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第30話 ふねの物語 白の国へ向かうために船にのったら妨害にあった

黄の国の大会議室で、

俺はみんなに向けて様々の耳かきを取り出して説明する。

比較的手に入りやすい素材で作った耳かきで、

このような耳にはこれがいい、

この耳かきにはこんな特殊能力がある、

生き物でないものにも耳があり、その耳が呪われると不具合を起こす、

生き物でないものの耳をかくにはこれ、などと、

黄の国に集められた、たくさんの素材で作った耳かき、その効用を、

熱く熱く語る。

みんなも真剣に聞き入って、時折質問が入る。

俺はその質問にも真摯に向き合って答える。

ここで耳かきを広めておかないと、

また、耳の呪いがはびこった際に、

手を打つのが遅れてしまう。

耳の呪いは、耳がいろいろな音や言葉を、

悪く聞こえるようにしてしまう呪いだ。

ひとたび蔓延すれば、国中が疑心暗鬼に陥る。

気脈解析班によれば、

耳の呪いがはびこると、気脈までおかしくなるらしい。

耳の呪いは、早めに手を打たねば、下手すれば国全体がおかしくなる。

世界もおかしくなるかもしれない。

耳かきの勇者である俺は、今のところ一人しかいない。

ただ、耳かきは錬成して、たくさん作ることができる。

その耳かきの使い方をちゃんと広めておけば、

世界の中心の黄の国だけでなく、

いろいろな方面に耳かきが広まっていって、

耳の呪いがはびこるのを止めることができるはずだ。

俺の説明にも熱がこもる。

この世界の耳をきれいにするため、

まずは、ここにいる皆に、耳かきの良さを分かってもらわなければならない。

かなりの時間、話したり実演をしたりしていたが、

誰も席を立つことなく、熱心に聞き入ってくれた。

ありがたい話だ。

耳かきについて話し終えたときは、

大会議室が割れんばかりの拍手が起こった。

黄の国の王は、今回作られた耳かきを、国で買い取ることを議案として出して、

満場一致で可決された。

これで黄の国に集う、いろいろな種族の、いろいろな耳にも、

適切な耳かきが届くはずだ。

耳かきの良さをこんなに大勢の前で話すことなど、はじめてだったが、

誰もヤジを飛ばすことなく、耳かきに向き合ってくれるのがありがたかった。

これで黄の国の耳は大丈夫だろう。


黄の国に集められた素材で作られた、たくさんの耳かきは、

黄の国で買い取られ、この世界の通貨で支払われて、

俺の時空の箱に仕舞われた。

これで俺の銀行口座に預金が入った。

この世界で支払いが必要な時は、

時空の箱から取り出せばいいらしい。

本当に、便利なシステムだな。

大演説をうって、いつもと違う疲れを感じていたが、

大会議室の皆が、耳かきの良さを感じて、

早速使ったり、笑顔で耳かきの話をしているのを見ていたら、

疲れなんて吹っ飛んでいった。

「勇者様」

俺に声をかけてきたのは、黄の国の王だ。

「これで黄の国の耳は大丈夫でしょう」

「そうだな」

「耳かき会議の後お疲れかと思いますが、少し急いでいただきたいことが」

「白の国か?」

「はい、気脈解析班の話によると、かなりの乱れが生じているようです」

「耳の呪いがはびこる時、気脈も乱れる、だったか」

「おっしゃるとおりです」

「よし、それじゃすぐにでも白の国に向かう」

「ありがとうございます。では、中央都市の港に向かわれてください」

「そこから、船か」

「はい、準備は整っております」

「なにからなにまで、だな」

「勇者様がいたから、ここまでできるようになりました」

黄の国の王は言う。

耳かきの勇者の俺がいなかったら、

黄の国はここまでまともに戻れなかっただろうし、

耳の呪いがはびこって、最悪滅びていたかもしれないという。

「この世界を、耳を、救ってください」

「まかせろ」

俺はこの世界の耳かきの勇者。

世界中の耳をきれいにする存在だ。

