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第8話 ごくらくちょうの物語 極楽鳥は育児でイライラしていた

ゆっくり休んで朝になった。

リラはまだ眠っているので、

俺は雲の布団から抜け出して、朝のルーティーンをする。

いろいろな素材を扱う以上、筋肉はつけなくてはいけないし、

筋肉の使い方を熟知しなくてはいけない。

繊細な動きに関しても、動かし方を身体に叩き込まなくてはいけない。

そうしないと、こだわりの耳かきはできない。

毎朝やっている、動きの修練や、筋肉を鍛えること、

山の上の小屋だから、山道を走ることもやっていたのだが、

さすがにここは青の国だから、

山道まではここにはない。

仕方ないので、広場をぐるぐると走る。

山道ほどアップダウンも少なく、負荷が少ない。

物足りないが、こればかりは仕方ない。

小屋の近くの野菜畑の手入れもして、

いい汗をかいたところで、リラが起きてきた。

「何をなされているのですか?」

「朝の運動だ。身体が鈍ると耳かきが作れなくなる」

「なるほど、それは素晴らしい心がけです」

「ありがとな。それじゃ、飯にしよう。ここで食べていくか?」

「はい」

収穫した野菜などをもとに、朝飯を作る。

リラは美味しいを連発した。

俺もなかなか美味いものができたと思う。

味覚が一致するというのは幸せなことだ。


昨日の風呂の後に洗濯した、

リラの服と俺の服が乾いているので、

着替えて小屋を時空の箱に戻す。

そこには当たり前の広場だけが残った。

俺たちは身支度を整え、青の城の学者のもとへと行く。

学者は俺たちを待っていたようだ。

「お待ちしておりました。耳かきの勇者様、神の耳の巫女様」

「それで、青の国の素材のことだったよな」

俺は単刀直入に話を切り出す。

「サンプルをお持ちいたします。使えそうなら採取に向かいましょう」

学者はいろいろなサンプルの素材を持ってきた。

ニードリアンの髪もその中にある。

束ねて耳かき錬成すれば使えるかもしれない。

ただ、束ねるにも、たくさんの髪が必要だ。

ここぞと言う時の特殊耳かきとした方がいいだろう。

あとは、木のサンプルがいくつか。

柔らかいもの硬いもの、いろいろ触ってみて、

硬めのものを俺は選んだ。

俺のところで言う竹もあった。

これはいくつあってもいい。

ほっとくと増えてしまうので、処理に困っている素材らしい。

そういうことならば、可能な限りいただこう。

そして最後に、極楽鳥の羽根だ。

羽毛と尾羽を触ったが、これほど美しく幸せになる羽根を俺は知らない。

なるほど極楽の鳥か。

「極楽鳥は、城を飲み込んでいる木の上にいるんだったな」

「はい、以前は羽根を分けてもらっていたのですが」

「ですが?」

「最近は巣に近づこうとすると威嚇されます」

「威嚇か。危険だな」

「もしかしたら、耳が呪われている可能性もあります」

「耳の呪いはすべての存在、だったな」

「そういうことです」

「それじゃ、準備が出来たら木に登るぞ」

学者は驚いた。

「今の極楽鳥は友好的ではありません。危険です」

「素材があるとわかったら、行くのが耳かき職人ってもんだよ」

学者はため息をついた。

「青の城の大樹は、中に階段があります。そこを登って行ってください」

登っていくと、極楽鳥の巣の近くに出るらしい。

極楽鳥は青の国の守護をしている鳥だという。

耳が呪われているとしたら、深刻な問題だ。


俺たちは準備をして、出発した。

青の城の内部から、大樹の中を登っていく。

途中でリラが疲れたのでおぶった。

山道に比べれば、道が整った階段である分、楽だ。

コツコツ階段を上っていき、扉が見えた。

扉を開けると、鳥がたくさん見えた。

色とりどりの様々な鳥が飛んでいる。

鳥の楽園だなと俺は思う。

鳥たちは俺を見ると、威嚇の声で鳴き始めた。

攻撃が入る前に、俺はリラに合図をする。

リラはうなずき、言葉を選ぶ。

そして神語を発する。

『トリノモノヨ キケ ワレラハ ミミノ ノロイヲ トクモノナリ』

鳥たちは鳴き止んだ。

俺の耳と、鳥たちの耳の感覚が共有される。

鳥の耳はおそらく小さい。

