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第42話 くろのくにの物語 医療大国では寒波がすごいことになっていた

寒い山道を登ることしばらく。

黒の国と白の国の境目の関所が見えてきた。

先程、白の国の方に伝令がやってきて、

白の王と俺に報告していったことから、

関所の方には、すでに何らかの連絡が行っているかもしれない。

耳かきの勇者という俺のことも連絡が行っているか、

そのあたりのことはよくわからないが、

とにかく伝令では、病と疑うようなことがあり、

それは医療大国の黒の国で、猛威を振るっているという。

助けが欲しいと思って間違いないだろう。

耳の呪いを解くことは無論だが、

耳の呪いの他に、身体を蝕む邪なものをはびこらせている奴がいる。

その邪なものが医療大国で猛威を振るっている可能性は、

かなり高いとみて間違いないように思う。

もしかしたら、この山道の寒さもそれかもしれない。

もともと、黒の国は寒い国だと、

白の城を出るときに言われていたが、

先程、耳の呪いを解いた山の獣たちの様子を見るに、

本来ならば、今、俺たちが感じているほどの、

寒さではなかったのだろうなと思う。

関所まではあと少し。

雪はしんしんと降り積もる。


白の国側の関所の門番は、

ガタガタとふるえながら番をしていた。

俺たちの姿を認めると、

安心したような顔をして、そのあと盛大にくしゃみをした。

「少し前から寒くて寒くて」

門番は泣き言を言った。

寒さは黒の国側からやってくるという。

白の国の防寒対策では追いつかないほどだということだ。

関所の黒の国側の兵士などは、

基本寒さに強いらしいが、

それでも急激な寒さが堪えているらしく、

関所の黒の国側でぐったりしているらしい。

耳かきの勇者とはいえ、関所を勝手に突破するのはよくない。

決まりを破ることはよくない。

そう思い、とにかく俺は白の国の手続きを経て、

黒の国への関所を通してもらうことにした。

関所を通してもらったら、

改めて黒の国側の関所の兵士の具合を見たり、

耳の呪いを解いたりしようと思った。


白の国側から関所に入る。

関所の建物の中では、たくさんの暖房器具が焚かれている。

それでも追いつかないほどの寒さがにじんできている。

黒の国へと続く門の近くで、

寒さに凍えながら手続きをする。

黒の国側でも、なんとか手続きをすべく、がんばっているらしい。

白の国側から手続きの書類が送られる。

間があって、承認の判子が押された書類が返ってくる。

その端っこに、助けてと走り書きしてある。

承認は取れたので、白の国側から関所の門を開けてもらう。

襲い来る寒波。

ここが室内であることを忘れそうなほどだ。

俺は、リラに指示を出す。

「耳が呪われている可能性もある。神語で耳を繋いでくれ」

リラはうなずく。

「それから、ショージィさんに、みんなを片っ端から温めてくれと伝えてくれ」

「わかりました。ショージィさん、みんなをあたためてください、頼みます」

ショージィさんは鳴き声を一つ上げて、

てこてこと歩き出した。

そんな様子を見ていられなかったヒューイさんが、

その背にショージィさんを乗せて駆けだす。

「リラ、頼む」

「わかりました」

リラは呼吸を整えると、


『ワタシタチハ ミミノ ノロイヲ トクモノ デス』


神語を放った。

俺の耳と関所の兵士たちの耳の感覚が共有される。

かなり冷えているのが伝わってくる。

俺は耳かきを選ぶ。

冷えているのならば、赤の国の火の石で作った耳かきがいいだろう。

身体があたたまる効能が期待できるだろう。

俺は時空の箱から火の石の耳かきを取り出した。

俺は耳かきを構え、


「神速の耳かき!」


叫んで神速の耳かきを発動させる。

関所で凍えている皆のもとへと走り、

火の石の耳かきで耳をかき、耳の呪いを解き、体温をあげていく。

白の国側の兵士たちの体温もあげるべく、

