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第44話 いりょうの物語 医療大国の医療はまるで魔法のようだった

俺たちは大病院の病棟に向かった。

大病院のある敷地内では、

先程神速の耳かきをして、耳の呪いが解けた者たちの、

活気に満ちた声が聞こえる。

ただ、病棟は耳の呪いが解けたとはいえ、

患者がたくさんいると聞くと、また、弱っているとも聞く。

なんとかしたい思いで、俺たちは病棟に向かう。


病棟の大きな建物の入り口で、

一応耳かきの勇者一行だと告げる。

これで入れるかどうかはわからないが、

先程聞いた限りでは、黒の国では歓迎されていると感じた。

耳かきの勇者と聞いて、受付に当たるものが驚いた顔をした後、

「先程の耳の感覚は、もしかして勇者様のお力ですか」

「一応病棟の皆の耳の呪いも解いたんだが」

「さすがは耳かきの勇者様です」

受付のものは、耳かきの勇者が来たという旨を何かで伝えたらしい。

電話とも少し違うし、

大きな病棟に通じる何かの設備なのかもしれない。

もしかしたら、俺の知らない技術のようなものかもしれないし、

魔法のような何かかもしれない。

少しして、返事らしいものが戻ってきたようだ。

「院長が耳かきの勇者様にお会いしたいと」

「患者のことだろうか」

「おそらくそうでしょう。耳かきのお力で、弱った患者を元気にしてください」

「やれるだけやってみよう」

俺は承諾した。


間もなく、オオトガリの男性がやってきた。

オオトガリは皆若く見えるけれど、

そう見えるだけで、外見で年齢は読めないのかもしれない。

まぁ、異世界にはいろいろな種族がいるのだろうと俺は一人で納得する。

「耳かきの勇者と聞いている。私はこの大病院の院長だ」

「耳かきの勇者だ。よろしく頼む」

「先程、耳が突然楽になったのは貴殿の力と聞いた」

「神速の耳かきというものを使った。患者の耳の呪いも解けたはずだ」

「ああ、患者も、看護師も、すべての耳の呪いが解けた」

「ならばよかった」

「ただ、患者の体力はこの寒波でかなり弱っている」

「特殊な耳かきで身体があたたまったと思うが」

院長は少し考えて、

「患者の根本の体力が落ちている。この寒さにさらされていた所為だ」

「なるほどな」

「黒の国の医療技術も使うが、耳かきの力も貸してもらえるとありがたい」

「喜んで力を貸そう」

俺と院長は固い握手をした。


院長は特に弱っている患者のもとに俺を案内した。

ベッドに横たわる患者は、医療に素人の俺でもわかるほど弱っている。

俺は時空の箱の中にそんな時の耳かきがなかっただろうかと探す。

確か、青の国でそのような素材があったような。

時空の箱の中に、青の国の大樹の芽が素材としてあった。

青の国は大樹に守られた国で、

芽が育ってしまうと大樹の力が弱ってしまうので、

芽狩りというものがあった。

その際にもらった、大樹の芽だ。

青の王に大樹の芽と極楽鳥の羽根で作った耳かきを献上してある。

その時の大樹の芽が素材としてまだ残っていた。

この素材は、生命力を高める効果がある。

芽がどんどん育っていくような力が得られるという代物だ。

俺は大樹の芽から、耳かきを錬成して、

弱った患者の耳をかく。


コリッ…カリカリカリ…コリッ…カサカサ…コソコソッ…コリコリ…


患者にはみるみる生気がみなぎっていく。

さすがは青の国の大樹の芽の力だ。

俺の世界では耳かきでこれほどの回復までは見込めない。

丁寧に耳かきをすると、弱っていた患者は心地よく眠り始めた。

院長直々に患者の具合を確認して、

「ここからならば、黒の国の医療技術で回復が見込めそうです」

「そうか、他に弱っている患者はいるだろうか」

「それでは、ご案内します」

院長に案内されて、俺は病棟のあちこちを回って、

弱った患者の耳を丁寧にかきつづける。

火の石での神速の耳かきで体温が回復しているので、

大樹の芽の耳かきで生命力も回復すれば、

寒波によるダメージも回復に向かうだろうし、

