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第31話 しろのくにの物語 白の国の港町ではみんな乾燥で喉がやられていた

黄の国の海のものたちの力を集めて、

俺たちの船は白の国の港町にやってきた。

港町には活気がなく、

強い風が吹き荒れている。

黄の国の気脈解析班が、気脈が乱れていると言っていたし、

湿邪や暑邪のような何かがあるとも聞いた気がする。

おそらく、強い風と乾燥。

そういう性質を持つ邪なものがはびこっているのだろう。

白の国はいろいろな穀物を作っている国だと聞く。

白の国が大変なことになったら、他の国が飢えてしまう。

どの国も大切な国なのだろうが、

空腹を満たすものを作る国も、大切な国のひとつだ。

その国に平和を取り戻し、

耳の呪いを解いて安心をさせてあげたい。

まずはこの港町から取り掛かろう。


港町に泊まった船、そこに荷物を載せようとしている、

獣耳を持った者がいる。

話に聞いていた、ヨツミミの者かもしれない。

明らかに元気がなく、ふらつきながら荷物を載せんとしている。

荷下ろしをしているヨツミミの者についても、

おおむね同じくらい元気がない。

目には光がないように見えるし、

腕には力が入っていないように見える。

俺は少し考える。

耳の呪いであるのならば、

耳が正確な音や言葉を認識しない。

ただ、元気が出ないのであれば、

いわゆる邪なものの影響があるだろう。

俺の世界での感覚だと、

風が吹いて乾燥している時に流行るのは、いわゆる風邪だ。

字を見ると、風の邪な物。

これの可能性が高いと俺は踏んだ。

まずこの港町が機能しないことには、

黄の国や、黄の国の海を通じて他の国への穀物輸出ができない。

港町の皆の様子を、とにかく把握しようと俺は考え、

手近なヨツミミの者に話しかける。

あいさつをしたら、完全につぶれた声が返ってきて、

そのあと酷い咳き込みだ。

他のヨツミミの者も同様、完全に喉がつぶれてしまっている。

言葉による意思疎通ができない。

耳の呪いも重なっていたら、

こちらからの言葉も届かない可能性がある。

俺の感覚では風邪だが、風邪薬などこの世界にあるだろうか。

「勇者様」

俺の様子を見ていたリラが声をかける。

「まずは耳の呪いを解きましょう。その上で対処をできればと思います」

「対処といってもなぁ…。薬になりそうなものはわからないな」

「勇者様の小屋の本棚に、薬膳というものの本がありました」

「ああ、耳ツボと東洋医学の一環で買ったかもしれない」

俺は本を買ったはいいが、

一読して理解できないと、とりあえず本棚に置いて、

時間が経ってから読み直すということをする。

耳に関する書籍、耳ツボに関する書籍、

ツボに関連して東洋医学の書籍、

東洋医学に関して薬膳の書籍、

いろいろ買ったことは買ったのだが、

時間を置いて読み返しても、

どうにも真髄まで理解はできていないように思う。

「薬膳を取り入れ、食べることで元気を取り戻せればと思います」

「なるほどな。リラは頭に入ってるのか?」

「おおむね頭に入っています」

リラはそれを大まかではあるが理解しているという。

神語の使い手は、理解力も早いのかもしれない。

いや、理解が早いから、神語が使いこなせるのかもしれない。

それが神の耳の巫女たる所以なのかもしれない。

神の耳は聞いたことを正確に理解する能力でもあるのかもしれない。

「そうか。耳の呪いが解ければ、薬膳のことも伝えられるというわけか」

「おっしゃる通りです。さらに言わせていただくと」

「まだ何か手があるのか?」

「邪なる気配は、おそらく燥邪と風邪です」

「そのあたりは、俺もそんな感じだと思う」

過度な乾きと、強い風、

乾燥の邪なるものと、風の邪なるものが襲ってきていると、俺も思う。

「燥邪は湿気があると押さえられると思います」

「湿気、そうか、ペトペトさんか」

「幸いこちらは港町、ペトペトさんの水を使った力にはうってつけです」

「喉が乾燥すると喉がやられるとは、俺も聞いたことがある」

