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第7話 おやすみの物語 明日に向けて家でゆっくりすることにした

青の王に許可をもらって、

俺は青の城の近く、広場になっている一角に、

俺の小屋を、時空の箱から取り出す。

ブレスレットの白い宝石を回すと、

広場に俺の小屋があらわれる。

山の中の小屋をそのまま切り取ったように、

破損個所もなく、そのまま現れた。

すごいな時空の箱。

なんの障害もなく小屋の敷地に入り、

慣れ親しんだ家に帰ってきた気がする。

なるほど、時空の箱は、これを出したいと思えば出るわけかと、

俺なりに納得をして、空の果ての国の雲を、時空の箱から取り出す。

小屋の作業場に、空の果ての国で分けてもらった、雲があらわれた。

鑑定をすると、材質は俺の世界でいうところの、

コットンに近いところであるらしい。

なるほど、それで空の上でも立てたのだなと俺なりに納得する。

青の国の素材は明日手に入れるとして、

俺はとにかく休むこととした。

電気や水道は俺の世界とつながっているらしいので、

冷蔵庫に入れたままだった野菜などで簡単な夕食を作る。

時空の箱に入っていれば、

冷蔵庫もちゃんと冷やしているらしい。

玄関に気配があったので見に行くと、

リラが所在無さげに立っていた。

「どうした。青の城で、もてなされていたんじゃないのか」

「私は、そういったものは苦手なので…」

「俺の勝手なイメージだと、巫女はもてなされる感じだけどな」

「私は、それが苦手なのです」

「なるほどなぁ」

「それで、何をなされているのですか」

リラが匂いのもとをたどるようにしている。

「晩飯を作っている。城が嫌ならば、ここで食べていくか?」

「いいのですか?」

「俺の作った適当飯だ。城の一流料理ではないけどな」

「私はそういった食事の方が好きです」

「そりゃよかった。じゃ、今から分量増やして二人前にしよう」

「ありがとうございます」


俺は、俺の小屋の近くで栽培している野菜も収穫して、

分量を軽く増やして晩飯を作った。

米や調味料はこれからどうしようかと考えたが、

そういえば神様が、この小屋はこちらでありあちら、

手紙も荷物も届くと言っていた。

通販を使えば行けるかもしれないな。

一応俺は、通販も使っている。

俺のこだわり耳かきを出品していたりするので、

通販がないと、さっぱり売れないということになっている。

俺の世界と同じ素材があったのならば、

ある程度通販に回してもいいかなと、

リラと晩飯を食べながら思う。

なにせ、こだわり耳かきがいくらでも瞬時に作れるんだ。

チートと言わずしてなんと言おうか。


水道がちゃんと来ているので、

食器もちゃんと洗える。

風呂が沸いたので、リラに先に入ってもらった。

服を脱ぐ前に、俺の国での風呂文化を教えておいた。

石鹸で身体を洗うこと、髪を洗うものと髪を整えるもの。

湯船に入るとホッとすること。

風呂上りはバスタオルで身体を拭いて服に着替えること。

ただ、リラの服はいろいろあって汚れているので、

俺が素材を鑑定したうえで、洗濯をしておく。

明日着れるように乾かしておくこともできる。

その間、部屋着として、俺のスウェットの上下を貸すことにした。

多分ダボダボだとは思うが、

服を着ない方が問題だ。

リラが風呂に入っている間、

俺はパソコンを立ち上げて、

通販サイトで女性用のシャンプーなどをカートに入れる。

リラがずっとこの家を使うかはわからないが、

城でもてなされるよりも、こっちがいいというならば、

いくつかあってもいいだろう。

リラの衣類の素材は鑑定の結果、洗濯に問題が無いようなので、

小屋の洗濯機に入れる。

あとで俺も風呂に入ったら、洗濯して乾かしておこう。

小屋の生活では、夜に干しておけば朝には乾く。

ただ、衣類もいろいろこれから必要になってくるだろうから、

そのあたりは臨機応変でもあるし、

国によって気候も違うだろうから、

新しい服を買うこともあるかもしれない。


リラがダボダボのスウェットを着て風呂から上がってきた。

