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第40話 げきじょうの物語 白の国が誇る劇場の演目を見せてもらった

俺たちは鉱山を出た。

鉱山から出る際、精製所の近くを通って、

白の城へと続く門を通る。

門番がいて、どのような金属をどれだけ取ったかなどのチェックが、

本来ならば行われるらしい。

ただ、俺たちは監督者とともに行動をしていて、

白の王の許可が出ていて、鉱石から耳かきを作るという名目で

鉱山に入ったものだから、厳重なチェックなどはなかった。

大まかにどのような金属の耳かきをどれだけ作ったか、

数の確認だけが行われた。

俺は時空の箱から鉱山の金属で作った耳かきを取り出す。

さまざまの金属で作られた耳かきがたくさんだ。

俺は門番に、ヒイロカネでも耳かきを作った旨を伝えた。

白の王に献上するものだから、それは数に加えないでほしいと、

そう門番に話したところ、

門番をしていた何人ものヨツミミの者が一様に驚いた。

本当にヒイロカネを扱えるとは、とか、

あの硬度をどうやって、とか、

鉱石として取っても、かなりの精製技術がないと使い物にならないのに、とか、

いろいろなことで驚いたようだ。

それほど特別な金属だったらしい。

最終的に、やはり耳かきの勇者だということで話は落ち着いた。

まぁ、俺としても自他ともに認める耳かきバカだから、

どんなにすごい素材であっても、耳かき以外に錬成することはできない。

武器にもならないし防具にもならない。

耳かき以外の道具にもならない。

ただ、耳かきを錬成できるから、

この世界の耳の呪いを解く耳かきの勇者になれる。

耳の呪いを解くには耳かきが必要で、

特別な素材の武器が必要なわけではない。

誰かを傷つけるようなものは必要ない。

この世界には、耳かきが必要なのだと思う。

だから俺はこの世界で必要とされている。

俺の耳かきが世界を救うならば、それはとても喜ばしいことだ。


俺が鉱山で作ってたくさんの耳かきは、

門番たちが協力して白の城へと運んだ。

運ぶついでに白の城の方に連絡が行くらしい。

俺たちは連絡を待ちがてら、

門番から振舞われた白の国の飲み物をもらった。

穀物由来の飲み物であるらしい。

少し甘い感じがする。

穀物が何なのかはわからないけれど、

確かオーツミルクというものも穀物由来だし、

甘酒も穀物由来と言えばそうだ。

門番が言うには、疲れたときはこれが一番、らしい。

穀物由来の酒というものもあるらしい。

俺の感覚で言うところの日本酒などもそうかもしれない。

ビールも穀物由来と言えばそうかもしれない。

酒を飲む習慣がないから、薄ぼんやりした知識しかない。

知識があればこの異世界も、もっと理解できたのかもしれない。

俺の耳かきバカも良し悪しということかもしれない。


金属の耳かきを運んだ門番が戻ってきた。

白の城にて、白の王にヒイロカネの耳かきを献上した後、

勇者様御一行を交えて、食事会をしようと言うことらしい。

そのあとで、勇者様の歓迎のために、

白の城の劇場で特別の舞台があるそうだ。

かなり歓迎されているなと俺は感じる。

白の国の皆の耳を救う耳かきを作ってくれたから、

このくらいの歓迎は当然ですと門番に言われた。

それならばそれで、ありがたく歓迎されるとしよう。


白の城に入って、俺たちは謁見の間に通される。

以前と同じ、大広間のようなところだ。

白の王は俺たちを笑顔で出迎えた。

俺は時空の箱からヒイロカネの耳かきを取り出し、

一応献上する前に鑑定をする。


 ヒイロカネの耳かき

 この耳かきで耳をかくと

 身体のすべての能力を一時的に爆発的に上昇させることができる

 その効果は、何かしらのつながりを持っているものにも及ぶ

 血のつながり、感覚のつながり、

 絆のつながり、心のつながり、種族のつながりなど、

 つながりが強ければ強いほど、つながるものが多ければ多いほど、

 能力の上昇効果がどんどん増えていく。


俺はなるほどと思う。

金属の母たるヒイロカネは、つながるものすべてに恩恵をもたらすらしい。

俺は白の王にヒイロカネの耳かきを献上して、

鑑定して知ったその効果を説明する。

