武芸会には大燈台を所有する全ての煌都が集められ、一つの煌都から六人、選りすぐりの戦士が腕を競う。
同じ煌都の人間同士がぶつからないよう、あらかじめ六つの組に分けられていて、その中で一番腕の立つ者を決める。いわば、これが予選。
本戦では、勝ち残った六人の戦士がそれぞれ対戦し、最終的に一人だけが栄冠を手にする、という仕組みだ。
私もカナンも、十八年間エルシャで暮らしてきたけれど、あれほどの人が集まったのを見たのは一回限りだ。毎年の継火の祭よりもっと大勢の人が押しかけてきた。
参加する選手のほとんどは名家の出で、当然、一人につき何十人もの付き人がついてくる。その人達を相手に商売をする人間が集まり、さらにその商人に物を売る商人が集まり……と、人は際限なく増えていく。
父も含めて、行政を担う大祭司たちは大わらわだった。何しろ、煌都の収容人数以上の人が集まるから、まずはその寝床を確保しないといけない。治安の悪化を防ぐために都軍のほぼ全員を出動させなければならないし、密輸品や危険物の持ち込みを取り締まる役人も手配しなければならない。
他にも色々やることはあるのだけれど、何より大変なのは、これだけ多くの人が集まっても経済的にはあまり得にならないという点だ。収入はあるけど支出も多いし、何より、数日間は交易網が麻痺して一般商店に打撃が出てしまう。物が手に入らなくなるのだ。エルシャの商人たちもそれを見越して買占めを行うのだけれど、それが出来るのは一部の大商人だけ。あまりに独占状態が強まると、個人経営の商人たちは完全に干上がってしまう。それを規制するために文官も大勢駆り出された。
もちろん、当時十歳の私たちに、こんな複雑な構図は理解出来ない。カナンなんて、大通りを見渡して「人がいっぱい!」「見たこと無いものばっかり!」と大はしゃぎだった。
ただ、カナンは無邪気なように見えて、案外色んなことを考えている。むしろ、表面に出ている部分より、内面で積み上げている思考の方が遥かに大きい。
この時も、東の煌都パルミラからやってきた行商人たちを見て「東区の人たちがうるおうのにねー」と言っていた。
東区というのは、文字通りエルシャの東側の一区画なのだけれど、そのなかでも特に外側の箇所を指す。そこは煌都でまっとうに生活出来なくなった人間が、なんとか
どうして東の煌都の商人たちと繋がるのかは、分からなかった。
「どうしてそう思うの?」
「だって、あの人たちの連れてる……ラクダ? って、他の動物より草を食べるし、場所もとるでしょ? でも、東区って空き地がいっぱいあるし、仕事の無い人のためにもなると思わない?」
まあ、それが実現可能かどうかは別として、案の一つであることには違いない。実際、カナンの指摘したラクダ問題はパルミラの商人たちにとっての懸案事項だったから、確かに需要はあったわけだ。
こういうことをさり気なく言うところが、私の自尊心を刺激する。でも、その頃はもう、あまり劣等感を感じなくなっていた。
何せ、ギデオンのことしか頭に無かったから。
彼が怪我をしないか、万一死んでしまったりしないか、そればかり頭に浮かんで気が気ではなかった。
妹のことなんて、どうでも良くなっていた。