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第41話 やまみちの物語 黒の国へは山道を行くことになった

劇場での公演が終わり、

俺は感動が冷めない気分でいた。

劇場にいた観客もそんな気分だったらしく、

劇場は熱い感動に包まれていた。

一段高いところから、白の王が観劇をしている。

俺がそちらを見ると、白の王も拍手を送りながら、俺に向かってうなずいた。

なるほど、白の国の誇る劇場、そして、演目というわけだ。

俺が白の王に向かってうなずき返そうとしたとき、

突然、白の王に向かって誰かが走ってきた。

何事かと思ったが、着ているものからして、白の城の関係者らしい。

何か緊急の報告があったのかもしれない。

俺はしばらくそちらを見ていた。

劇場はまだまだ熱気がおさまらない。

白の王に届いた報告も気が付いているものは俺くらいらしい。

白の王は、俺に目配せした。

報告をした誰かも俺に気が付いた。

報告した誰かは、白の王のもとを走って後にして、

間もなく俺のもとに走ってきた。

「耳かきの勇者様、ですね」

「ああ」

「黒の国への関所からの報告です。黒の国にて異変ありと」

「何があったかはわかるのか?」

「細かいことまではわかりません。ただ、病と疑うことがあると」

「黒の国は医療大国と聞いているが」

「今までの医療では追いつかないものがあったのかもしれません」

俺は従魔たちを見る。

ペトペトさんは湿邪だった。

ショージィさんは暑邪だった。

カラカラさんさ燥邪だった。

ヒューイさんは風邪だった。

リラが言っていたところでは、

こういった邪なものは6つあるとか。

残りは忘れたが、それが悪さをしている可能性は高い。

そして、魔王の手足となって動く存在がいるらしいことも。

闇の貴公子リュウ。

邪なものであちこちを蹂躙している存在だ。

おそらく俺という耳かきの勇者が耳の呪いを解いていることで、

封印されている魔王の、手足になる存在が、

さらに耳の呪いを強くするべく動いている。

すでに耳の呪いを解いた国には、

俺の錬成した耳かきが国内に流通していて、

耳の呪いがはびこることはないかと思う。

だとすれば、まだ耳かきの流通していない国の、

耳の呪いを強化していくのと、

邪なものをはびこらせていくこと。

おそらくそんなところではないかと俺は思う。

黒の国はそのターゲットにされた。

邪なものは、はびこると身体がどんどん弱っていく。

黄の国や白の国でその様子をよく見てきた。

多分事態は一刻を争う。

医療大国でどうしようもない、病の疑いのあるものだ。

どんどん身体が弱っていくものに相違ない。

俺は、事態を報告しに来た者に伝言を頼む。

俺はこのまま黒の国に向かう。

どの道を行くのかだけを教えてくれればそれでいい。

伝令は、白の王に伝えておきますと言って、

さらに、白の城の門版に、黒の国への道を案内するよう伝えておきますと、

それだけ俺に言ってその場をあとにしていった。


俺とリラ、従魔たちは、

劇場からそっと出ていった。

白の国は平和が戻ってきた。

耳の呪いがまたはびこることはないだろう。

俺たちは次の国に向かった方がいい。

まずは黒の国。そこで何かが起きているらしい。

俺たちは白の城の門を出る。

門番が俺たちに気が付いた。

「伝令が来ております。黒の国に向かわれるのですね」

「ああ、どの道を行けばいい?」

「こちらの道になります。黒の国に行くに従い、山道になります」

「そうか、わかった」

「それから、こちらのお召し物を持っていってください」

門番は俺たちにあたたかい衣類を渡してくれた。

「黒の国は寒い国です。山道は特に冷え込み、つらい道になります」

「その対策というわけか。ありがとう」

「いえ、我々ができるのはこの程度です」

「いや、助かる。ありがとう」

「白の王から言伝があります」

門番は背筋を伸ばすと、

「白の国を救ってくれて感謝する。どうか、世界を救ってほしい、と」

「任せろと伝えてくれ」

「はいっ」