「肺は潤いを求める臓器です。乾けば不調をきたします」

「なるほど、薬膳と潤いか」

「寒気を感じている方がいれば、ショージィさんの力も使いましょう」

「暑さの力を持っているから、か」

「寒気を感じる方に、一時のぬくもりを与えることはできるかもしれません」

「よし、リラの手で行こう。とにかく俺は港町の皆の耳をかけばいいんだな」

「白の国の皆はヨツミミと聞きます。多分耳かきにコツがいるかと」

「俺を誰だと思ってるんだ」

俺はにやりと笑った。

「愚問でした、耳かきの勇者様」

リラも微笑んで返す。

「リラ、神語を頼むぞ」

「了解しました」

リラは大きく息を吸いこんで、


『ヨツミミノモノヨ イマカラ アナタタチノ ミミノ ノロイヲ トキマス』


俺の耳に様々の耳の感覚がつながる。

黄の国でも少しのヨツミミの耳をかいたが、

これほどたくさんのヨツミミの耳の感覚を共有したのは初めてだ。

俺の中で耳の感覚を処理する。

ヨツミミは大体俺たちの耳の二倍の耳がある。

耳かきにも二倍時間がかかるかもしれないし、

慣れていない獣耳ならば、もっと時間がかかるかもしれない。

俺はその時間を短縮して、一度の神速の耳かきで耳かきを終えるべく、

俺の中で感覚が共有されている耳を処理して理解していく。

たくさんの耳、耳、どれもが呪われていて詰まっている。

倍の耳のあるヨツミミの耳がこれでは、苦しかったに違いない。

深呼吸ひとつの間に、俺は耳の感覚の処理を終える。

この港町の耳の感覚は理解した。

いける。

俺は時空の箱から耳かきを取り出し、


「神速の耳かき!」


叫んで港町を風よりも速いスピードで耳かきをしていく。

家の中で震えているヨツミミの耳も、

ぐったりとしているヨツミミの耳も、

元気がないのに休めないヨツミミの耳も、

みんなまとめて耳かきをしていく。

俺の神速の耳かきのレベルが上がっているのか、

どれだけスピードを上げていっても余裕がある。

体力的にも、神速の耳かきの持続時間的にも。

俺は神速の耳かきをしたヨツミミの耳に、

それぞれ耳ツボを刺激して回る。

瞬時の刺激だけど、効果はあるはずだ。

港町のすべての住人の耳をかいて、

俺はスタート地点に戻ってくる。

疲労は少ない。

日々の鍛錬のたまものか、レベルが上がっているかはわからない。

神速の耳かきも、かなりスピードを上げても余裕ができるようになったと思う。

これからは、いろいろな小技を織り込んだ神速の耳かきができるかもしれない。

俺はため息をひとつついた。

「お見事です、勇者様」

「耳かきの勇者ならば、これくらいしないとな」

「それでは、参りましょう、ペトペトさん、ショージィさん」

リラの近くで、ペトペトさんとショージィさんが鳴く。

「皆様、聞こえますか。たった今、耳かきの勇者様が耳の呪いを解きました」

リラが声を張り上げる。

神語でなくても通じると踏んだのだろう。

ヨツミミの皆が、耳が聞こえることをお互いに確認し合っている。

ただ、元気は薄いようだ。

リラはその中の一人のヨツミミに声をかけに行った。

ペトペトさんは海の近くにやってきて、

海に指か足かみたいなものを入れて、

水分を吸収して大きくなった。

ワインの樽よりももっと大きい。

ペトペトさんはその吸収した水分を、

口のような場所から湿気として放出する。

風は相変わらず強く吹いているけれど、

ペトペトさんは水分を吸収しては湿気を放出し続ける。

間もなく、港町の乾きがおさまってきた。

心なしか風も少し止んできた気がする。

リラが向こうから戻ってきた。

「勇者様、勇者様の世界で薬膳と呼ばれる食材、大体見繕いました」

俺はそうかと思い当たる。

一応世界が違うから、同じ食材があるとは限らないんだった。

リラはそのあたりも考えて見繕ってくれたらしい。

「それじゃ、元気になる薬膳炊き出しと行くか」

「はいっ」

俺とリラはヨツミミたちのもとへ歩いていった。

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