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第10話 こっきょうの物語 今度は赤の国に行くことにした

ゆっくり休んで青の国に朝が来た。

昨晩は、リラのために通販で注文したいろいろなものが届いて、

髪がサラサラになったとか、身体がすべすべになったとか、

この着心地のいい衣類は一体とか、

リラが大騒ぎをしていた。

マイナスの反応ではないので、良しとしよう。

俺は、俺用に布団を通販で注文していたので、

空の果ての国の雲で寝ることはしなかった。

あれもなかなかいいんだが、

やっぱり俺は布団の方が性に合っている。

単純に、それで育ったということだな。

さて、朝になったら、

小屋の周りの畑の手入れをして、

必要であれば収穫。

今日もいい野菜に仕上がったみたいだ。

リラはいつも飯が美味いと言ってくれるが、

この世界はどんな飯を食べているのだろうか。

そのあたりも少し気になった。

確か、芽狩りの部隊に同行した際には、

弁当みたいなものとして、パンのようなものを食べた記憶がある。

鑑定をしておけばよかった。

畑の手入れが終わったら、

どんな耳かき素材も使えるように、朝の鍛錬。

とにかく硬い素材などを使う時は、

やはり筋肉が物を言う。

技術もそうだが、鍛えていないと、扱えない素材があることは、否定できない。

本当は山道を小屋から麓まで往復したいのだが、

ここでそれはできないので、走り込むことで解消する。

そして、耳かき斬術に関しても、型を学びなおしておく。

もしかしたら、型を学びなおすことで、

派生して次の型のスキルなどが得られるかもしれない。

あるいは、全く違う耳かきの何かのスキルも、取得できるかもしれない。

一通り鍛錬を終えて、

俺はシャワーで汗を流して、

朝飯づくりに取り掛かる。

食材はまだあるけれど、小屋まで通販を届けてもらうこともできるし、

なんだったら、異世界で鑑定をしたうえで、

異世界のいろいろなものを、食材にしてもいいかもしれない。

まだ調味料などはある。

最低限の知識さえあれば、

なんとか飯に仕上がるだろう。


俺が適当な朝飯を作っている間に、

リラが起きて着て身支度を整えていた。

森の中をかなり歩いたので汚れた服を洗濯して、

朝になったら乾くように干しておいたものだ。

気持ちよく起きたであろうリラと、

一緒に朝飯を食べる。

「それで勇者様、今度はどうなされるのですか?」

「今度はって?」

「青の国の耳の呪いはこうして解かれました。次はどこに向かわれるのでしょうか」

俺はうーんと唸って考える。

異世界は、どこもかしこも俺の知らない国だ。

最初に国に入る際に、攻撃されることもあるかもしれない。

なにせ、みんな耳が呪われているのだ。

疑心暗鬼を極めているような状態だ。

「青の王に相談してみるよ」

「なるほど」

「国交をしていて、耳の呪いがひどそうな国はどこか。そこに行ってみるよ」

「危険ではないでしょうか」

「危険でも、みんなの耳の呪いを解かなくちゃな」

「勇者様はお強いですね」

「俺が耳の呪いを解くには、リラもいなくちゃいけない」

「私も…」

「神語で耳を繋いでもらわないと、俺は耳の呪いが解けないんだ」

「お役に立ててますでしょうか」

「君でないとダメなんだ」

「ありがとう、ございます」

リラは少し泣きそうになっていた。


朝飯の後片付けも終え、

小屋を時空の箱に戻す。

当たり前の広場が残った。

その後、王に謁見する。

王からはねぎらいの言葉と、耳かきを青の国で買い上げた代金が支払われた。

青の国の国民すべてにいきわたるくらいの耳かき、

その代金はかなりのものだ。

俺はありがたく頂戴して、代金を時空の箱に入れる。

多分、俺の世界の方の通帳と、この異世界の通貨の、

両方共用として使えるようになっているはずだ。

「さて、耳かきの勇者よ。次はどこに向かうつもりだ」

青の王が尋ねる。

「耳の呪いがひどそうな国に行こうと思っています」

「ふむ…それは危険ではないか?」

「いずれ全ての耳の呪いを解きますから、早いか遅いかの違いです」

「なるほど…」

「それで、国交をしているにあたり、耳の呪いがひどそうな国はどこでしょうか?」