俺たちは白の城を離れて、黒の国の山道へと続く街道へと歩き出した。


街道沿いは畑が多い。

俺の感覚で言うところの、のどかな田舎に近い。

やがて上り坂が増えてくる。

急勾配ではないが、上へと続く道が増えてきて、

周りの畑は、山林的なものに変わっていく。

気温が徐々に下がってきたように感じる。

俺のいた世界においても、

山を登っていくと気温は下がる。

そのあたりはこちらの世界も一緒らしい。

気圧という概念があるのかどうかはわからないが、

空気があるのだから、大体あると思っていいかもしれない。

俺のわからない魔法というものもあるようだから、

それがどうかかわってくるのか、それもよくわからない。

魔法で気圧がどうにかなるのかもしれないし、

そもそも空気の概念自体が実は違うのかもしれないし、

なんとなくこうして山道を登っているけれど、

俺の世界と何か違うのかもしれないし、何かは同じなのかもしれない。

細かいことはよくわからないけれど、

気温はだんだん下がってきている。

山を登っている所為なのか、そのほかの要因かはわからない。

上り坂を上り、山道を行くことしばらく。

俺たちは、白の城でもらった、あたたかい衣類をまとって、

さらに山道を進んでいく。

山を吹く風の中に、白いものが混じりだした。

どうやら雪が混じりだしたらしい。

よく見れば山道の端の方には、溶け残っている雪がある。

俺たちは雪で滑らないように注意しながら山道を歩く。

白の城で、あたたかい衣類をもらって、まとっているが、

それでも足りないくらいに寒さが身にしみる。

白の城の方では、この衣類で十分だと思ったのかもしれない。

ただ、この衣類でも足りないほどの寒さだ。

山を登って気温が下がるだけではないような気がする。

山道を歩く俺たちを遠巻きに獣たちが見ている。

俺はふと立ち止まって、

獣たちに視線をやる。

この寒さの中では、かなり凍えるような身なりをしている獣だ。

俺の感覚だと、寒いところの獣はモフモフとした毛皮をまとっている。

それがどうも薄いなと思った。

もしかしたら、この寒さは急にやってきたもので、

獣たちがついていけていないのかもしれない。

俺は、リラに神語を頼む。

獣たちの耳の呪いを解こうと思ったからだ。

リラは承知して、


『ケモノタチヨ アナタタチノ ミミノ ノロイヲ トキマス』


と、山に響くような神語を解き放ってくれた。

神語は山に共鳴して、

俺たちの周りに獣たちが集ってくる。

どの獣も苦しそうな顔をしている。

俺の世界にいるような獣もいるし、

見たことのない感じの獣もいる。

俺の耳の感覚と獣たちの耳の感覚が共有されて、

俺は神速の耳かきを使って、山の獣たちの耳の呪いを解いていく。

獣たちの顔から苦しみが消えた。

ただ、寒そうではある。

「身を寄せ合うか、麓に下りていくといい。ここは多分かなり寒い」

俺が獣に声をかけると、

獣たちは少しでもあたたかい場所を目指して山を下り始めた。

白の国自体は、耳の呪いが解けて、

いきなり獣たちを攻撃するようなことはないかと思う。

ただ、この獣たちを見て、黒の国へと続く山の方で、

何かが起きたと理解してくれればいいのだが。

獣たちの様子を見るに、寒くなったのは急激だろう。

しかも、数ヶ月とかそのレベルではなく、

もっと急に、そう、つい数日、あるいは数時間レベルかもしれない。

黒の国で何かがあったという報告が届いたのが、

山道を歩きだす前、つい数時間程度前だから、

黒の国の何らかの影響が、その頃から、ここに出始めたとすれば、

理屈としては合う。

黒の国自体に何かが起き始めたのは、

それよりも前とするならば、

黒の国はもっとひどいことになっているのかもしれない。

この寒さはおそらく、山の向こうの黒の国が関わっているように思う。

医療大国でも止められない病のようなもの。

俺にそれがどうにかなるだろうか。

山の上の、黒の国への関所まではあと少しだ。

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