火の石の耳かきで耳をかいていく。

神語で繋がった耳の感覚から、耳の呪いが解けていく。

また、体温も上がっていくようだ。

先程までの冷えが引いていっているのを感じる。

俺はリラの隣に戻ってきて、神速の耳かきを止めた。

改めて、開いた門から黒の国側に入る。

冷気は少しおさまったように思う。

関所を守る兵士たちに元気が少し戻っているようだ。

ヒューイさんに乗ったショージィさんが戻ってきて、

鳴き声を上げて何かを誇っている。

「みんなをあたためた、らしいです」

リラが通訳をしてくれた。

俺はショージィさんとヒューイさんをなでた。

何やら鳴き声を上げたが、多分嬉しいのだろう。


黒の国の住人は、髪の色が薄く、肌の色も白い、

大きな耳をした種族であるらしい。

耳が大きく、とがっていることから、

オオトガリと呼ばれているらしい。

どこかでエルフというのが、そんな感じではなかっただろうかと思ったが、

そもそも俺はエルフというものを、しっかり知っている訳でなく、

世界が違えばエルフとは呼ばれないのかもしれない。

この世界ではオオトガリ。

黒の国側の関所の兵士からそう言われた。

彼らの話によると、ほんの数日前から、

黒の国に異様な寒波が押し寄せてきたらしい。

当然、黒の国のあちこちで、寒波による不調が起きる。

冷えは万病のもとだ。

医療大国の黒の国の総力を挙げて、

寒波による病を治さんとしているが、

寒波の威力はすさまじく、不調を訴えるものはどんどん増え続けている。

寒波はとうとう白の国へと流れ込もうとしているときに、

耳かきの勇者である俺がやってきたらしい。

火の石の耳かきで身体はポカポカとあたたかいらしい。

白の国側の兵士も、そういえばさっきほど寒くないと気が付いたようだ。

俺が、赤の国の火の石の耳かきで耳をかいた効果だと伝えると、

黒の国側の兵士から、

その耳かきで黒の国を救ってくださいと頼まれた。

オオトガリの耳は大きく、耳の呪いの影響も受けやすいらしい。

耳の呪いに対処しようとしていた結果、

疑心暗鬼になるほどの、ひどい耳の呪いにならないことには成功した。

黒の国の中では、一応言葉による意思疎通はできている。

それもあって、医療は崩壊せずにいた。

ただ、とんでもない寒波がやってきて、

一気に医療はおかしくなった。

瀬戸際だった耳の呪いもひどくなるかもしれない。

このままでは黒の国自体が機能しなくなってしまう。

黒の国を助けてほしいと、黒の国の兵士たちから頭を下げられた。

俺は、任せろと言ったあと、

とにかくあたたかいものを食べて、元気を出してほしいと提案した。

ヨツミミの白の国の兵士と、

オオトガリの黒の国の兵士たちから、

それぞれの種族で食べられないものなどを聞き取りする。

俺の世界でも宗教によって食べられないものがあるとは聞いているからな。

どちらも、禁忌とされる食べ物はないようなので、

大鍋を準備してもらい、火の石をかける。

そこに、俺の世界で言うところの、

豚肉とニラと白菜とネギと水を入れる。

味付けは塩主体だが、

そこに、生姜を山ほどすりおろして入れる。

大体どれもこの世界で手に入れたものだ。

つまり、大体作り方さえわかれば、彼らでも作れるということだ。

まだまだ寒波はおさまらないので、

とにかくあたたまるものをと思った。

俺の感覚だと豆腐が欲しいところだが、

確か大豆らしいものはあったように思うが、

豆腐を作る文化はなかったように思う。

そのあたりは、まぁ、俺の小屋の通販で届けてもらえればいいとしよう。

二つの国の境目で、皆で大鍋をつついて温まる。

関所でこれだから、黒の国はもっとひどいことになっていそうだ。

とにかくここで英気を養って、

気合を入れて取り掛からないといけない。

黒の国のオオトガリたちはもっと苦しんでいる。

俺たちが助けないといけない。

俺は決意を新たにした。

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