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第39話 ひいろかねの物語 ヒイロカネは鉱山の奥の奥にあった

俺たちは監督者の案内のもと、

鉱山を進んでいく。

監督者は迷路のような鉱山をあちこち歩いて、

取れたばかりの鉱石を見せてくれる。

俺は試しに、鉱石から耳かき錬成を試みる。

錬成した耳かきを鑑定したところ、

精製した金属と同等程度の金属の耳かきができていた。

これならば、鉱山を歩き回って鉱石を手に入れれば、

いろいろな金属の耳かきが錬成できる。

監督者が言うのには、

精製するのにかなり多くの鉱石が必要な金属もあり、

そのような金属を作るには、手間も時間もかかるとのことだ。

おもに希少金属がそのような物であるらしい。

だから、鉱石から直接耳かきに錬成できるのであれば、

たくさんの鉱石を運んで精製する手間が省けるとのことらしい。

ヒイロカネなどは、もっともその手間がかかる金属のひとつで、

鉱脈からわずかしか取れず、

鉱石を砕いて精製してもわずかな金属にしかならない。

そんなヒイロカネが形になること自体が、

白の国で言うところの国の宝になるくらいのものらしい。

なるほど、希少金属の王様みたいなものらしいなと俺は思った。

多分、特殊な効果もついているものと俺は思う。

耳かきに仕立てたら、どんな効果があるのだろうか。


俺の世界で言うところの基本金属、

鉄や銅、銀、金、プラチナも希少金属としてあったし、

港町で見た、赤い金属のアカガネや、玉虫色のタマガネ、

銀よりも白金よりも霞がかった色をした金属のカスミガネ、

監督者の言うところの、劇場で使う音の調律に使う道具に使われる、

オトガネという金属もあった。

薄い俺の知識で、確か俺の世界で音叉というものがあって、

それに使われる金属がなんだかあったような気がする。

もしかしたらオトガネも、俺の世界にあるような金属なのかもしれない。

そのあたりの知識は薄ぼんやりしていてなんとも言い難いが、

オトガネと歪んだ真珠で合わせて耳かきを錬成すれば、

もっと音楽にかかわる能力が上がる耳かきになるかもしれない。

俺はそれだけとりあえず覚えておいて、

あとで錬成を試みようと思う。

監督者は俺たちをどんどん奥へと導いていき、

奥に行くほど精製が難しいという金属の鉱脈が通っている。

屈強なヨツミミの者たちが掘りだしているところへ入っていって、

耳かきの勇者であることなどを簡潔に話して、

希少な鉱石を分けてもらえないだろうかと頼む。

採掘しているヨツミミの者は、

監督者から今日の仕事に入る前に、

耳かきの勇者が来るということを聞いていたらしい。

白の城で耳の呪いを解いてもらったものもいるというし、

港町の噂を聞いたものもいるらしい。

採掘しているヨツミミの者たちは、暗く閉鎖的な環境にいるのに、

皆一様に朗らかだ。

心まで暗くなってちゃいけねぇよと笑っていた。

採掘した鉱石をもとに、いくつか耳かきを錬成して、

採掘しているヨツミミの者に渡す。

耳かきの仕方なども伝えておく。

ヨツミミの者が耳に耳かきを入れると、

俺の耳と感覚が共有されていた。

どうやら、白の城で耳の呪いを解く前に、

リラの神語を放ったことがあったが、

その神語は白の城を包んでなお、鉱山まで響いて届いていたらしい。

山の中という地形ならではなのかもしれない。

あるいはと、俺は思い当たることがあって、

鉱山の鉱脈をざっと軽く鑑定する。

俺がすべてわかるわけではないという前提で、

わかる限りのことがわかればと思った。

この鉱山の鉱脈は、一番奥にヒイロカネの鉱脈があり、

その鉱脈がいろいろな金属の鉱脈を派生させているらしい。

例えがあっているかはわからないが、

さまざまの金属の母ともいえる金属なのかもしれない。

そのヒイロカネの鉱脈は、

いわゆる魔法の力のような特殊な力を持っていて、

一度ヒイロカネの鉱脈まで届いた力は、

鉱脈を通じていろいろな金属にも影響し、

また、鉱山自体に影響を及ぼす。