髪が濡れたままだったので、ドライヤーで乾かした。

リラの髪は白く、目は赤い。

青の国ではそのような者はいなかったし、

空の果ての国でもそのような者はいなかった。

リラはある意味、異端なのかもしれない。

それでもけなげに頑張っている。

「とても大きな服ですが、着心地はいいです」

「そりゃよかった。俺も風呂に入ってくるよ」

「お風呂というものはいいものですね」

「疲れが取れるだろう」

「本当に」

「風呂あがったら耳かきしてやるよ」

「楽しみにしています」

俺は風呂に入って、衣類を洗濯する。

神速の耳かきを何度かしたわけだが、

身体の方にそれほど強い疲れはない。

耳かきをするとレベルが上がるのかもしれない。

あと、俺の基礎体力もそれなりにあるのかもしれない。

とにかく、風呂は心地いい。


俺が風呂を上がると、リラが俺の本棚の本を読んでいた。

耳かきのノウハウや耳の構造や、ツボや東洋医学、耳の反射区、

そこから派生して、健康とは、薬膳とは、

色々ぎちぎちと並んでいるものを片っ端から読んでいるようだ。

「読めるのか?」

「あ、勝手にすみません。一応読むことはできます」

「それも神語の力なのか?」

「耳かきの勇者を求めに行く際に、そこの言葉を覚えたので…」

「勉強家だな」

「世界を救うためです」

「そうだな、俺たちは世界を救うんだな」

俺はリラの頭を撫でた。

リラは無邪気に笑った。

「じゃ、耳かきしてやろう」

「お願いします」

「神の耳の巫女の、耳が使えなくなったら世界を救うどころじゃなくなるからな」

俺は座っているリラの隣に座り、耳を見る。

リラの耳とは一度つながっているから、

リラの耳のいいところ詰まりやすいところがよくわかる。

俺のこだわりの耳かきが、リラの耳をかいていく。

リラの顔がとろんと解けていく。

呪いはないようだが、たまに手入れをした方がいいかもしれない。

コリコリカリカリ、耳を心地よくマッサージする。


リラは眠くなってきたようだ。

俺はリラに布団を勧め、

俺自身は、空の果ての国で分けてもらった、

雲の上で休むことにした。

素材的にはそう変わらない。

異世界を満喫するには、こういった使い方もいい。

リラが休むのに、たびたびこの家を使うようならば、

布団も一式通販で注文もありかもしれない。

リラに尋ねようとしたら、

リラは疲れ切ってしまったのか、

布団でスースー眠っていた。

明日相談でも十分だ。

多分旅は長くなる。

俺の帰れる場所に、リラも帰ってくるのならばそれもいい。

俺はリラの神語がないと、耳を繋ぐことができない。

リラは俺の耳かきがないと、耳の呪いを解くことができない。

俺たちは相棒みたいなものかもしれない。

それには信頼が不可欠だ。

明日もまた、青の国でいろいろな素材を得るだろう。

その素材で耳かきを作ったり、

極楽鳥の羽根を取りに行ったりする。

青の国にもたくさん耳かきを作り、

それを国が買い上げて、国民に耳かきを流通させるという。

うまく耳かきがたくさんできれば、

また、売り上げが上がることだろう。

その売り上げがあれば、リラのものを買うくらい、なんとかなるかもしれない。

なにせ、この小屋には今まで俺以外の誰かが生活したことがなかった。

そこに誰かが来るということは、それだけでいろいろ揃えなければならない。

売り上げが上がるならば、願ったり叶ったりだ。

異世界の耳かきは売れるだろうか。

とりあえず、俺の世界と同じものから通販の店に出してみよう。

売り上げに関しては、捕らぬ狸のなんとやらだが、

俺なら何とかできそうな気がする。

明日もやることはいっぱいある。

とにかく、休むことにしよう。

俺は雲の中に身を横たえる。

雲は心地よく俺を包み込む。

ふわふわしていて暖かい。

「おやすみ」

すでに眠っているリラから返事はないけれど、

俺は満足して眠った。

いろいろあったが、充実した一日だった。

明日もきっと、いい日になる。

そんな予感がする。

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