青の王に許可をもらって、
俺は青の城の近く、広場になっている一角に、
俺の小屋を、時空の箱から取り出す。
ブレスレットの白い宝石を回すと、
広場に俺の小屋があらわれる。
山の中の小屋をそのまま切り取ったように、
破損個所もなく、そのまま現れた。
すごいな時空の箱。
なんの障害もなく小屋の敷地に入り、
慣れ親しんだ家に帰ってきた気がする。
なるほど、時空の箱は、これを出したいと思えば出るわけかと、
俺なりに納得をして、空の果ての国の雲を、時空の箱から取り出す。
小屋の作業場に、空の果ての国で分けてもらった、雲があらわれた。
鑑定をすると、材質は俺の世界でいうところの、
コットンに近いところであるらしい。
なるほど、それで空の上でも立てたのだなと俺なりに納得する。
青の国の素材は明日手に入れるとして、
俺はとにかく休むこととした。
電気や水道は俺の世界とつながっているらしいので、
冷蔵庫に入れたままだった野菜などで簡単な夕食を作る。
時空の箱に入っていれば、
冷蔵庫もちゃんと冷やしているらしい。
玄関に気配があったので見に行くと、
リラが所在無さげに立っていた。
「どうした。青の城で、もてなされていたんじゃないのか」
「私は、そういったものは苦手なので…」
「俺の勝手なイメージだと、巫女はもてなされる感じだけどな」
「私は、それが苦手なのです」
「なるほどなぁ」
「それで、何をなされているのですか」
リラが匂いのもとをたどるようにしている。
「晩飯を作っている。城が嫌ならば、ここで食べていくか?」
「いいのですか?」
「俺の作った適当飯だ。城の一流料理ではないけどな」
「私はそういった食事の方が好きです」
「そりゃよかった。じゃ、今から分量増やして二人前にしよう」
「ありがとうございます」
俺は、俺の小屋の近くで栽培している野菜も収穫して、
分量を軽く増やして晩飯を作った。
米や調味料はこれからどうしようかと考えたが、
そういえば神様が、この小屋はこちらでありあちら、
手紙も荷物も届くと言っていた。
通販を使えば行けるかもしれないな。
一応俺は、通販も使っている。
俺のこだわり耳かきを出品していたりするので、
通販がないと、さっぱり売れないということになっている。
俺の世界と同じ素材があったのならば、
ある程度通販に回してもいいかなと、
リラと晩飯を食べながら思う。
なにせ、こだわり耳かきがいくらでも瞬時に作れるんだ。
チートと言わずしてなんと言おうか。
水道がちゃんと来ているので、
食器もちゃんと洗える。
風呂が沸いたので、リラに先に入ってもらった。
服を脱ぐ前に、俺の国での風呂文化を教えておいた。
石鹸で身体を洗うこと、髪を洗うものと髪を整えるもの。
湯船に入るとホッとすること。
風呂上りはバスタオルで身体を拭いて服に着替えること。
ただ、リラの服はいろいろあって汚れているので、
俺が素材を鑑定したうえで、洗濯をしておく。
明日着れるように乾かしておくこともできる。
その間、部屋着として、俺のスウェットの上下を貸すことにした。
多分ダボダボだとは思うが、
服を着ない方が問題だ。
リラが風呂に入っている間、
俺はパソコンを立ち上げて、
通販サイトで女性用のシャンプーなどをカートに入れる。
リラがずっとこの家を使うかはわからないが、
城でもてなされるよりも、こっちがいいというならば、
いくつかあってもいいだろう。
リラの衣類の素材は鑑定の結果、洗濯に問題が無いようなので、
小屋の洗濯機に入れる。
あとで俺も風呂に入ったら、洗濯して乾かしておこう。
小屋の生活では、夜に干しておけば朝には乾く。
ただ、衣類もいろいろこれから必要になってくるだろうから、
そのあたりは臨機応変でもあるし、
国によって気候も違うだろうから、
新しい服を買うこともあるかもしれない。
リラがダボダボのスウェットを着て風呂から上がってきた。
