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第17話 こうまの物語 仔馬の角でトンデモ耳かきができた

夕方頃、俺たちは赤の城に帰ってきた。

火の谷探索部隊の皆が、何やら報告をしているようだ。

そして、角あるものの祖の獣、角の生えた仔馬を示すと、

赤の城は大騒ぎになった。

なるほど、ホーニーズにとっても、神聖な獣なのだろう。

すべての角あるものにとっての祖であるわけだ。

親は呪いが元でなくなってしまったらしいが、

どうかこの仔馬が大事にされるといいと思う。

大騒ぎの赤の城から、

少年の赤の王が駆けだしてきた。

「角あるものの祖の獣がいるというのは本当か!」

その顔は、王というより、少年のそれだ。

仔馬は小さく、ヒンと鳴いた。

赤の王は仔馬に近づいて、

そっとその背を撫でる。

仔馬は赤の王にすり寄ってきた。

顔を寄せ、仔馬は赤の王の顔を舐める。

赤の王はくすぐったさで大笑いした。

「決めた、角あるものの祖の獣は、僕が責任を持って育てる」

赤の城の従者たちは何か言おうとしたらしい。

多分、王自ら育てるなど、ということだったのかもしれない。

ただ、赤の国にとって、ホーニーズにとって、

神聖なる存在が、赤の国のトップである王のもとで育てられるならば、

それが一番いいのではないかということになった。

赤の王は角あるものの祖の獣の仔馬に名前を与えた。

仔馬は嬉しそうにいなないた。

その瞬間、仔馬の角がポロリと落ちた。

赤の王がびっくりした後、角の生えていた跡を撫でる。

「僕と一緒だ。生え変わりが起きたんだ」

仔馬は嬉しそうに鳴いた。

赤の王は仔馬から折れた角を手に取り、

俺のもとに持ってくる。

「これも耳かきの素材としてもらいたい。できれば、赤の国に最高のものを納品してほしい」

俺は仔馬の角を受け取る。

「わかった、最高の耳かきを作ろう」

「よろしく頼む。さて、この仔の住処から作らないとな。皆のもの、あとに続け」

赤の王が赤の城に戻っていく。

部下、家来、従者、大臣、皆が慕うようについて行く。

俺とリラも後に続いた。

きっと赤の王は、皆に大切にされている。

健やかに育ってほしいと願われていた。

だから、耳の呪いがあった際には、

赤の王を守ろうとして、戦争を仕掛けることまで考えた。

そもそも、黄の国から水が来なくなったのが原因だ。

赤の王にちゃんとした生活を送ってもらうために、

水をせき止めた黄の国に戦争を仕掛け、

水を取り戻そうと考えていた。

いまだ水は戻ってきていないけれど、

すべては赤の王のためであり、

最悪の事態である、戦争を仕掛けることは止められた。

とにかく、黄の国に行かなければならないなと俺は思う。

何の意図があって水を止めているのか、

それを突き止め、赤の国に水を取り戻さないといけない。

あるいは、そこに耳の呪いが関わっているのならば、

その耳の呪いも解かねばならない。

耳かきはいくらあっても足りない。

日々精進だ。


赤の城の大広間のような場所で、

赤の王が仔馬を育てることになったことや、

火の谷で起きたことなどの報告がなされる。

火蜥蜴の耳の呪いも、恵みの火の耳の呪いも解いたことも報告される。

王の許可を得て採取した火の石に関しては、

それでいい耳かきを作ってほしいとのことだった。

誠心誠意、耳かきを作って耳の呪いを解いていくと、俺も宣言した。


報告を終え、俺とリラは城の外の開けた場所にやってきて、

俺は時空の箱から小屋を出す。

赤の国で得た素材も、

食料なども傷むことなく小屋の中にある。

肉などは結構な量をもらったから、

時空の箱で、傷まないのはありがたい。

俺はふと、リラに尋ねる。

「そういえば、城よりこんな小さな小屋の方がいいのはなんでなんだ?」

リラは少しだけ考えて、

「私の外見は、どう思いますでしょうか?」

と、尋ね返してきた。

白い髪に赤い目。

俺の世界では滅多に見ないなとは思った。

「私の髪や目の色は、特殊なのです。奇異の目にさらされるのが、好きではありません」

「なるほどな。それで人が多いところは苦手なのか」

