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第23話 ちゅうおうの物語 この世界の中心の都市はとても大きかった

朝になった。夜のうちに洗濯した衣類はちゃんと乾燥されて、

さわやかな着心地に仕上がっていた。

やはりびしょびしょよりはこっちの方がいい。

俺は朝の日課の走り込みをする。

雨雲の耳の呪いを解いたせいか、

今日の黄の国は晴れている。

暑くもなく、湿度も抑えられているようだ。

走り込みをして心地いい気候だ。

異世界に来る前は山道を走り込んでアップダウンがあったが、

今のところ、異世界の国々の、小屋を出したあたりは、

山らしい山の地形は少ない。

他の国にあるのかもしれないし、

もしかしたら黄の国にもどこかにあるのかもしれない。

とにかくまだ見ていないものがたくさんある。

俺はそれらを楽しみにしつつ、朝の鍛錬をする。

小屋の周りから、少し離れたところまで走る。

街道にそって、昨日まではかなりの水位まで水が来ていたが、

それがだいぶ下がったように思う。

俺の感覚でいうところの、氾濫危険がなくなったという感じだ。

川と海が一緒になったような黄の国の水だが、

塩気はあまり感じなかったし、

俺の感覚とは違うのかもしれない。

塩はもしかしたら俺の感覚とは違う手段で作られているのかもしれない。

俺の知らない存在がたくさんいる世界だ。

多分知らないことは山ほどあるだろう。

塩に限らず、とてもたくさん。


鍛錬を終えて、小屋に戻ってくる。

小屋の周りの畑から野菜を収穫し、

畑のスペースが空いたところを耕しておく。

時空の箱に入れている所為か、

畑の環境が良くなっているらしく、作物の成長が順調だ。

反面、時空の箱に小屋とその周りが入っている所為で、

季節感がなくなっているらしい。

それはそれとして、季節を問わずに作物が作れるものとして、

次の作物の種を植えることにした。

リラは好き嫌いはなさそうに思うけれど、

俺の世界の野菜でこれは食べられないものがあってもおかしくない。

そのあたりは、いくつも食事を重ねていく中で知っていこう。


収穫した野菜で朝ご飯の準備をしていると、

リラが起き出してきた。

肩にいるペトペトさんも眠そうに見えるが、

ペトペトさんの言葉は俺にはよくわからないので、

まぁ、眠そうだとしかわからない。

野菜と、今日はアクアンズの取ってきてくれた魚を捌いて出した。

山の中に暮らしていたけれど、

興味本位で魚の捌き方も練習したため、

朝から魚の刺身が並んだ。

簡単にサラダ風にしたところ、

リラはとても気に入ったらしい。

口に食べ物を入れながら美味しいを訴えた。

リラに、ペトペトさんは何を食べるんだと尋ねたところ、

ペトペトさんはリラの耳元で内緒話をするように何かを言ったらしい。

それをリラが翻訳したところ、

捨ててしまうもので十分、らしい。

例えば魚のはらわたや皮などがあるかと思う。

あとは、野菜のクズなど。

ペトペトさんに限らず、おそらく他の邪気がこのような姿になったら、

美味しいものというよりも、

捨ててしまうようなもので十分力になるらしい。

なるほどなと俺は思う。

俺はリラとペトペトさんを台所に連れていく。

ペトペトさんに生ごみを見せると、

ペトペトさんは生ごみを食べ始めた。

何か訴えてきているのでリラに翻訳を頼んだところ、

これは気力に満ちているものだ、ペトペトさんも強くなれる、らしい。

ペトペトさんは、力こぶを作るような動きをした。

そこが腕なのだろうかと思ったが、

まぁ、ペトペトさん的にはそうなんだろう。


俺たちは片づけをして身支度を整えると、

小屋を時空の箱にしまって、

黄の国の中央都市を目指すことにした。

湿邪から解放した町の近くの街道。

そこに看板があり、中央都市はこの道とある。

整えられた道がまっすぐ続いている。

やはり道は俺の感覚でいうところの堤防のような形になっていて、

