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第22話 かいがらの物語 特別な貝殻から作った耳かきもチートだった

黄の国の町から出ると、街道沿いぎりぎりまで上がっていた水の水位は、

下がりつつあるように見えた。

赤の国の水門をちゃんと解放した影響が出始めているのかもしれない。

「やりましたな、耳かきの勇者様」

水面から頭を出しているのは、アクアンズの長だ。

「まさか雨を晴らすとは思いませんでした」

「湿邪は湿気を力にすると思ってな。それで思い切って雨雲の耳の呪いを解いた」

「それができるのが、耳かきの勇者たる所以ですな」

「それが俺の役目でもある」

「そうですな。そうそう、海底よりいくつか、素材になりそうなものを集めてまいりました」

アクアンズの長が、歌うような鳴き声を放つ。

先程町に来るときに乗ったイルカのような海の獣が、

網のようなものを担いで運んできた。

アクアンズがその網を外して、陸の上へと取り出す。

俺が見る限り、これは貝のようだ。

大小さまざまの貝殻がある。

あと、サンゴのようなものもある。

その他に、歪んで細長くなった真珠のようなものがある。

アクアンズの言うところによると、

この真珠のようなものは、大きな貝の中で成長し過ぎたものであるらしい。

大きな貝からたまに取り出さないと、

貝の具合が悪くなってしまうらしい。

丸のものはいろいろな国に装飾品として輸出されているけれど、

このように歪み切ったものは使いようがない。

耳かきの勇者に使ってもらいたい、とのことだ。

俺は歪んだ長い真珠を手に取る。

いくら何でも真珠というには大きすぎる。

どんな貝から取れるのかと聞いたところ、

海の底にしんという貝がある、貝たちの長だという。

蜃は海の底で大抵眠っていて、

その夢が海の上まで登っていくと、

蜃気楼という幻として現れるらしい。

このところの耳の呪いは海底まで届きにくいけれど、

海底まで届いた耳の呪いを蜃が巻き込んで、

大きな真珠に固めたものがこれであるらしい。

おかげでずいぶん大きすぎるものになって歪んでしまい、

使いようがないという話だ。

俺はありがたく素材を受け取る。

それから最後に、先代の蜃の貝殻をアクアンズが持ってきた。

アクアンズの大切な儀式のための装飾品などに代々使われて、

先代の蜃の貝殻はだいぶ使われたらしい。

それでも持ってきてくれた貝殻は、中途半端な大きさではなかった。

元は相当大きなものだったと思わせる代物だ。

長い年月を生きた貝だったのだろう。

大切なものをありがとうと、俺は素材を受け取る。

まだ半分以上残っていますとアクアンズは言う。

俺が思う以上に巨大な貝であったらしい。

黄の国の海はいろいろな存在があるようだ。

大きな貝の長しかり、リヴァイアサンしかり、

俺の想像もつかない存在があってもおかしくはない。

俺は、時空の箱に素材を入れる。

貴重なものまで分けてもらえた。

しっかり期待には応えないとな。


先程、雨雲が晴れた空は、茜色に染まってきている。

もうすぐ日が沈むのかもしれない。

「勇者様、今日はこれからどうなさいますか」

アクアンズの長が尋ねる。

「本当は中央都市まで足を伸ばす予定だったが、そろそろ日が沈むな」

「勇者様はアーシーズに近いとお見受けします。湿り気で大変だったでしょう」

「そうだな、なんだかんだでびしょ濡れだ」

「今宵はお休みになられ、明日中央都市にお向かいになられるがいいでしょう」

「中央都市に問題がないならばいいんだが」

「我々が中央都市の様子をみはっておきましょう」

「ああ、よろしく頼む」

俺は、町の近く、街道にほど近い広場に、

時空の箱から俺の世界の小屋を出す。

アクアンズは驚いたようだ。

「それが勇者様のお住まい」

「ああ、神様からもらった時空の箱に入っている」

「なるほど、伝説の時空の箱でしたら、魚も悪くはなりますまい」