ならばと選んだ針のように細い耳かき。

これを作るのには熟練の技が必要だ。

俺は耳かきを構え、足場の悪いところで神速の耳かきの発動準備をする。

一歩間違えれば下へ落下する。

それでも俺は耳をかかねばならない。

「神速の耳かき!」

俺は鳥の飛ぶスピードよりもはるかに速く枝を渡り、

鳥たちの耳をかいていく。

鳥たちの耳はやはり呪われていた。

これだけ詰まっていては、辛かっただろう。


俺の耳に鳥たちの声が届く。

音声としては鳥の鳴き声だが、脳に意味を持って届く。

「極楽鳥様の耳もかいてください」

「極楽鳥様は病んでおられます」

俺は鳥たちの案内をもとに、枝を渡って極楽鳥の巣にやってきた。

極楽鳥は、青の国の守護の鳥だけあり、とても大きい。

巣もかなりの大きさだ。

その巣に丸まるようにして、極楽鳥はぐったりしていたが、

俺たちを見ると威嚇を始めた。

何かを抱えて守っているようにも見える。

俺はリラに合図をする。

リラはうなずいて言葉を選ぶ。

神語が発せられる。

『ゴクラクチョウヨ アンシンシナサイ ワタシタチハ ミミノ ノロイヲトクモノ』

俺の耳と極楽鳥の耳、そして、小さな耳が感覚共有される。

俺は極楽鳥の近くに降り立って、

極楽鳥の巣材から、耳かきを錬成する。

硬い巣材で底を固定し、柔らかい巣材で居心地を良く仕上げているようだ。

俺は巣材のいいところを合わせて耳かきに仕上げる。

そして、目を閉じている極楽鳥の耳をかく。

鳥の耳をかくのは初めてだが、

感覚共有でどこがいいかは手に取るようにわかる。

呪いが解けていくのを感じる。

極楽鳥が声を発した。

鳥の鳴き声だけど、脳には意味を持って届く言葉だ。

「この子たちの呪いも解いてあげてください」

極楽鳥がそっと退くと、

極楽鳥の小鳥たちが、ふるえながらそこにいた。

俺は巣材の耳かきの小さいものを錬成し、

小鳥たちの耳もかいて、耳の呪いを解いていく。

小鳥たちはきれいな声で鳴きだした。

「何をしてもこの子たちが弱っていって、誰もが敵だと思っていました」

極楽鳥は語る。

「何もかもが信じられなくて、私だけがこの子たちを守らなければならないと思って」

「そっか、辛かったな」

「イライラもしました、怒りも覚えました、誰もわかってくれないと思って」

「がんばったな」

俺は極楽鳥に声をかける。

「今はみんなに声が届くはずだ。みんなに助けてもらうといいさ」

「耳の、呪いが解けたから、ですね」

「そうだ。みんなきっと心配してる」

「ありがとう。なんとお礼をしていいか…」

「その件なんだが、俺は耳かきの素材を探している」

「先程の巣材のようにですか?」

「ああ、出来れば抜けた鳥の羽根などが欲しい。いらない物ならばそれでいい」

「そんなもので耳かきができるのですか?」

「鳥の羽毛で、耳を整える梵天が出来たりするんだ」

「ぼんてん。聞いたことがありませんが、そのような物ができるのであれば」

極楽鳥は、大樹にいる鳥たちに号令を出した。

鳥たちは抜けた羽根を集めてきて、

俺のもとには、たくさんの羽根が集まった。

極楽鳥の巣からも、たくさんの羽毛を分けてもらった。

極楽鳥の雛からも、雛から抜けた羽毛を分けてもらった。

これはポヤポヤしてして耳心地がよさそうだ。

もらった羽根からは、いくつ梵天ができるのか、数えられないほどだ。

俺は時空の箱に鳥たちの羽根を仕舞い、

鳥たちと極楽鳥に礼を言って、その場をあとにした。

たくさんの収穫があった。

極楽鳥にたくさんの助けがあることを、願いながら、

俺は大樹の階段を下りていった。

さぁ、次はどんな素材に出会えるだろうか。

素材にワクワクしてしまうのは、耳かき職人の宿命みたいなものだ。

俺は異世界の、世界中の耳の呪いを解く。

そのためには素材はたくさんあるに越したことはない。

そういえば、素材によって効果があったりするものだろうか。

そのあたり、鑑定で少し調べていこうと思った。

特殊な効果があるならば、また違う使い方もできそうだ。

世界はまだまだ広い。

未知なるものはまだまだたくさんある。

耳かきには可能性しかない。

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