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第9話 もくざいの物語 特殊木材で耳かきを作ったらチートになった

青の城を飲み込むようにして、そびえたつ大樹。

俺はその中に彫られた階段を下りてきた。

素材のいろいろを教えてくれた学者の部屋にまた行って、

極楽鳥の耳の呪いを解いたこと、

大樹にいた鳥たちの耳の呪いを解いたこと、

羽根や羽毛を分けてもらったことを伝えた。

学者は驚くやら感謝するやらで忙しかったが、

とにかく俺のしたことは間違っていなかったようだ。

そして学者は、青の国の地図を出してきた。

青の国は大半森だが、俺の世界で言う竹が、

手入れされずに生い茂っていて、森を侵食しているらしい。

その他に、青の城を飲み込んでいる大樹の、

根から延びた芽があるらしいのだが、

その芽が育ってしまってもよくない。

養分がそちらに行ってしまい、

青の城や極楽鳥を守る大樹が弱ってしまう。

だから、大樹の芽は、いくらでも使っていいとのことだ。

ほっとくとかなりのスピードで伸びるから、

青の城には、芽狩りという部隊がいるほどだという。

なるほど、森を守るのも大変らしい。

俺も山の小屋にいたから、なんとなくわかる。


俺は、青の城にいる、芽狩りの部隊に会わせてもらうことになった。

芽狩りの部隊はちょうど、城を出て芽を探しに行くところだったらしく、

俺とリラも同行させてもらうことになった。

俺は異世界に来る前、山道を走り回って鍛えていたが、

リラは少しばかりきつそうだ。

荷物は特にないので、リラがつらそうならば、おんぶすることにした。

青の国の森の中を歩き、

竹が手入れされていない場所も経由してもらった。

なるほど、俺の世界でも竹が放置されるとこうなる。

里山まで侵食したり、民家の近くまで侵食することもある。

俺は、手近にあった竹を手に取り、

数メートルにも及ぶ耳かきを錬成する。

長い長い槍ほどの耳かきだ。

その瞬間、俺の頭の中に何かが浮かび上がった。

文字のような何かだ。

そして、俺の耳に直接通信してくる何かがいる。

この声は、神様だ。

『おお、耳かきの勇者。たくさん耳かきをして新たなスキルを習得したな』

「新たなスキル、か」

『今までの神速の耳かきもスキルアップしているぞ』

「ああ、それは感じている」

『耳かき錬成のスキルもアップしている』

「かなりこだわった耳かきも瞬時に作れるようになったな」

『そして、今得たスキルは、耳かき斬術という、耳かきで物を斬る能力だ』

「みみかきざんじゅつ…」

『とにかく、その長い耳かきで使ってみたまえ。スパンと行くぞ』

「わかった、ありがとう、神様」

神様からの耳の通信が切れて、

俺は改めて、頭に思い浮かんだスキルを思い浮かべる。

今作った、竹の長い耳かき、そして、

「耳かき斬術・一の型!」

叫んで、密集した竹林を薙ぎ払う。

竹は目の前数メートルがごっそり薙ぎ払われた。

俺はこの調子で耳かき斬術を使い、

侵食していた竹林をきれいにしていった。

薙ぎ払った竹はさすがに多すぎるというので、

青の国からの贈り物として、俺の時空の箱に仕舞われた。


そこからまた歩き、芽狩りの部隊は、前方に大樹の芽を見つけた。

さすがあれだけの大樹になる芽。

芽だけでも数メートルある。

これが育つと養分が分散されてしまうわけらしい。

「芽狩りの部隊は、こういった芽を狩る仕事をしています」

「これはかなり育っているものなのか?」

「いえ、これは小さなものです」

「これでか…」

「ですが、あの大樹の芽だけあり、かなり硬く生命力もあり、狩るのに難儀します」

「俺が狩って、その芽をもらってもいいだろうか」

「勇者様に使われるならば、大樹の芽も本望でしょう」

「ありがとう、では…」

俺は先程の長い竹の耳かきを構える。そして、

「耳かき斬術・一の型!」

叫んで、大樹の芽を薙ぎ払う。

さっきの竹林よりも手ごたえはあった。さすが大樹の芽だ。

大樹の芽は大きな音を立てて倒れた。

俺は試しに、大樹の大きな芽から、人が使うくらいの耳かきを錬成する。

匙がかなり薄いけれど、それにも負けない強度を持っている。