黄の国の街道は、水の近くに土を盛り上げて作る道になっているようだ。

中央都市へと進んでいくと、いくつか大きな橋に当たる。

なるほど、土を盛り上げて道にするばかりでは、水をせき止めてしまうからだろう。

やがて、視界に大きなものが見え始めた。

建造物のような、山のようなものだ。

街道を歩いている俺たちのもとに、

街道の下の水から声がかかる。

アクアンズらしい。どうやら長のようだ。

「中央都市の見張りに回している者から連絡がありました」

「何かあったのか」

「中央都市も湿邪の影響があったようです」

「あの雨だったからな」

「雨雲が晴れたことで中央都市の機能も回復に向いているようです」

「人の動きが戻ってきたということか」

「しかし、中央都市のアーシーズの動きは鈍く、体調が戻っていないようです」

「おそらく重ねて、耳の呪いもあるだろうな」

「そうですな、アーシーズは、水にいない分、耳の呪いを受けやすいかと思います」

「ところで、中央都市とは、あの大きな山なんだろうか」

俺は街道の向こうに見える、山とも建造物とも知れないものを指して示す。

「あれが中央都市です。黄の国の一番大きな陸に作られた、建造物の塊です」

「かなりの大きさだな」

「この世界の中心でもあります。すべての産業などが集まっているところでもあります」

「そこの機能が止まっていては、たまったものではないな」

「できれば耳かきの勇者様に、中央都市の皆の耳の呪いを解いてほしいのですが」

あの大きな都市の皆の耳の呪いを解けるでしょうかと、

アクアンズの長は尋ねる。

俺の神速の耳かきの発動でどこまでいけるのかにもよるし、

まず、リラの神語がどこまで届くかにもよる。

俺とリラの力次第ということだ。

邪魔をする存在もあるかもしれないし、

耳の呪いが今までと同じとも限らない。

これだけ耳の呪いを解いてきて、

魔王側が黙っているとは思えない。

そして、耳の呪われた中央都市の権力者が何かをしていないとも限らない。

町を湿邪で蹂躙していった、闇の貴公子の例もあるし、

アクアンズを敵視し始めたアーシーズの例もある。

俺たちの実力でどこまでいけるかはわからない。

ただ、出来る限りのことはすべて出し尽くしたいと思う。


アクアンズの長に連絡の礼を言い、

俺たちは街道を行く。大きな橋を渡り、建造物の塊はどんどん大きく見えてくる。

たどり着いて、俺は中央都市の大きさに圧倒された。

まず門から相当な大きさだが、

そこから見える中央都市の建造物の塊は、

見上げても足りないほどの大きな山のようだ。

多分だが、中央都市というこの都市に、

大小さまざまの建造物をどんどん作っていったのだろうと思う。

これも憶測だが、黄の国だけでなく、いろいろな国から色々な者が集い、

中央都市でいろいろな商売などをしていたり、

産業に従事していたり、生活をしていたりするのかもしれない。

なるほど、この世界の中央の都市にふさわしい大きさだ。

門は開いていて、けだるそうに人が行きかいしている。

門の中には湿邪の残骸が張り付いている。

雨雲が晴れたことで、中央都市の湿邪も乾いたのかもしれないが、

身体に害をなすものは、まだ残ったままなのだろう。

俺は赤の国の仔馬の角の耳かきを取り出す。

「リラ、今から耳をかかせてもらう。神語がこの都市全部に届くかがカギだ」

「わかりました。お願いします」

「ペトペトさんに、この都市の湿邪の残骸を回収するように頼めるか?」

「はい、ペトペトさん、湿邪の残りを回収してください」

ペトペトさんは鳴き声を上げて中央都市にかけていった。

俺はリラの耳をかく、リラに耳かきの力が宿る。

そして、俺はアクアンズの拾ってきた貝殻で作った耳かきを構える。

貝殻の耳かきは湿度の高い耳垢を取り除く。

湿邪にやられていたならば効果が高いだろう。

俺はリラに目配せする。

リラはうなずいた。

リラは深呼吸した。精一杯の神語を放つために。

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