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第26話 しょじゃの物語 なんとか暑いのを鎮めて涼めるようになった

中央都市に水が降って、

広がりかけた暑さ、暑邪の力がなくなっていく。

議事堂内に蔓延していた蒸し暑さもおさまって、

権力者たちがいた会議室もだんだん涼しくなってきて、

議事堂内に働いていた、いろいろな人たちにより、

ぐったりしていた権力者たちの手当てが行われる。

俺が神速の耳かきで耳の呪いを解いて、

議事堂に来るまでの間に制圧されたのだろうから、

それほど制圧されてから時間は経っていないし、

暑邪による害も少ないかと思う。

身体は大体生きるようにできている。

権力者たちの生命力はそれほどやわではないだろうが、

種族などによっては、暑さに弱いものもいるかもしれない。

そのあたりも、しっかり手当てしてもらいたいところだ。


リラは何かを探して会議室をうろうろしていた。

肩でペトペトさんが何かを言っているようだ。

ペトペトさんの言葉は俺にはわからない。

リラは言葉を聞きながら、会議室を探している。

会議室の隅っこに、リラは何かを見つけたようだ。

声をかけているらしい。

俺もリラの近くに行ってみる。

「もう大丈夫ですよ。あなたは何も悪くありませんよ」

リラは優しく呼びかける。

会議室の隅っこの物陰から、何かが出てくるのが見えた。

ペトペトさんの時同様、

邪なものだったものの核のようだ。

おそらく今回の暑邪の核だろう。

リラは、そっと核に触れる。

すると、核だったものは姿を持った。

ペトペトさんと同じくらいのサイズの、

肩に乗るほどのもじゃもじゃした、生き物のような何かだ。

もじゃもじゃは、とても長く生きたおじいさんの髭に見えないこともない。

髪も髭も長くなり過ぎた仙人のようだと俺は思った。

ただ、手足は毛の中にちまっとあって、

本体がどのくらいかはわからないが、

ほとんど毛でおおわれているようなものだ。

「勇者様、この子は暑邪の核です」

「なるほど、ペトペトさんみたいなものか」

「そうです。おそらく闇の貴公子に捨てられたのでしょう」

「奴にとっては、こういったものも使い捨てというわけか」

「私が面倒を見ますので、連れていってよろしいでしょうか」

「いいぞ。ペトペトさんのように力になるかもしれないしな」

「おいで。勇者様も歓迎していますよ」

リラは暑邪の核の毛玉に呼びかける。

毛に包まれた動物というよりも、おじいさんに見えてしまうのは、

まぁ、俺のイメージ的なものかもしれない。

暑邪の核は、リラの肩におさまった。

なんとなく、お礼を言っているように見えた。

「勇者様、この子に名前を付けてあげましょう」

「名前、か」

「今度は勇者様がつけてください」

俺は考える。気の利いた名前など付けた覚えがない。

暑邪、そしておじいさんと考えて、

「ショージィさんなんてどうだ」

「素敵なお名前ですね。あなたは今からショージィさんです」

暑邪の核だった存在は、

ショージィさんとして生まれ変わった。

鑑定してみると、

元・暑邪。生まれ変わったばかりでそれほど力はないようだ。

暑さの力を持つ従魔であるらしい。

多分あのまま核を晒したままだったら、

核ごと消滅していたのかもしれない。

それもあって、リラは会議室を探していたのだろう。

皆を大変な目に遭わせた存在だとしても、

ペトペトさん同様、彼らに罪はないとわかっている。

みすみす消滅させたくなかったのだろう。

ショージィさんはやっぱり俺にはわからない鳴き声を上げる。

リラには通じているらしく、リラが笑う。

ペトペトさんも何やら楽しそうに鳴いている。

神の耳を持つ巫女は、こんな会話もわかるのだなと改めて思う。

彼女の能力はすごいものだ。


ぐったりしていた黄の国の権力者たちに元気が戻ってきたようだ。

互いの言葉が間違えず通じることと、

中央都市自体に気力が満ち始めていることの確認。

そして、この場にいる俺についての説明が求められた。

俺は、耳かきの勇者と名乗り、

リラを神の耳の巫女と紹介した。