しかし、金属よりも柔らかい耳あたりになりそうだ。

俺は自作の耳かきを鑑定する。


 大樹の新芽の耳かき

 大樹の新たな命に満ちた耳かき。

 耳をかかれることにより、生命力が満ちる。


俺はそれなりに驚いた。

異世界の耳かきが普通の耳かきにならないだろうなとは思っていたが、

耳かきで生命力が満ちるというのはすごいと思った。

俺は、耳かき斬術に使っていた、大きな竹の耳かきを鑑定する。


 青の国の竹の耳かき・大

 大型の生き物の耳もかけるもの。

 竹の耳かきは無生物の耳もかける。

 例・動き出した像、ゴーレム、意志を持った扉、宝箱に擬態したもの。


なるほど、今回は耳かき斬術ばかりに使っていたが、

竹の耳かきは無生物の耳をかくことができるらしい。

今回得た竹の素材も、ちゃんと耳かきに仕上げていこう。

大きな無生物、小さな無生物といるだろうから、

そのあたり、たくさん作ってもいいかもしれない。


俺と芽狩りの部隊は、他にも青の国の余った素材を採取して、

時空の箱に入れていった。

本当にたくさん余った素材があったので、

こんなにいいのかと尋ねたところ、

大樹の生命力で、青の国の樹木が育ちやすくなっている、

このくらい採取されても、また、すぐに育ってくるらしい。

余りものとはいえ、本当にたくさん素材をもらった。

俺とリラ、そして芽狩りの部隊は青の城に帰ってきて、

俺は城の広場に、時空の箱から素材を一部取り出す。

そして、スキルレベルアップした耳かき錬成をする。

たくさんあった竹、間伐材などが、瞬く間に耳かきになっていく。

「おお、これが耳かきの勇者の力か」

いつの間にか広場に来ていたらしい、青の王が声をかけてきた。

「王様には、今から特別な耳かきを錬成します」

俺は言って、

大樹の芽から耳かきを、そして、極楽鳥の羽毛から梵天を組み合わせる。

形としての出来栄えは満足だが、

どのような効果があるのかを鑑定する。


 大樹の芽の耳かきと極楽鳥の羽毛の梵天

 生命力にあふれた大樹の芽の素材により、

 耳をかくことで生命力があふれる。

 また、極楽鳥の梵天により、

 耳に極楽を作ることができ、呪いから耳を守る効果がある。

 極上の心地よさの耳かきと梵天


なるほど、効果としてもいいものが出来上がったようだ。

俺は、その耳かきを青の王に献上する。

鑑定結果を青の王に伝えると、

青の王は、王家に伝わる国宝としようと言った。

また、俺が作ったたくさんの耳かきは、

青の国で買い上げられ、

耳の呪いがまだ解けていない青の国の民に配られることとなった。

俺には、明日、青の国からの耳かきの代金が入るらしい。

国全体を悩ませていた耳の呪いを解いたものとして、

代金はかなり弾むようだ。

ありがたい話だ。

とにかく今日は青の国で素材を探して歩き回った。

リラなどはくたくたのようだ。

俺は、たくさんの耳かきを青の国に納品し、

昨日と同じように、時空の箱から広場に小屋を出した。

小屋の前に、置き配で荷物が届いている。

リラがまたこの小屋を使うならばと頼んでいたものだ。

俺が荷解きをしていると、

リラはまた、小屋にやってきた。

「今日もこっちで休んでいくのか?」

「できれば、その方がいいのですが…」

「リラのためにいろいろ頼んでおいたよ」

「私なんかのために」

「いいんだ。リラも癒されてほしいからな」

「ありがとうございます、勇者様」

「ん、じゃあまずは飯にするか」

「はいっ」

今日も充実した一日だった。

明日は耳かき代金が入って、

それから、どうしようか。

明日のことは明日考えよう。

まずは美味い飯を食べよう。

誰かと笑顔で食べる飯ほど、美味いものはない。

ゆっくり休んで、その後を考えよう。

明日もきっといい日になる。

誰かの耳の呪いを解くため、また、俺は行動を起こすだろう。

スキルが増えるかもしれないし、

特別な耳かきが錬成されるかもしれない。

この世界の耳かきは、可能性がいっぱいある。

それに携われる俺は、幸せ者だ。

耳かき職人冥利に尽きる。

明日もがんばろう。

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