目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第24話 としのみみの物語 中央都市にも耳があった

リラは深呼吸して、中央都市に向けて神語を放つ。


『ミナサン キイテ クダサイ ミナサンノ ミミノ ノロイヲ トキマス』


リラは精一杯の神語を放った。

しかし、俺の耳に感覚が共有できたのは、多分一部だ。

リラの神語の能力を耳かきで高めてもこれだ。

中央都市はそれだけ巨大でたくさんの住人がいるということか。

リラは俺の反応を見て、

続けて神語を放とうとする。

俺はそれを制した。

「なぜですか」

「さっきの神語で、でかい耳の感覚が共有されている」

「でかい耳?」

「その耳の呪いを解いて、その耳に向けて神語を放てば…」

「この中央都市すべてに神語が届くかもしれない、と」

「そういうことだ」

「その、大きな耳の位置はおわかりでしょうか?」

「耳の感覚が呼んでいる。中央都市の中のようだ」

中央都市の門は開かれている。

いろいろな種族のものが、けだるげに歩きながら行きかいしている。

門番もだるそうにしていて、仕事をできないようだ。

これでは中央都市を守れないと思うが、

ひとまず、俺たちの敵になろうとしているわけではないらしい。

魔王の、耳の呪いは中央都市にもはびこっていると思われるが、

湿邪が身体の内側に及び、皆の体調を崩しているようだ。

身体がだるくなったり、鬱状態に近くなっているように思われる。

攻撃的になるというよりも、

内向的になり、悩みが深くなるようだ。

それも、だるさから来る心の状態なのかもしれない。

行きかう人々の目は光をなくしている。

早く神語を届けて、神速の耳かきで耳の呪いを解かねばと思う。


ある種、俺の感覚で言うところの生気をなくした人々の群れ。

そして、あまりにも巨大な中央都市。

多分住人が増えるたびに増改築を無秩序に繰り返していったのだろう。

建物は上に伸びていき、規則性がない。

横を見れば路地が曲がりくねって伸びている。

この異世界に来て城というものをいくつか見てきたけれど、

中央都市はそのどれとも違う、

迷路のような都市になっている。

外から攻め込んで落とすには、かなり厄介な構造なのかもしれない。

日本の戦国時代の城でも、これほど入り組んだ構造はしていない。

多分、中央都市は意図せずしてそんな構造になったのだろう。

どんどん建物を増やして強固な要塞になった、とでもいうか。

そこに色々なものが集い、さらに建物が増えた。

それがこの中央都市だろう。

そして、でかい耳は俺を呼んでいる。

俺は耳の感覚を頼りに、迷路のような中央都市をリラと歩く。

路地、坂、階段、曲がった路地、上り坂から下り坂、

門はすでに見えなくなっていて、

中央都市の奥深く、建物は上に伸びていて太陽は細くしか見えない。

上り坂が多かったような気がするから、

中央都市を上りがちに来たのだろう。

不意に、明るくなった。

そこはおそらく中央都市の中心らしいところ。

空にも地面にも大きな穴が空いていて、

あんなに密集していた建物は、ここだけ、ない。

俺と感覚を共有したでかい耳は、この大穴にある。

もしかしたら、この穴に都市の機能があるのかもしれない。

俺たちに耳をはじめとして、

目や手や頭なんかの、身体の機能が存在するように、

この都市は、この穴に都市の機能があるのかもしれない。

この都市はこの穴を中心にして生きている、俺はそう感じた。

俺は目を閉じ、でかい耳の感覚を細かく感じなおす。

おそらく耳が呪われている。

それに加えて、湿り気が悪さをしている。

この都市の感覚がそのまま、

この都市に住まう住人の耳の呪いと不調につながっているようだ。

生きている都市の耳、無生物にも効果のある竹の耳かきという手もあるが、

耳の感覚では湿り気が溜まっているようだ。

俺は、時空の箱からアクアンズの拾ってきた貝殻の、

大きなものを取り出して、耳かきに錬成する。

大きな耳かきは、たびたび作ってきた槍のような耳かきだ。

俺は、中央都市の大穴の向かって、

錬成した耳かきを投げ入れ、


「遠隔耳かき!」