髪が濡れたままだったので、ドライヤーで乾かした。
リラの髪は白く、目は赤い。
青の国ではそのような者はいなかったし、
空の果ての国でもそのような者はいなかった。
リラはある意味、異端なのかもしれない。
それでもけなげに頑張っている。
「とても大きな服ですが、着心地はいいです」
「そりゃよかった。俺も風呂に入ってくるよ」
「お風呂というものはいいものですね」
「疲れが取れるだろう」
「本当に」
「風呂あがったら耳かきしてやるよ」
「楽しみにしています」
俺は風呂に入って、衣類を洗濯する。
神速の耳かきを何度かしたわけだが、
身体の方にそれほど強い疲れはない。
耳かきをするとレベルが上がるのかもしれない。
あと、俺の基礎体力もそれなりにあるのかもしれない。
とにかく、風呂は心地いい。
俺が風呂を上がると、リラが俺の本棚の本を読んでいた。
耳かきのノウハウや耳の構造や、ツボや東洋医学、耳の反射区、
そこから派生して、健康とは、薬膳とは、
色々ぎちぎちと並んでいるものを片っ端から読んでいるようだ。
「読めるのか?」
「あ、勝手にすみません。一応読むことはできます」
「それも神語の力なのか?」
「耳かきの勇者を求めに行く際に、そこの言葉を覚えたので…」
「勉強家だな」
「世界を救うためです」
「そうだな、俺たちは世界を救うんだな」
俺はリラの頭を撫でた。
リラは無邪気に笑った。
「じゃ、耳かきしてやろう」
「お願いします」
「神の耳の巫女の、耳が使えなくなったら世界を救うどころじゃなくなるからな」
俺は座っているリラの隣に座り、耳を見る。
リラの耳とは一度つながっているから、
リラの耳のいいところ詰まりやすいところがよくわかる。
俺のこだわりの耳かきが、リラの耳をかいていく。
リラの顔がとろんと解けていく。
呪いはないようだが、たまに手入れをした方がいいかもしれない。
コリコリカリカリ、耳を心地よくマッサージする。
リラは眠くなってきたようだ。
俺はリラに布団を勧め、
俺自身は、空の果ての国で分けてもらった、
雲の上で休むことにした。
素材的にはそう変わらない。
異世界を満喫するには、こういった使い方もいい。
リラが休むのに、たびたびこの家を使うようならば、
布団も一式通販で注文もありかもしれない。
リラに尋ねようとしたら、
リラは疲れ切ってしまったのか、
布団でスースー眠っていた。
明日相談でも十分だ。
多分旅は長くなる。
俺の帰れる場所に、リラも帰ってくるのならばそれもいい。
俺はリラの神語がないと、耳を繋ぐことができない。
リラは俺の耳かきがないと、耳の呪いを解くことができない。
俺たちは相棒みたいなものかもしれない。
それには信頼が不可欠だ。
明日もまた、青の国でいろいろな素材を得るだろう。
その素材で耳かきを作ったり、
極楽鳥の羽根を取りに行ったりする。
青の国にもたくさん耳かきを作り、
それを国が買い上げて、国民に耳かきを流通させるという。
うまく耳かきがたくさんできれば、
また、売り上げが上がることだろう。
その売り上げがあれば、リラのものを買うくらい、なんとかなるかもしれない。
なにせ、この小屋には今まで俺以外の誰かが生活したことがなかった。
そこに誰かが来るということは、それだけでいろいろ揃えなければならない。
売り上げが上がるならば、願ったり叶ったりだ。
異世界の耳かきは売れるだろうか。
とりあえず、俺の世界と同じものから通販の店に出してみよう。
売り上げに関しては、捕らぬ狸のなんとやらだが、
俺なら何とかできそうな気がする。
明日もやることはいっぱいある。
とにかく、休むことにしよう。
俺は雲の中に身を横たえる。
雲は心地よく俺を包み込む。
ふわふわしていて暖かい。
「おやすみ」
すでに眠っているリラから返事はないけれど、
俺は満足して眠った。
いろいろあったが、充実した一日だった。
明日もきっと、いい日になる。
そんな予感がする。