青の王は考えて、

「赤の国がひどそうだな。録音された文書が攻撃的になっている」

確か、最初に青の王に謁見した際、

黒の国から、青の王の髪を分けてほしいという録音文書があった。

あれは攻撃的ではなく、青の王の耳が呪われているための、

勘違いだったとわかったわけだ。

ということは、比較的、黒の国の耳の呪いはひどいことにはなっていない。

一応、表面上は。

ただ、耳の呪いが解かれた青の王が、

赤の国の録音文書が攻撃的だというならば、

多分赤の国は、耳の呪いがひどい事になっている。

そうでなくても、国同士の表に出ていないだけで、

耳の呪いがひどい事になっている国もあるかもしれない。

国同士という表に出ているとするならば、

赤の国の耳の呪いは、かなり深刻な事態かもしれない。

「行くのか、赤の国へ」

「はい、多分事態はかなり深刻です」

「青の国の護衛は国境までしか行けぬ」

「大丈夫です」

「強いな、耳かきの勇者は」

青の王が感嘆する。

「さらに強くなり、世界中の耳の呪いを解いてくれ。頼んだぞ」

「はいっ」

俺とリラは、青の王に一礼して、その場を去った。


赤の国との国境まで、青の国の護衛と道案内がつくことになった。

青の国の食事が、弁当として持たされた。

木の皮で包まれた、パンみたいなものと、

食用に育てられた鳥を焼いたもの。

香りをかぐ限り、燻製の気配が強いようだ。

多分木材で燻製をしてあるのだろう。

俺たちは青の城を出発して、赤の国との国境を目指す。

街道は一応あるのだが、

森がすぐ近くまで生い茂っていて、

見通しはあまりよくない。

途中で弁当の燻製鳥と、簡素なパンをいただいた。

味付けにもう少し塩があってもいいと思ったが、

もしかしたら、青の国では塩が貴重品なのかもしれない。

俺の世界でも、岩塩とか、海水塩とかがおもだし、

取れないとなれば、塩は貴重だ。

青の国と国交を結んでいる国の、耳が呪われていたら、

塩が入ってこない事態も想定しうる。

海のある国は黄の国だと聞いているけれど、

そこが塩を出し渋ったならば大ごとかもしれない。


街道を進んでいくと、

壁がそびえたっている。

「あれが、国境の壁です」

壁は国境にそって、ずっと見える限り続いている。

「国境の壁は魔法で建てられています。通常、壊すことはできません」

「なるほど」

「歩いて入るならば、国境の壁の関所で許可を得てからになります」

「その他には、竜便か」

「竜便は本数が限られており、大抵の場合は、許可済みのものが飛びます」

「俺たちのあれは特別だったってことか」

「耳が呪われていたとはいえ、大変失礼いたしました」

「いや、大体わかったから大丈夫だ」

俺たちは青の国の端っこ、

赤の国との国境の関所にたどり着く。

「我々はここまでになります」

「今までいろいろありがとう」

「勇者様も、お気を付けて」

護衛と道案内は、国境を越えられない。

多分そういう決まりなのだろう。

俺は魔法でできた国境の壁の一角、

青の国と赤の国の間の、関所の扉を開いた。

関所には、屈強な兵士が番人としている。

3人くらいだろうか。

奥にも扉があり、向こうに誰かがいる可能性もある。

関所の主的な物とか、そういった存在が。

俺はとりあえず話しかけるが、言葉が通じない。

向こうの言葉も意味を成すものではなく、

だんだん激昂してきたようだ。

おそらく耳が呪われている。

赤の国の端っこである関所で、耳が呪われているということは、

赤の国全体に、強い耳の呪いがかけられているかもしれない。

まずはこの番人と話をしないことには、話が進まない。

奥に誰かがいるならば、それらの耳の呪いも解こう。

そうでないと、まずは国に入れない。

「リラ、神語を頼む」

リラはうなずき、神語を選んで発動する。


『ワタシ タチハ アナタタチノ ミミノ ノロイヲ トクモノデス』


俺の耳と、ここにいる3人と、

多分扉の向こうにいる何人もの耳が神語で感覚共有される。

俺は、耳かきを構えた。

この数ならば余裕だ。

青の国で作った竹の耳かきが閃く。

「神速の耳かき!」

赤の国も、一筋縄ではいかないようだ。

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