アーシーズとアクアンズが和解して、
黄の国に平和が訪れた。
中央都市の周りの広場には、続々と素材が運び込まれている。
中には、耳かきの勇者様に食べてほしいと、
食材の差し入れもあった。
黄の国にはいろいろな国からのものが集まる。
それは人材であったり、種族の違うものであったり、食材だったり、素材であったり、
技術も入ってくるし、知識も入ってくるそうだ。
そうして黄の国に集まってきた食材の一部が、
いや、一部と言っても相当な量だが、
こうして俺のところに届けられた。
耳かきの素材でない食材は、どうしようかと考えたが、
先程アクアンズと和解した黄の国の王は、
耳かきの勇者の力になりたいのだ、ありがたく受け取っておくといい、と言う。
そういうことならばと、俺はいろいろなものを運んでくれる皆に向かって、
その都度その都度礼を言う。
皆、照れたように笑ったり、役に立てるのが嬉しいと笑う。
笑顔はいいものだなと思う。
朝日の中、たくさんのものが運ばれてきて、
俺はそれらの品々を鑑定したり、
あるいは運んできた者にどういったものかを尋ねたりする。
おおむね俺の認識している素材や食材とは大きく変わることなく、
俺の感覚で耳かき錬成できたり、
食材も俺の経験で調理して差し支えないようだ。
俺は素材と食材を時空の箱に入れて、
まずは朝飯を作ることにした。
朝飯を作る匂いで、リラとペトペトさんとショージィさんが起き出してくる。
皆で朝飯を食べて、今後のことについて話し合う。
とにかく白の国に向かおうと思う。
その前にできる限り耳かきを錬成したい。
リラには、白の国へ行く手立てを聞いていてもらいたいと頼んだ。
赤の国へ行くには街道があったけれど、
白の国へはそれがあるのか、
竜便のようなものであったり、船で行かなくてはならないなどがあったり、
そのあたりを聞いてほしいと頼んだ。
リラは任せてくださいと胸を張った。
なんとなくだが、最近リラに自信が付いた気がする。
神の耳の巫女としてというより、
誰かの役に立てている実感があるように見える。
その経験がリラを成長させていき、自信につなげているのかもしれない。
いいことかもしれないと思う。
朝飯の片づけを終えて、
リラは白の国へ行く手立てを聞きに中央都市へと行き、
俺は小屋で耳かき錬成を始めた。
神速の耳かきで中央都市の皆の耳をかいていて思ったが、
中央都市は思った以上に住んでいる者が多い。
何かの折にちらと聞いた、
白の国の種族、ヨツミミもいた。
獣の耳と人の耳があるからヨツミミ。
神速の耳かきでかいていたので早さはそれほど落ちなかったけれど、
ヨツミミの耳をかくのは、コツがいるなとはその時に思った。
とにかく、いろいろな国から色々な種族が集まっている、そんな黄の国だ。
さまざまの耳かきを作っておいて、
どの耳にも対応できるようにしておかなければならない。
俺は集められた素材を時空の箱から取り出し、
いろいろな耳かきを錬成していく。
中央都市のたくさんの耳を思い返し、
この耳に対応する耳かき、この種族の耳に対応する耳かきなど、
どんな耳にも対応できる耳かきを次々錬成していく。
耳かきを作るたびに集中が増しているとなんとなく感じる。
俺は日が暮れるまでずっと耳かきを錬成し続けた。
手元が暗いなと思って、
ようやく日が暮れたことに気が付いた。
小屋の電気をつけて、最後の耳かきに取り掛かる。
これは黄の国の王に献上するものだ。
黄の国の海にいたという、
先代の蜃の貝殻の耳かきだ。
この耳かきに細かく細工を施していく。
耳かきの持ち手の部分に、
耳に平和あれ、国に平和あれ、すべての存在に平和あれ。
と、細かく彫っていく。
装飾も施していく。
なにせ王にささげる耳かきだ。
半端なものではいけないと俺は思う。