リラの神語はそこまで届いていて、

神語という特殊な言葉がヒイロカネの鉱脈に届いて、

鉱山で採掘しているヨツミミの者の耳と、

俺の耳が感覚共有できているということでもあるらしい。

ますますもって、特殊な金属ということだなと、

俺のわかる限りでの鑑定結果で思った。


鉱石を分けてもらったり、

採掘するヨツミミの者に耳かきを渡したりしつつ、

俺たちは監督者に導かれて鉱山の一番奥にやってきた。

陰の国で取れたらしい光鉱石のカンテラとは違う、

輝きが奥から発せられている。

奥へと進んでいくと、

美しく輝く鉱石がそこにあった。

多分不純物が混じっていて、

輝きは斑になっている。

その斑模様でも隠し切れないほどの、

光をたたえた金属の鉱脈だ。

「これがヒイロカネになります」

監督者は言う。

「ごらんのとおりの美しい金属です。ただ、強度があまりにも高すぎるのです」

「普通の道具では掘れない、と」

「それもありますし、魔力も帯びているため、生半可な道具で通用しません」

「なるほどな」

「耳かきの勇者様の、耳かき錬成でしたら、あるいは」

「やってみよう」

俺は監督者にうながされるままに、

ヒイロカネの鉱脈に手を置く。

ヒイロカネ、白の国の金属たちの母なる金属。

美しく輝く金属。特別な金属。

俺は触れながら、素材を理解しようとする。

素材を理解しなければ耳かき錬成はできない。

その俺の耳に、声のようなものが届く。


 耳かきの勇者。耳かきの勇者。


俺は心の中で返事をする。

多分この声は、ヒイロカネの声だ。

理屈でなく理解する。

それだけの力を持った特別な金属ということだ。


 私を使いなさい。耳かきに仕立て上げて、耳の呪いを解きなさい。


どの性別とも、どの年齢層とも、

同じようで違うような、すべてを内包したような声。

俺はヒイロカネの鉱脈に手を置いたまま、

心の中で、ありがたく使わせてもらおうと答える。

ヒイロカネの声のような意識のようなものが、微笑んだような気がした。


 好きなだけ使いなさい。あなたの力ならば私が使いこなせるでしよう。


俺はヒイロカネの鉱脈に手を置いたまま、

耳かき錬成を発動させる。

硬度的なものもあるし、俺が魔法というものを理解していないからか、

なかなか耳かき錬成のための素材の理解が追い付かない。

それは一瞬の間のはずだったが、

俺はその一瞬の間に、ヒイロカネの意識が、

理解をうながしてくれるように手伝ってくれたことを感じた。

俺はその助けを借りて、一気に素材の理解をして、

ヒイロカネの耳かきを錬成させることに成功する。

「すごいですね。本当にヒイロカネから耳かきが錬成できるなんて」

監督者が驚いていた。

「俺だけの力ではないさ」

俺はヒイロカネの鉱脈に触れたまま答える。

素材の理解のために助けてくれた、ヒイロカネの意識は、

あたたかく、優しいものだった。

金属は、ともすれば傷つけることに使われかねない。

けれど、ヒイロカネはそれを望んでいない。

俺が耳かきを作るから、力を貸してくれたのだろう。

俺は、白の王に献上するヒイロカネの耳かきと、

いずれ何かの役に立つかもしれないと、

ヒイロカネの耳かきをいくつか錬成しておく。

これほどの力を持った耳かきだ。

普通の耳かきでは、どうにもならない耳の呪いも解けるかもしれない。

俺たちはヒイロカネの鉱脈にそれぞれ礼を述べて、

鉱山を入口の方に戻っていった。

鉱山のあちこちにヒイロカネの優しい意識を感じる。

ヒイロカネの耳と、感覚が共有されているのかもしれない。

ヒイロカネの耳は、呪われていないいい耳だ。

金属たちの声すら聞こえる。

ああ、やっぱりこの鉱山の金属たちは、

ヒイロカネの子どもたちなのだなと改めて思った。

ヒイロカネの意識が俺たちを見送るのを感じる。

俺は、心の中で、世界中の耳の呪いを解くことを約束して、

鉱山をあとにした。

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