耳かき職人のプライドにかけて、次の国を目指そう。

俺たちは大会議室を出て、

皆に見送られながら中央都市を出て、

中央都市の港へやってくる。

そこには立派な帆船が停泊していた。

帆船の作業員たちが、勇者様といいながら俺に手を振る。

「勇者様ー」

「耳かきをありがとうございますー」

「俺の母ちゃんの耳もよくなりましたー」

「俺たちみんなで白の国まで送り届けますー」

帆船から大声で感謝を述べる作業員たちに、

「たのんだぞー」

と、俺も大声で答える。

作業員たちはみんなで笑顔になった。


俺とリラ、そして、ペトペトさんとショージィさん。

白の国に送る物資や、白の国で助けになるような技術者などを乗せ、

帆船は中央都市の港を離れていく。

一路白の国に向けて。

白の国へは、それほど距離はなく、通常であれば数時間ほどでつくらしい。

ただ、風が強く吹いているとの情報もあった。

そのあたりがどう出るかと、俺は思う。

港を離れてからしばらくして、風が強くなってきた。

白の国からまともに来る向かい風だ。

帆船では追い返されてしまうような強風だ。

作業員たちが懸命に帆の方向や舵の取り方で対応しようとしている。

素人の俺が見てもわかるくらい、船が押し戻されて行くのがわかる。

俺はたまらず船の甲板に出てきた。

波が高く、風が強く、船は一向に進まない。

「白の国の邪気です」

甲板に出てきた俺の隣で、リラが何かを感じたらしい。

「ペトペトさんとショージィさんが反応していましたから」

「では、その邪気をどうにかすれば」

「邪気の核は白の国の中、ここからではおそらく届きません」

「くそっ、国すら入れないのか」

悔しがっている俺のもとに、耳から声が届いた。

『海のものは風などに負けぬぞ』

その声の主はリヴァイアサン。

どうやら海中にいるようだ。

『黄の国の海のものがこの船を進めてまいろう。しっかりつかまっておれ』

俺は、作業員たちに、帆をたたむように怒鳴る。

強い風の中、なんとか声が届いて、

向かい風にさらされていた帆がたたまれる。

『どれ、行くぞ』

リヴァイアサンの声と同時に、

船がものすごい勢いで白の国に向けて進みだす。

甲板の端っこで柵につかまっていた俺は、

水面にたくさんの魚がいるのを認める。

みんなの力で白の国に行くことができる。

「ありがとう」

俺は声に出す。

耳の奥でリヴァイアサンが笑った。

『勇者はこの国を救った。この程度のことでは足りぬくらいだ』

「それでも、助けてくれて、ありがとうとは言いたい」

『礼には及ばん。白の国も救って、やがては世界を救ってくれればいい』

「約束する。俺は世界中の耳をきれいにする」

『頼んだぞ。耳かきの勇者。耳の呪いを解いてくれ』

「ああ、任せてくれ」

『さぁ、上でしっかりつかまっていてくれ。風が強くなってくるだろう』

リヴァイアサンの言葉通り、白の国に近づくにつれ、風が強くなってきた。

もはや嵐だ。

波はうねり、船は木の葉のようだ。

『黄の国の海のものの力を、なめてかかられては困るな』

耳の奥でリヴァイアサンが笑った。

『目にもの見せてくれる、行くぞ』

俺の耳と連動して、海の中の存在すべての耳の音が聞こえる。

膨大な数の海の存在。

アクアンズもいるようだ。

そのすべての力を合わせて、俺たちの船は白の国に近づいていく。

「がんばれーっ」

俺は叫んでいた。

「がんばれーっ」

甲板にしがみついている作業員たちも叫ぶ。

「がんばってくださいっ」

俺にしがみついているリラも叫ぶ。

みんなの応援が、俺の耳を通して海の中の存在の耳に届く。

『その応援、確かに届いたぞ』

海のものの全力の力で、船は白の国の港へとたどり着いた。

作業員が港に船を停泊させて、

俺は白の国の港を改めて見る。

中央都市の港とは違う、生きた気配のしない港だった。

どうやら、急がないといけないらしい。

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