「耳かきの勇者様と一緒でしたら、怖くはないのですが…」

「一人でいると、いろいろ怖いわけか」

多分だが、異質なものに向ける視線というものは、

俺の世界もこの世界も、根っこは似ていると思う。

そして、リラはそれが苦手なのだ。

神の耳の巫女になるまでに、多分、いろいろな苦労があって、

皆の耳の呪いもあって、いろいろあって、人がたくさんいるのが苦手になったのだろう。

「勇者様はご迷惑ではないでしょうか?」

「いや、俺は歓迎するよ。耳の呪いを解く、大切な相棒でもあるからな」

「相棒…。そう認められたのですね。なんだか嬉しいです」

「これからもよろしくな」

「はいっ」

リラが笑顔になる。

笑顔は多い方がいい。


小屋の敷地内にある畑から野菜を収穫。

肉などとともに料理を作った晩飯にする。

あとで通販の置き配で、調味料を増やしてもいいかもしれない。

この小屋の敷地内は、

俺の世界とこの世界が交差してつながっている。

水道も電気も来ているし、配達員も入ることができる。

ただ、配達員などはこの世界に来ることはできない。

どういった仕組みかはわからないけれど、

神様が何やらやったのだろう。

風呂も終えて落ち着いた後、

俺の世界の本職の耳かき職人として、耳かき通販のために、

異世界の素材で耳かきを錬成する。

木や竹、骨や角であるならば、

俺の世界でもそれほど大ごとにはならないだろう。

たくさんある素材から、通販用耳かきを作って、

通販用のサイトに在庫登録しておく。

注文が入ったら発送すればいい。

その作業をしてから、

俺は仔馬の角を手に取る。

角あるものの祖の獣と呼ばれる仔馬の角だ。

神聖なるものの角、ぞんざいに扱ってはいけない。

俺はいつもより慎重に耳かき錬成をする。

耳の匙や柄の長さ、耳をかくにあたってのバランス、

錬成しながら感覚でとらえる。

そして、角の耳かきの柄に、火蜥蜴の脱皮した皮を巻き付けて定着させる。

角の耳かきは、片方は匙型、もう片方は、スパイラルになっている。

スパイラル耳かきは、金属のものに多く、

小さな輪が重なっているような形をしており、

全方向の耳の穴がかけることが特徴だ。

耳かき錬成ならば、角から作り出すことも可能というわけだ。

俺は早速、出来上がった耳かきの鑑定をする。


 角あるものの祖の獣の角と火蜥蜴の耳かき

 聖獣の加護が二重についており、

 ひとかきすれば耳の呪いは確実に消滅する。

 角の特殊効果

 遠くの音までよく聞こえるようになる。遠くまで声を届けることができるようになる。

 火蜥蜴の皮の特殊効果

 洞窟に住んでいる火蜥蜴のように、暗い場所でも夜目が利くようになる。


なるほど、これで耳をひとかきすれば、

耳の呪いがすぐに解けるというわけか。

遠くの声も聞こえて、遠くに声が届けられるというのは、

きっと、王にとって役に立つ能力になるだろう。

皆の声が聞こえて、声が届くようになったら、

赤の王の声ももっと届くだろうし、

慕っている皆の声ももっと届くはずだ。

夜目については、今は付属効果の域ではあるけれど、

どこか、暗い地域で困る誰かがいたら、

火蜥蜴の皮を用いた耳かきが威力を発揮するかもしれない。

会心の出来栄えのものができた。

また、火の石でも耳かきを錬成した。

こちらはとりあえず、通常の匙型のものを作ってみた。


 火の石の耳かき

 赤の国の火の石で作られた耳かき。

 あたたかく柔らかい耳あたりが特徴。

 この耳かきで耳をかくと、体温が上がる。


なるほど、これはこれで使いようによっては使えるかもしれない。

例えばだが、寒い地域で凍えている誰かに、

この耳かきで耳をかいたならば、暖かくなるということか。

これもまた、いい出来栄えのものになった。


耳かきの勇者と言われているけれど、

元は一介の耳かき職人だった。

作る耳かきが皆のもとに届き、

皆が喜んでくれるのが嬉しい。

俺は寝る少し前まで、赤の国のために耳かきを錬成し続けた。

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