れる。

「う、嘘だろ……」

「何がだ!? 結果を教えろ!」

「個体名<カマプアア>、エピック級、レベルは……」

「くそっ、ネームドかよ! レベルはいくつだ!」

「な、71……」

「はあ!? そんなのがなんで10層に!?」

「し、知らねえよ!」

「ちぃっ! ケンジ、お前は足止めだ!」

「ぎゃっ! な、何すんだよ!?」

 ユウヤの剣が、ケンジの片足を切り裂いた。

 さらに盾で殴ってカマプアアの方へと突き飛ばす。

「お、おい、嘘だろ!? 助けてくれ!」

「うるせえ! てめえは少しでも時間を稼いでろ!」

 倒れたケンジを置き去りにし、ユウヤは全力で走った。

 背中にケンジの悲鳴が聞こえるが、知ったことではなかった。

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