そこまで回復すれば、黒の国の医療でもなんとかなるだろうとのことだ。

俺たち一行は耳をかきつづけ、

病棟の弱った患者は大体回復に向かわせることができた。

院長が病棟の患者の様子などを従事者たちから報告を聞いて、

すべて良しと認めて、

俺たちは一息つくために来客用の部屋へと向かった。


来客用の部屋に通され、

俺たちは茶をふるまわれる。

黒の国の薬の茶であるらしい。

なんだか身体によさそうな味がする。

「黒の国の医療でもどうにもならなかったものを回復に導いてくれて、感謝する」

「それが俺たちの役目だからな」

「耳かきというものは素晴らしいのだな」

「耳の呪いに関しては、強い力になるだろう」

「患者のことを回復させる効果もあったな」

「あれは特殊な耳かきを使った。青の国の素材だ」

「なるほど、耳かきは素材によってまた効果が違うのだな」

「この世界には様々の素材があると思う。それらによっても違うだろう」

「なるほど、今後の医療にも生かせそうだ」

院長は納得したようだ。

「黒の国の医療というものは、どんなものなのだろうか」

俺は興味本位で尋ねる。

「基本は薬を用いる。あとは、病理個所を切って取り除いたりもする」

俺の感覚の内科や外科に近いことだろうか。

「それから、薬で体質を変えることなどもする」

「体質改善みたいなものだろうか」

「耳かきの勇者であれば、おそらく黄の国に行ったかと思う」

「ああ、確かに行ってきた」

「記録官という役職があったと思います」

「ああ、確かに」

記録官は、確か、特性のあまりないアーシーズに投薬をして、

長く生きられるようにして、

いろいろなことを記録したりできるようにして役職だと聞いた。

万が一、黄の国の権力者や会議などが大変になった際には、

記録官が頭の中の膨大な記録などから、

権限を代行できると聞いた気がする。

その投薬をしたのが、確か黒の国とも聞いた気がする。

「記録官に投薬をしたのが、黒の国だったか」

「そのように、特性を与える投薬も、黒の国の医療です」

「それはいろいろな国に広がっているのか?」

「基本は特性の少ないアーシーズですね」

「なるほどな」

「ただ、最近は陽の国で特性付与の投薬を求めるものが多いと聞きます」

「なにかあったんだろうか」

「わかりません。ただ、要求が妙なので、断っているものが多いと聞きます」

俺はうなった。

耳の呪いが関わっていないといいんだが。

とにかく、黒の国の医療は、

俺の感覚で言うところの魔法のようなものでもあると知れた。

その気になれば、いろいろな力も得られるのかもしれない。

ただ、変な方向に使われないといい。


「大病院敷地内は落ち着いたみたいだな」

俺は話題を変える。

「そうですね。しかし、寒波は以前として黒の国に居座っています」

「黒の国の城というものはどこにある?」

「大病院からさらに山を登ったところにあります」

「黒の城の方から何か異変の報告はないか?」

院長は少し考え、

「そういえば、これだけの寒波に何も報告がないのは、おかしいですね」

「もしかしたら、報告ができないほどの事態かもしれないな」

院長が緊急事態を感じたようだ。

「この寒波が耳の呪いをばらまく奴の仕業ならば、まずは城から落とす」

「では、黒の城は…」

「おそらく大変なことになっていて、緊急の連絡もできないのかもしれない」

「耳かきの勇者様、どうか」

「わかっている」

俺は院長の言葉を遮った。

「おそらく寒波は黒の城に核がある。それを何とかして、黒の城も取り戻そう」

「お願いします」

「任せろ」


俺たちは来客用の部屋を出て、

病棟の従事者らしいものから、

防寒着のいいものを譲り受け、黒の城を目指すことにした。

おそらくこれから寒波が強くなってくる。

緊急事態も伝えられないほどの可能性がある黒の城。

白の国と同様の手合いであれば、

寒邪というものが黒の城にあるとみていい。

この寒さを根本から何とかするため、

俺たちは黒の城に向かう。

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