アクアンズの長が鳴き声を上げると、

アクアンズが魚を捕らえて持ってきた。

鑑定をすると、大体俺の世界の魚と同じようだ。

調理法も大体同じで問題はなさそうだ。

毒を持った魚は捕ってこなかったらしい。

至れり尽くせりだ。

俺は時空の箱に、いただいた魚も入れて、

俺と、リラと、ペトペトさんが小屋に入る。

アクアンズは中央都市をみはりに行ったらしい。

やがて、夜のとばりが降りてきた。


リラが風呂に入っている間、

俺は海の素材で耳かきを作る。

まずは一般的な貝殻。

錬成すると、螺鈿細工のような耳かきになった。

錬成でなければできないものだな。

鑑定し、効能を見る。


 貝殻の耳かき

 湿度の高い耳垢を吸着する効果がある。

 湿度でこびりついた耳の呪いを解く。


なるほど、飴耳耳垢が綿棒でなくても取れるというわけか。

飴耳耳垢がたくさんになると、

綿棒をたくさん使っても、なかなか取り尽せない。

貝殻の耳かきならば、スパッと取れるわけだ。

続いて、サンゴから耳かきを錬成する。

俺の世界では、サンゴは高級品だ。

赤い物などはすごい値段がつくことでも有名だ。

それに匹敵するほどのサンゴでの耳かき。

俺の世界での通販にかけるのはやめておこう。

さて、鑑定をする。


 サンゴの耳かき

 成長、老化を遅くする効果がある。

 確実に年は重ねるけれど、

 成長や老化のスピードは、十年間、百分の一にまで遅くなる。

 サンゴの耳かきで耳をかき続けることにより、

 その効果は持続する。


なるほど、サンゴの成長が遅いからこその効果かもしれない。

続けて、歪んだ真珠で耳かきを錬成する。

装飾用にならないということで譲り受けたが、

真珠の耳かきなど、俺の世界には持っていけないな。

錬成し、鑑定。


 歪んだ真珠の耳かき

 音を聞き分けられる効果がある。

 どんなに音が重なっていても、すべての音を聞き分けることができるようになる。

 また、絶対音感を一時的に得ることができるようになる。

 素質のあるものは、音楽の才能が伸びる。


真珠の耳かきは、音に関するものらしい。

確かに、耳と音は切っても切り離せないものだからな。

この耳かきもまた、何かの役に立つかもしれない。

最後に、先代の蜃の貝殻の一部から耳かきを錬成する。

あまりにも大きいので、ほんの少し使っただけで、しっかりとした耳かきが錬成できた。

一般的な貝殻とは輝きが違う。

鑑定をしてみる。


 蜃の貝殻の耳かき

 悪夢を消し去る効果がある。

 悪夢だけでなく、悪い思い込みや、苦しい妄想など、

 幻のようなものでの苦しみを除去する効果がある。

 耳の呪いだけでなく、

 耳の呪いがもとで身体に及ぼした悪影響も、

 除去し、正常にする効果がある。

 邪なものに対する力が強い。


なるほど、確か湿邪の他にも邪なものがあると、

リラが本で調べたと言っていたな。

それに対抗できるかもしれない。

悪夢で苦しむ誰かの助けにもなるかもしれない。

これもいい耳かきだ。


リラが風呂から上がってきて、俺が通販で買った寝間着を着ている。

ペトペトさんはリラのそばに行って、定位置の肩におさまった。

ペトペトさんは、とりあえず風呂には入らないらしい。

入れ替わりにオレも風呂に入って、今日の衣類は洗濯乾燥をする。

濡れたり湿ったりが多い一日だった。

身体もだいぶ冷えてしまった。

湯船に浸かって伸びをする。

温かくなると生きていると感じる。

今日もいろいろな耳かきを作ることができた。

これらの耳かきが、誰かの役に立つといい。

俺はゆったり風呂につかって疲れを癒した。

明日は中央都市に行こう。

何が待っているだろうか。

なんとかするのが、耳かきの勇者の俺の役目だ。

明日も頑張ろう。

リラもいる、ペトペトさんもいる、たくさんの耳かきもある。

きっと、なんとかなる。

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