目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第4話 りゅうびんの物語 生まれて初めて竜の耳をかく

とりあえず、神様が竜便と言ったもので、

俺たちは青の国に行くことに決まった。

俺は、とにかく小屋を仕舞うことにする。

神様から授けられた、時空の箱を持ったブレスレッド。

その白い宝石を回す。

空の果ての国にやってきた俺の小屋は、

瞬く間に白い宝石に収納された。

おそらく、この異世界で得たものなども、

俺の物と判断されれば、白い宝石を回すことで、

時空の箱に収納されるのかもしれない。

耳かきの材料なども、得ることができれば、

どんどん仕舞えて荷物にならないわけだ。

これは便利だなと思う。


どこかから、騒ぎ声が聞こえる。

「待て」とか、「じっとしろ」とか、「コラーッ」という声だ。

何かがじっとしていなくて暴れているのかもしれない。

俺は声のする方に走っていった。

そこには、大きな竜がいた。

乗るのが人であるならば、10人は軽く乗れそうだ。

竜は目隠しをされて、耳らしいところはふさがれている。

俺は竜というものを初めて見るが、

いわゆる東洋系のにょろにょろした竜でなく、

イグアナのような感じがする。

空の果ての民が、何とか抑えようとしているが、

これだけ大きな竜、どうにもじっとしない。

大きな翼で羽ばたくし、足踏みをするので踏まれそうになる。

俺は手近にいた、空の果ての民に尋ねた。

「こんなことはよくあるのか?」

「いえ、普段はおとなしい子なのですが…」

「目と耳をふさいでいるのは?」

「竜便は脱線をしてしまうとよくないので、指示の信号以外をふさいでおります」

指示の信号とは、ある場所を、手や足や金具などで、あるテンポで叩いたりして、

右に行け、左に行け、速度をあげろとするらしい。

竜便の竜は操縦手に対して絶対の信頼があるから、

指示の信号だけを頼りに、いろいろな国に竜便として飛べるらしい。

ただ、それだけ信頼をしているのに、

どうして暴れ出してしまったか。

俺はリラを呼んだ。

「リラ、神語は何にでも言葉が通じる、それで合っているか」

「はい、何にでも」

「今から竜の耳をかく。神語でつなげてくれ」

「はい、わかりました」

リラは言葉を選ぶ。

そして、

『アバレル リュウヨ、シズマリタマエ イマカラ ミミヲ キレイニシマス』

暴れる竜の動きが止まって、

静かに頭を差し出す。

さて、竜の耳は大きいと思う。

ストックの耳かきは、大体人間向けだ。

俺は少し考え、空の果ての国の、雲のような地面らしい場所に目を付けた。

確か、神様からもらった能力で、

いろいろな耳かきが作れるようになっているはずだ。

俺は、空の果ての国の雲に向かって手を当てる。

「耳かき錬成!」

俺がイメージするのは、竜の耳に合った、槍のような耳かきだ。

力加減も適度で、雲でできているから軽いもの。

俺はイメージを固めていって、

手を上にあげる。

そこに、空の果ての国の雲からできた耳かきがあった。

適度に軽く、大きく、コットンでできた耳かきのような感覚だ。

俺は待っている竜の頭の上に乗り、

竜の耳当てをはがして、槍のような耳かきをそっといれる。

神語でつながっているから、

竜の耳と言えども、耳の感覚はつながっている。

心地いいところがどこなのかわかる。

柔らかい雲の大耳かきで、竜の耳をかいていく。


ゴソッゴソッ…ゴソゴソッ…コリッ…コリッ…コソコソ…コショコショ…


竜の耳はとりあえず左右にあるようなので、

同じようにかいていく。

竜の耳は生まれて初めてかいたが、

心地いいポイントは、やはり似たようなものであるらしい。

竜の耳をかいて、竜はすっかりおとなしくなった。

俺の感覚では、竜の耳にも呪いがあった。

多分魔王の耳の呪いというものは、

人の形をする者や、言葉を話すものだけでなく、

すべての存在に向けられているのかもしれない。


