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第43話 びょういんの物語 黒の国の病院は患者でパンパンだった

関所で白の国のヨツミミの者と、

黒の国のオオトガリの者と、

それぞれの関所の兵士と、あたたかい鍋を食べて身体をあたためた後、

俺は黒の国へと正式に入ることになった。

耳かきの勇者の噂は黒の国にも伝わっていて、

医療大国の黒の国において、

耳かきがどんな役割を果たすのか、

そして、各国の耳の呪いを解いてきた耳かきが、

一体どのようなものなのか、

黒の国の識者は興味を持っているらしい。

しかし、今、黒の国は寒波が襲ってきていて、

耳かきの研究どころではないらしい。

とにかく寒さで体調を崩していたりして、

黒の国の大病院が患者でパンパンらしい。

黒の国の大病院は、俺の感覚で言うところの国立病院で、

どんな国の患者でも受け入れて、

しっかり直す最先端の医療の病院であるらしい。

耳の呪いの研究もされているようだが、

完全に耳の呪いを解くまでは至らず、

耳の呪いを緩和に導く程度の処置しかできないという。

しかし、耳かきの知識がない中で、

そこまで出来たならばすごいなと俺は思った。

医療大国というのは、やはりすごい。

その大病院が、この寒さで大変なことになっているらしい。

働いている者や医者や研究している者も限界に近いらしい。

そして何より、患者が寒さで悪化しているらしい。

オオトガリの兵士から、まずは大病院の皆を助けてくださいと頼まれる。

俺は引き受けた。


関所から黒の国に出ると、

そこは一面の銀世界だ。

吹雪いてはいないが寒さが堪える。

俺たちは街道を歩いて、大病院への看板を見つけて、さらに歩く。

凍えそうなときは、火の石の耳かきで耳をかき、

冷えを撃退しつつ歩く。

やがて、山に囲まれた盆地に、ひとつの町くらいの大きさの病院が見えてきた。

なるほど大病院。

働いている医者や看護師や研究者も、患者もすべて、

ここに暮らしているようなものなのかもしれない。

俺の感覚だと、盆地というものは、

冷えた空気が下に溜まって、さらに冷えるものだ。

ひとつの町のような病院を作るにはいいかもしれないが、

黒の国にはびこる寒さにはとても弱いと見た。

もしかしたら、いつもの黒の国の気候だったら問題なかったのかもしれないが、

この寒波ではおそらく大変なことになっているだろう。

俺たちは街道を大病院のある盆地に向かって歩く。

雪をザクザク踏みしめて、

俺たちの後にだけ足跡が残る。

どうやら誰も外に出ていないようだ。

少なくとも街道には足跡がない。

もしかしたら、この寒波で外に出る程の気力がないのかもしれない。

あるいは、凍えて体調を崩している者が、

予想以上にたくさんいるのかもしれない。

耳の呪いの緩和についての研究はなされていると聞いたが、

耳の呪いを解いても、身体が不調ではよくない。

大病院が機能不全になるようならばなおさらだ。


俺たちは街道から大病院の敷地内に入った。

住居らしい建物、店舗らしい建物、

さまざまの建物があり、街道で見たように、ひとつの町のようだ。

その中心にひときわ大きな建物。

多分あれが大病院の病棟みたいなもので、

そこで診察したり入院したりするのだろう。

とにかく、まずは大病院とその周囲の皆の耳の呪いを解き、体温を上げる。

赤の国の火の石の耳かきが本領を発揮するだろう。

俺はリラの方を見た。

「この大病院のすべてに神語を届けられるか?」

リラはうなずいた。

「この旅で神語の届く範囲が広がっているのを感じています。行けます」

「よし、頼む」

「お任せください」

リラはスッと息を吸って、神語を放った。


『コゴエル モノヨ イマカラ ミミノ ノロイヲ トキ アタタメ マス』


神語を通じて、俺の耳に様々の耳の感覚が共有される。

どの耳も冷たくなっている。

他の国に比べ、伝わってくる耳の呪いの程度は低いけれど、

