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第5話 仙台駅前ダンジョン第7~第9層

■仙台駅前ダンジョン第7層

 トビホタルイカとの一悶着を終え、クロガネとソラは先へと進む。

 いくら下見とはいえ、騙されかけた上に時間を無駄にしたのは腹立たしかった。

 次に見つけたらとっ捕まえて食ってやると、クロガネは鼻息を荒くしている。

「クロさん、そこは右ね」

「ん、こんなとこに道があったのか」

 パンフレットの地図を見ながらソラが指示を出す。

 興奮していることもあるが、暗くなったために細い通路などを見落としやすくなっていた。

 薄暗い道を進んでいると、前方の闇の中からコツコツと硬い音が聞こえてくる。

 何かの足音のようだ。

 別の配信者だろうか。

「こんにちはー」「ちわーす」

 姿が見える前に、こちらから声をかける。

 モンスターと誤認されないよう、人の気配を感じたら声をかけるのが配信者のマナーだ。

 しかし、返事はない。

 コツコツと硬質の足音だけが近づいてくる。

 どうやら複数――人間であればだが――のようだ。

 クロガネとソラは足を止めて身構える。

 闇の奥に目を凝らしていると、白い人影が姿を現した。

 だんだんとその姿がはっきりしてくる。

 白く、肉のない身体。

 真っ暗で空洞の眼窩。

 歯は根本までむき出しで、時折カチカチと鳴っている。

 文字通り骨ばった身体のあちこちには、フジツボがこびりついている。

 そんな怪物が、3体。

「おっ、スケルトンってやつか。定番だな」

 クロガネは、にいと笑って凶相を浮かべる。

 さながら獲物を前にして牙を剥く猛獣のようだ。

 クロガネの巨体が、弾丸のような速度で飛び出す。

ッッ!!」

 シンプルな前蹴り――すなわち、ケンカキック。

 理合いも何もない。

 体重の乗った足裏がスケルトンの胸骨を砕き、肋骨をぶち破り、背骨を貫く。

 足に絡まったそれ・・を、片足立ちのまま振り払う。

 スケルトンがばらばらになって吹っ飛んでいく。

「ありゃ? ずいぶん脆いぞ?」

 クロガネはあまりの手応えのなさに拍子抜けしていた。

 人骨というものは硬い。

 いくらむき出しとはいえ、こんな簡単に砕けるものではないのだ。

「それ、スケルトンじゃなくてコーラルゴーレムっていうんだって」

「コーラル……? なんだそりゃ?」

「珊瑚。石灰を固めて作ったロボットみたいなものって書いてある」

「へえ……って、撮ってんのか?」

「うん。ま、テストだから気にしないで」

「お、おう」

 ソラがいつの間にかカメラを構えていた。

 クロガネは思わず背筋を伸ばし、ファイティングポーズを取る。

 プロレスとは見せてなんぼ、見られてなんぼの格闘技だ。

 たとえ配信を通じた形でも、その先に観客がいるのなら無様は晒せない。

 慎重に間合いを測る。

 敵は脆い。脆すぎる。

 コンビネーションをつないでは、フィニッシュまでもってくれない。

 ならば逆の発想だ。

 じりじりと間合いを調整し――鋭く回転しながら跳ぶ!

 空中で駒のように回り、高速のローリングソバットを繰り出す!

 クロガネの踵がコーラルゴーレムの頭蓋を2体まとめて打ち砕いた。

「しゃあッッ!!」

 クロガネは右拳を突き上げ、カメラに向かってアピールする。

 試合数の限られるプロレス興行では禁じ手の秒殺決着だが、ダンジョンでの闘いは1試合限りではない。塩試合になりそうなら、いっそこうしてスパッと決着した方が爽快ではないだろうか。

 クロガネがそんなことを考えながら勝利のポーズを決めていると、ソラが言いにくそうに口を開いた。

「えっと、クロさん。これ、配信してないよ?」

「え?」

 クロガネの口がぽかんと開き、キメ顔が崩れる。

「光量とか、音声とかチェックしてただけ。それにデビル・コースケでも、ザ・フォートレスでもないのに配信なんかできないでしょ」

「お、おう。それくらい俺にもわーってるって。俺もそう、練習だよ、練習。リハーサルってやつだ」

 クロガネは腕を組み、うんうんと頷いてみせる。

 ソラは思わずツッコみたくなったが、なんとか言葉を飲み込んだ。武士の情けである。

 第7層から9層まではこのコーラルゴーレムが主要なモンスターとなる。

 クロガネは空手チョップや逆水平、バックハンドブローにラリアット、延髄斬り、ドロップキック、胴回し回転蹴り……などなど、多彩な打撃技でコーラルゴーレムを文字通り粉砕しながら第10層まで突き進んでいった。

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