俺はでかい耳の感覚を頼りに、投げ入れた耳かきを遠隔操作する。

でかい耳に届いている音、感覚、俺の耳かきの気配、

俺は耳の感覚に集中して遠隔操作をする。

そして、でかい耳に俺の耳かきが触れた。

やはり中央都市の耳は、この穴の中にあった。

耳かきの感覚さえ共有できればこちらのものだ。

俺は遠隔耳かきで中央都市の耳をかく。

耳の呪いは晴れていき、悪さをしていた湿り気も抜けていく。

中央都市がなんだか大きく深呼吸をしたような気がした。

揺れたわけではない。

ただ、都市全体がほっとしたように思われた。

建物などにはびこっていた陰鬱な空気が晴れていく。

俺は中央都市の耳をかいて、

遠隔耳かきで槍のような耳かきを回収する。

「中央都市の耳の呪いは解けた。リラ、これならば皆に神語が届くだろう」

「わかりました。行きます」

リラは深呼吸した。そして、


『ミナサン キイテ クダサイ ミナサンノ ミミノ ノロイヲ トキマス』


先程と同じ神語であるけれど、

中央都市の耳を経由して、中央都市全体に神語が届く。

中央都市のすべての存在に神語が届き、

俺の耳と感覚が共有される。

これならば、行ける。

俺は通常サイズの貝殻の耳かきを持った。

おそらく、身体に害をなしている湿邪をはらうにはこれがいい。

俺は耳かきを構え、


「神速の耳かき!」


叫んで神速の耳かきを発動させる。

迷路のような中央都市の中、感覚共有している耳たちを頼りに、

俺は最短距離ですべての耳の呪いを解いていく。

耳の呪いを解くたびに、ブーストがかかっていき、

俺の耳かきは早く、正確に、心地よくなっていく。

いくら神速の耳かきをしても途切れない。

耳の呪いを解いている限り、

スキルの能力は上がっていき、スキルが途切れることを知らない。

聞きかじりだが、いわゆる経験値がものすごく入ってきていて、

レベルが高速で上がり続けているようなものなのかもしれない。

そのあたりのゲームはしたことがないのでよくわからないが、

その言葉が、この感覚を表現するのに一番しっくりくる。

ステータスというものはよくわからないけれど、

数値はすごいことになっているだろう。

俺は迷路のような城塞の、中央都市すべての存在の耳の呪いを解く。

そして、神速の耳かきの起点、

中央都市の感覚のあるであろう穴のふちに戻ってきた。

リラが待っていた。

「おかえりなさいませ」

「ああ、これで全部だ」

「お疲れ様です。勇者様」

リラが俺をねぎらう。

「よくやってくれた、耳かきの勇者よ」

耳に直接声が届く。

感覚共有している、でかい耳だ。

「これでこの都市も、皆も生気を取り戻すだろう」

「この声は、あんたは…」

「皆が中央都市と呼ぶものだ。古い名前は忘れた」

「あんたはもう大丈夫なのか」

「ああ、おかげでな」

「そりゃよかった」

「都市はともかく、都市をまとめている権力者たちも大変だったと思う」

「アーシーズとアクアンズが対立したりしたらしいな」

「おそらく黄の王の耳の呪いの所為だと思われる」

「今はどうだろうか?」

「中央都市の耳の呪いは消えた。話が通じるかもしれない」

「ありがとう、その、中央都市さんよ」

「ははっ、名がないとやはり不便なのだな」

中央都市の意識はそういって笑った。


リラのもとに、ペトペトさんが湿邪の残骸を掃除して戻ってきた。

多分中央都市はきれいになったはずだ。

黄の国の雨雲は晴れた。中央都市の耳の呪いはなくなった。

「これから、中央都市の権力者に会いに行こうと思う」

「今ならばお話ができるかもしれませんね」

「黄の国は中心にある国だ。他の国のことも聞けるかもしれない」

「ひどい事になっていないといいのですが…」

リラの顔が曇る。

俺はリラの背中を軽く叩いた。

「大丈夫だ。何かあったとしても、俺とリラならばなんとかできる」

ペトペトさんが何か鳴いたらしい。

「ペトペトさんも、だそうです」

「そりゃ心強い」

俺たちは中央都市の権力者がいる場所を訪ねに行くことにした。

俺たちならば、きっとなんとかなる。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?