それでも耳の呪いはしつこく残っている。

寒さで呪いに対抗できなくなっているのかもしれない。

なおさらあたためることが必要だ。

俺は火の石の耳かきを構え、


「神速の耳かき!」


叫んで神速の耳かきを発動させる。

大病院の敷地にある雪もものともせずに、

俺は神速の耳かきで敷地内に存在する、すべての耳をかいていく。

オオトガリの耳は、かくのに少しコツがいる。

しかし、耳かき職人の俺にかかればどうということもない。

神速の耳かきのスピードのまま、大病院の病棟内の耳もかいていく。

病棟にはいろいろな国から来たであろう患者の姿も、ちらりと見えた。

俺はトップスピードに乗ったまま、

大病院病棟内の耳もすべてかいていく。

俺の感覚には耳しか共有されていないので、

大病院の患者のプライバシーなどは多分見ていないはずだ。

とにかく耳かきをして耳の呪いを解いて、耳かきの特殊効果であたためる。

ひとつの町ほどもある大病院の敷地内に存在するすべての耳を、

俺はかき終えてリラの隣に戻ってきた。

神速の耳かきの発動時間も長くなったし、

神速の耳かきのスピードも上がったように思う。

多分耳をかけばかくだけ経験的なものが加算されて行くのだろうが、

難しいことはよくわからんので、

神速の耳かきに慣れてきたということにしておこう。

細かいことはよくわからん。


俺がリラの隣に戻ってきて、

間もなく、大病院の敷地に声が聞こえるようになってきた。

住居らしいところから人が出てきて、

何があったんだと言っている。

通りには、耳が聞こえるぞという声がする。

声はだんだん増えていって、

寒くないぞという声が重なり、

やがて活気になっていく。

どうやら、上手くいったようだ。

俺は、通りに出ていた住人の一人に声をかける。

「突然すまん。俺は耳かきの勇者というものだ」

オオトガリの住人は驚いて、

「あなた様が噂の。他の国でのご活躍のお噂はかねがね」

「耳の調子はどうだろうか。呪いは取り除いたはずだが」

「はい、はっきり聞こえます。それから、身体があたたかく感じます」

「よし、それならば問題ないな」

「これは、耳かきの勇者様のお力なのでしょうか」

「正確には、神の耳の巫女の神語と、俺の耳かき、そして、特殊な耳かきの効果だ」

「素晴らしい能力ですね」

「ありがとう」

俺が礼を言うと、オオトガリの住人は、

「どうか、病棟の患者も助けてください」

「今しがた、病棟の方も、耳かきをしたところなんだが」

「耳かきをなさってくださっても、おそらく患者はまだまだ弱っております」

「この寒波の所為もあるか」

「はい」

「ならば、気力を取り戻す耳かきをした方がいいな」

「どうか、お願いします。医者も看護師も患者の多さに疲弊しています」

「わかった」

俺は頼みを引き受けた。

住人が言うことには、黒の国に耳かきの勇者一行の話は伝わっていて、

大病院の医師たちは耳かきの勇者に会いたがっているそうだ。

関所でも噂が届いているとは聞いたが、

耳かきの力を認めてくれているということかもしれない。

耳の呪いに対抗する力として、また、その他さまざまな効果を持つものとして、

黒の国は耳かきに興味を持っているのかもしれない。

とにかく、病棟の患者を元気づけるのが先決だ。

病院は患者でパンパンらしいし、

耳かきで緩和したとはいえ、寒波で相当弱っているものと思う。

「耳かきの勇者と名乗れば、皆が歓迎するでしょう」

「歓迎はともかく、まずは患者を何とかしたいな」

「どうか、よろしくお願いいたします」

「任せろ」

俺たちはオオトガリの住人と別れ、病棟の方へと歩き出した。

寒波はまだ強い。

これも何かの邪なものが絡んでいるのか、

そのあたりはわからんが、まずは患者を助けなければと思った。

耳かきは力になる。

耳かきの勇者として、俺はそれを信じている。

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