「この竜の耳も呪われていた。それで多分暴れ出したんだろうな」

俺が耳かきを終えて説明すると、

空の果ての民も納得したようだった。

念のため、他の竜便の竜の耳が呪われる可能性もあるので、

空の果ての国の雲から、何本か同じ大耳かきを錬成しておく。

竜の耳かきのコツを伝授までしたところ、

いたく気に入ってもらえたらしく、

竜の耳かきをした作業料金と、雲の耳かきの代金をもらうことができた。

俺は異世界の通貨の価値がよくわからないが、

リラに言わせると、この売り上げは、かなりのものであるらしい。

とにかく、売り上げは白い宝石に収納し、

竜の耳は無事に呪いから解放された。


竜便の体裁を整え直している間、

俺は何本か、人間向けの雲の耳かきを錬成する。

空の果ての民たちがやってきたので、

耳かきの仕方や耳かきのコツなどを伝授する。

やはり雲だから、軽く、耳あたりが柔らかい。

リラックスするには、とてもいい耳かきに仕上がった。

空の果ての民は、耳かきの心地よさを知ると、

我先に雲の耳かきを買い求めた。

かなり耳かきを錬成をしたような気がするが、

それでも、みんなが欲しがった。

次々雲の耳かきを錬成した。

こんなに耳かきが飛ぶように売れたのは初めてかもしれない。

耳かき錬成がひと段落したころには、

竜便の体裁が整えられ、俺のもとには、耳かきの売り上げがたくさん残った。

金銭の数字には疎いけれど、

これだけあれば、異世界でもなんとかなるだろう。

最後に俺用に雲の耳かきを数本錬成して、

許可を取って、雲を少し、素材用に譲ってもらった。

何かに使えるかもしれない。

一通り耳かきのあれこれを終えた後、

俺たちは竜便乗り場に向かう。

竜は目と耳をふさがれていても、俺のにおいがわかるのか、

すりすりと顔を寄せてきた。

イグアナみたいとは思ったが、

懐くと可愛いものかもしれない。

俺は尻尾の方から竜の上に乗り、その後ろからリラが乗る。

ベルトのようなもので俺たちを固定して、

操縦手の合図で、竜ははばたく。

ふわりと浮かぶ感じは、今まで経験したことの無いものだ。

竜は、上へと上がり、雲の切れ間から、下降を始める。

多分そこが、空の果ての国の端っこだ。

風を切るように竜は空をかける。

世界が見える。

一度、一通り説明された異世界が、

眼下に大きく広がっている。

中央に大きな海、そこから大まかに4つの国。

その外側に2つの国。

地の果ての国は多分まだ見えない。

俺たちは青の国を目指す。

森林の多い国だと聞いている。

耳かきは受け入れられるだろうか。

耳の呪いを解くことができるだろうか。

そう思うと同時に、

どんな素材があるだろうか、とか、

どんな耳を持ったものがいるだろうかと考える。

きっと異世界は様々の耳があるし、

様々の素材があるだろう。

それらに出会えるのも、また、楽しみだ。


竜の操縦手が、何かの合図を出した。

竜が大きく上へ移動する。

「青の国からの攻撃ですっ。遠弓が飛んできましたっ」

どうやら、まずは手荒い歓迎のようだ。

俺たちは戦うことを望んでいないのだが、

向こうは、おそらく耳が呪われているため、

何かの情報が錯綜して、

竜や俺たちを敵と認識しているのかもしれない。

何しろ、耳の呪いは全世界に広がっているようなのだ。

なんとかここを切り抜けて、耳をかきたいものだが…。

青の国から、また、大きな矢が飛んでくる。

これを何とかしないと、耳かきの前に撃墜されて落ちてしまう。

考えろ。

俺は耳かきをするために、この異世界にやってきた。

耳かきをするためには、どうしたらいいか。

この状況で俺は何ができるか。

俺は考え、ひらめいた。

俺は、竜から落ちないように固定されているベルトを解いた。

きっと、俺ならばできる。

そんなことが、ひらめいた。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?