青年が水を飲んで一息つくと、

「僕が黄の国の王だ。一応この会議室の議長でもある」

青年はそう名乗った。

黄の国は長雨の国。それが悪化し始めたころから、

黄の国の水が悪さしているのではないかと思っていたらしい。

折しも耳は呪われていて、

会議室のそれぞれの意見が正確に伝わることはなく、

対立ばかりが深まっていった。

そして、水はどんどん増していき、湿邪が蹂躙するほどのことになり、

中央都市をはじめ、黄の国がもうダメかと言う時に、

雨雲が晴れた。

湿邪が徐々に抜けるかと期待していたその時、

突然会議室にいたすべての耳の呪いが晴れて、

まともな会議ができる、そう思ったら、

「あの黒い存在があらわれたんだ」

「闇の貴公子、だな」

「彼は会議室に結界を張り、手から何かを浮かび上がらせた」

浮かび上がった光のような、ぼんやりとしたそれは、

闇の貴公子が何かを唱えると、

ものすごい蒸し暑さを発生させていった。

会議室の皆は暑さで倒れていき、

黄の国の王の意識も朦朧としていった。

意識が完全に途切れる直前、

何かが壊れる気配がしたという。

「思えば、結界が壊れる音だったんだと思う」

「確かに、俺が結界を壊して突入した」

「その後、意識は途切れて、気が付いたら介抱されていた」

「闇の貴公子は倒してはいないが、ここから去っていった」

「とにかく黄の国は救われた」

「中央都市の耳の呪いも解いた」

「なるほど、都市の気脈が活発になっているのはそのためか」

「きみゃく、とは?」

「この世界を流れる、まぁ、世界の気力のようなものです」

「ふむふむ」

「これが滞ると世界の元気が失われていきます」

「それでは、この世界中に流れているんだな」

「中央都市の気脈解析班が、気脈を見ている」

「それは、都市だけではなく?」

「この世界の気脈の流れを見ている」

「なるほど」

黄の王曰く、魔王から放たれた耳の呪いがはびこって以降、

この世界の気脈の流れも悪くなってきているらしい。

世界から気力が失われつつあったらしい。

わかりやすく言うと、元気がなくなっていた、というわけだ。

気脈解析班は、

青の国と赤の国の気脈の回復を報告していたらしいが、

耳の呪われていた黄の国の王は、ちゃんとした報告として聞いていなかったらしい。

今思えば、あれは世界が回復していく予兆だったのかもしれないと、

黄の国の王は言う。

確かに、青の国と赤の国の耳の呪いは解いてきた。

国に暮らす皆の耳の呪いが解けて、国が活発に動き出すと、

多分その国の気脈も元気になるものなのかもしれない。

耳の呪いを解くということは、

争いごとのもとを断ち切るだけでなく、

皆を元気にするだけでなく、

この世界を元気に蘇らせることなのかもしれない。

「身体が落ち着いたら、アクアンズとも話をしたい」

「今ならば話せそうか?」

「ああ、耳の呪いによる僕の勘違いだったと今ならばわかる」

「まずは身体を落ち着けるといいと思う」

「ありがとう、耳かきの勇者」

「アクアンズたちも、きっと黄の国の王と話をしたいと思っている」

「ひどい事をしてしまったことも謝りたいと思う」

「きっとわかりあえる」

「ありがとう」

黄の国の王は、会議室からどこかに連れていかれて休むらしい。

会議室から出る前に、

気脈解析班のところに行ってみてはどうかと勧められた。

黄の国の気脈はおそらく回復傾向にある。

次はどこの国に行くべきかの道しるべになるだろうとのことだ。

黄の国の王は、そう伝えると、会議室を出ていった。


おそらく黄の国の耳の呪いは大まかには取り除けただろう。

あとは、耳の呪いを自分たちでも取り除けるよう、

黄の国に向けての耳かきをたくさん作る必要がある。

俺は黄の国の素材について尋ねるべく、

会議室を出てそれっぽい誰かを探すことにした。

きっと尋ねていけば、素材について思い当たる誰かがいるかもしれない。

今ならば聞いてくれるだろうし、きっと知恵も貸してくれるだろう。

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