耳かき錬成の技術と、耳かき職人の技術を合わせた、
宝物の耳かきが間もなく出来上がった。
日はとっぷり暮れていて、
耳かきは宝物の耳かきも含めて、大量に出来上がっていた。
リラたちはどうしただろうかとようやく思い至った。
耳かきに集中しすぎていてそこまで考えが及ばなかった。
「ただいま戻りました」
小屋のドアが開いて、リラたちが戻ってきた。
リラは大量の耳かきに驚いて、
「たくさん作られたのですね、すごいです」
と、手放しで褒めてくれた。
「朝からずっと作ってたんだ。さすがに腹が減ったな。何か作ろう。待っててくれ」
「何かお手伝いできることはありますか?」
「白の国へ行く手立てについて、食卓で報告してくれればいいな」
「わかりました。しっかり聞いてきましたのでご説明できます」
「頼む」
俺は晩飯を簡単に作って、
朝と同じように食卓を囲む。
リラが報告するには、白の国へは街道がなく、
船旅になるとのことだ。
白の国への関所の近くまで船の定期便が出ていて、
関所の近くには港があるとのことだ。
白の国はいろいろな穀物や野菜が収穫できるため、
それを乗せるための大型の船なども行きかいしているらしい。
ただ、白の国方面から強い風が吹いていて、
黄の国から白の国に向かうのは、帆船では向かい風になるとのことだ。
一般的な船は、帆船がほとんどらしい。
帆船では近づきにくくなるほどの風が海上に吹いているとのことらしい。
「ただ、黄の国の王とアクアンズの力を借りれば、なんとかなるのではないかと」
リラはそんなことを言う。
俺が耳かきを作っている間、
リラは中央都市のいろいろなところで話を聞いてきたらしい。
黄の国の王とアクアンズの力があれば、
風に頼らない船を使うことができる、らしい。
「ひとまず、黄の国の王に頼んでみるか。耳かきも出来たことだしな」
「一日でそれだけの耳かきが作れるのは、やはりすごいですね」
「いや、リラが情報を集めてくれるとわかっていたから集中できたんだ」
ありがとうと、心からリラに礼を言う。
リラは恥ずかしそうにしていたが、
「お力になれてとても嬉しいです」
と、真っ赤になりながら答えた。
翌日、朝の鍛錬と朝飯の後、俺は時空の箱に耳かきを入れて、小屋も仕舞う。
俺たちはそのまま中央都市の議事堂へと向かった。
耳かきの納品の旨を話すと、
議事堂の大会議室というところに通された。
大会議室は大きなホールというものに近い。
しばらく待つと、様々の種族の、
多分俺の感覚で言う議員がやってきて席を埋めていった。
一番高いところに黄の王が座って、
俺は客人の座るような席に案内された。
席が埋まったところで、誰かがベルを鳴らす。
「これより耳かきの会議を執り行う」
黄の王が朗々と宣言する。
「耳かきの勇者、これへ」
呼ばれたので、俺は皆の視線が集中する中、前へ出る。
そして、
「まずは黄の王への贈りものです」
と、蜃の耳かきを従者に渡す。
従者は耳かきを黄の王のもとへと運ぶ。
「その耳かきは黄の国の蜃の貝殻で作ったものです」
「アクアンズの宝だな」
「彫られている文字は、俺の国の言葉です」
「細かい文字で異国の文字だ」
「耳に平和あれ、国に平和あれ、すべての存在に平和あれ。そう彫ってあります」
「そうか、良い言葉だな。この耳かきは国の宝にしよう。ありがとう」
「こちらこそ、ありがとう」
「では、耳かきはどれほど出来ただろうか」
黄の国の王に促され、俺は時空の箱からたくさんの耳かきを取り出す。
次から次へと耳かきがあふれ出てくる。
大会議室が驚きと歓声に包まれた。
「では、それぞれの耳かきについての特性を話していこう」
さまざまの種族に対応した耳かきの説明を、
俺は始めることになった。
聞く方も真剣ならば説明する俺も真剣だ。
黄の国始まって以来初めての耳かき会議がこうして幕を開けた。