白の王は、子や孫にも効果が及ぶということだなと納得する。

絆のつながりとのことなので、

白の王の妻や、城のものにも効果が及ぶと思うと、俺は付け足す。

なるほどと白の王は納得する。

白の王は、ヒイロカネの耳かきは白の城の宝として、

代々受け継いでいくことを約束した。

そして、鉱山で作った金属の耳かきは、

白の国で買い取ることを約束した。

買い取った耳かきは白の国の国民に届けられて、

耳の呪いを解く手助けになるだろうと言った。

それはなによりだと俺は答えた。


そのあと、俺とリラ、従魔も交えて、

白の城のいろいろなものとともに食事会があった。

身分は一応あるようだが、

あまり身分は関係なく、

俺は白の城のいろいろなものと話をしつつ食事を楽しんだ。

耳かきのコツなども伝授しておいた。

少し離れた町などに、その耳かきのコツも伝えましょうと誰かが言っていた。

そうしてくれるとありがたいと俺も言った。

「勇者様」

俺の近くにリラがやってきて呼びかける。

「耳の感覚共有の件について、お話が」

「何か思うところがあったのか?」

「はい。おそらくですが、神語を介さなくても、感覚共有できているのでは」

「どうしてそう思う」

「勇者様の錬成した耳かきを使えば、勇者様と耳がつながるのではないかと」

「なるほどな」

「ですので、今まで国で耳かきを買い上げて国に広めた際に…」

「国に耳かきが広まれば、その耳も感覚共有できているということか」

「そういうことです」

「感覚共有がどんどん広がっているわけだな」

「勇者様は混乱されていませんか?」

「感覚共有が広がりすぎて、か?」

「はい」

「いや、混乱はしていない。世界が広がっているような感じだ」

「おそらくこれからも広がり続けます」

「この感覚だったら特に問題はない。心配してくれてありがとう」

「いえ。勇者様が大丈夫でしたら」

「それから、リラの神語がないと俺は基本耳の感覚共有ができない」

「勇者様の耳かきさえあれば…」

「耳かきが受け入れられる前に、リラの神語で耳を繋がないといけない」

「私は、必要なのですか?」

「これからもずっと必要だ」

「ありがとうございます」

リラはちょっと泣きだしそうな顔をした。

俺はリラの頭を多少乱暴に撫でた。

リラは多分必要とされないことを恐れている。

なぜそこまで恐れているかは、まだ聞く時ではないのだろう。

いずれリラから聞ければいい。


食事会を終えて、

俺たちは白の城の劇場に移動した。

俺たちは特等席に案内された。

劇場の演目は、白の国で一番上演されている演目で、

世界の心を繋いだ言葉の伝説。

その言葉を紡いだ神の使いの物語らしい。

魔王のことがあるよりも昔の伝説らしい。

その頃、この世界にはもっとバラバラの国があった。

世界には統一された言葉がなく、

意思の疎通がなかなかできなかった。

なんとか意思を伝えようとするけれど、

思ったように伝わることが少なく、

世界は怒りと孤独に満ちていた。

神はその様子に心を痛められ、

空の果ての国から、神の使いを遣わした。

神の使いの役をするのが、白の国の劇場の歌姫だ。

劇場に現れた歌姫は、

世界の、バラバラの言葉をつなげる言葉を、音楽に乗せて歌う。

神の使いの周りで、今までバラバラだった世界のものが、

ひとつの舞を踊り出すようになる。

これが神語、神謡、神舞の始まりであるらしい。

はじまりは神の使いの言葉から。

そこからこの世界はつながっていった。

そのつながりは、やがて魔王を封印することができるほどの、

大きなものになっていく。

そんな物語だった。

とにかく歌も踊りも何もかもが素晴らしい舞台だった。

舞台が終わって、俺は立ち上がって拍手した。

皆も同じように拍手をした。

劇場で演劇を見た経験はほぼないけれど、

これほど感動できるものかと思った。

これが演劇だというけれど、

伝説の神の使いとは、どれほどの言葉を届けていたのだろうか。

世界を繋ぐ言葉。それが伝説となる神の使い。

今も生きていたら、力を貸してくれるだろうかと俺は思う。

まぁ、伝説になるほど昔の話だ。もう生きていないだろう。

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