とにかく、俺は異世界クロッキアスに行くことが決まった。
神の耳を持つという巫女のリラ。
彼女の力で異世界に行くのだろうか。
とりあえず俺は尋ねてみることにした。
「クロッキアスにはどうやって行くんだ?」
「クロッキアスの空の果ての国、そこがこの世界の空とつながっています」
「空の果ての国。天国かな?」
「この世界では、神様がいる空の果てを天国というのですか?」
「言語や宗教によっていろいろだけどな」
「なるほど、この世界も言語が通じにくいのですね」
リラは納得する。
「とにかく、神様のいる、空の果ての国から入るってことか」
「そこまで神様が導いてくれるはずです」
「なるほど、神様待ちか」
「まもなくいらっしゃるでしょう。それまで、クロッキアスの話をしましょう」
リラが話してくれたところによると、
クロッキアスはいくつかの国にわかれている。
まずは中心の黄色い国。
雨が降り続いていて海が多い国で、少ない陸を権力者が独占している。
黄色い国から各地に水が流れている。
まずは東の青い国。
木々が生い茂り、気候は安定。森に住まう民族種族が多くいる。
南の赤い国。
乾燥地帯で、黄色の国から流れてくる大河のそばに皆が暮らしている。
西の白い国。
風の強い国で、クロッキアスの穀倉地帯。実りの国だ。
北の黒い国。
植物が育たなく、岩肌が露出している寒い国だ。医療大国でもある。
青い国から赤い国にかけて、外側を囲むように、
陽の国がある。太陽が出ている時間が長く、
光に満ちた国だ。聖職者などがいるらしい。
白い国から黒い国にかけて、外側を囲むように、
陰の国がある。夜の時間が長く、暗い時間が長い。
暗さに目の慣れた民族種族が暮らしていて、鉱石を掘っている。
そして、空の上の上の方。
空の果ての国があり、
俺の世界を含めた、いろいろな世界はそこからつながっていて、
神様がそこに住まうという。
逆に、大地から地下に地下に潜っていった先、
地の果ての国がある。
そこに、魔王は封印されていて、魔王軍がいまだにそこにいるという。
俺は大体世界のイメージをすることができた。
国の名前が固有名詞でなくてありがたい。
色から何となく国の感じがつかめた。
それっぽい名前がないのも、もしかしたら、耳の呪いのせいかもしれない。
青の国の旗とかであれば、
青い旗を見ればそうだと思うだろう。
多分目は呪われていないはずだ。
俺がふんふんとうなずくと、
小屋の外で何かが落ちた音がした。
落ちたというより、着陸音に近い。
俺とリラは小屋の外に出た。
小屋の外には、光り輝く人影が浮いていた。
その周りは衝撃で土が舞い上がった痕跡がある。
男とも女ともつかない、少し若い感じに見える。
「神様」
リラが祈るような仕草をした。
祈りのしぐさはこちらと大体一緒らしい。
手を組んで頭を垂れる。
「よいよい。呪いは解かれたようだな。私の声がわかるようだな」
「はい、はっきりと」
「それが、耳の呪いを解く勇者か」
「耳の呪いを解くもので間違いないかと」
「そうか、身体も丈夫そうで心根もよいものだ。きっと呪いを解いてくれよう」
神様は俺に近づいてきて、
「リラから聞いての通り、あちらは皆の耳が詰まっておる」
「呪われてるんだってな」
「耳をきれいにすることにより、呪いが解かれる」
「俺は耳かき職人で、耳をきれいにする道具の職人だ」
「ちょっとまて、それでそんなに身体が整っているのか」
「いろいろな素材で耳かき作るからな。筋肉はあった方がいい」
「いろいろな素材…それでは向こうの素材も使えるのだな…」
神様は考えた。
そして、
「よし、お前さんに神の加護をいくつかやろう」
「いいのか?」
「世界を救うためだ。皆の耳が聞こえんと世界の混乱が収まらん」
「そういうことならば」
神様は中空に文様を描いて何かを読んでいる。
そして、これとこれとと選んでいく。
そして選ばれた能力が次の物になる。
まず、異世界の物を鑑定する能力。
俺の世界で言うこれであると鑑定できる能力だ。
完全に別物もあるかもしれないけれど、
大体これが近いというものを関連して表示してくれる。
次に、素材を瞬時に加工する能力。
これは俺もありがたい。
耳かきが瞬時に何本もできるわけだ。
しかも、俺のこだわり具合のたくさん詰まったものが。
俺はこだわりすぎて耳かきがあまり作れなかったから、
この能力はありがたい。
それと、俺の身体能力を一時的に上げて、
目にもとまらぬスピードを繰り出す能力。
一応、神速能力というらしい。
今のところ10秒が限度で、
経験を積んでいけば、
スピードを上げることも、起動時間を伸ばすことも可能であるらしい。
今の10秒でも、おそらく数十人の耳かきが瞬時に可能であるらしい。
これは俺の経験で伸ばせるということか。
「あとはそうだな、この小屋も持っていくか」
「できるのか、神様」
「神の持ち物、時空の箱を使えばいい。小屋とその近辺を時空の箱に入れるぞ」
「あー、水道もあるんだが」
「そのあたりは、この世界とつなげておこう。時空の箱内は、あちらでありこちらだ」
そう言って神様は、俺の腕にブレスレットをつけた。
時計のようだけど、文字盤の代わりに白い宝石が入っている。
「その宝石を回せば、クロッキアスにこの小屋があらわれる」
「土地があれば、この家で休めるんだな」
「道具もあろう。耳かきを作ってもらいたいからな」
「ありがとう」
「あと、クロッキアスの金銭だが」
「あ、それは俺も気になってた」
「通過は金貨と銀貨。だが、その白い宝石に入れることにより、財産として処理される」
「どういうことだ?」
「通帳やクレカ、というものに入金として処理される」
「そっか、それで水道代も固定資産税も払えるんだな」
「そっちまではわからぬが、そちらの物や手紙も、その小屋に届く」
「俺は通販は使わないけど、届くってことだな」
「よくわからんがそういうことだ。この小屋はあちらでありこちらだ」
「何から何までありがとう」
「礼には及ばん。今からおまえは、世界を救う耳かきをしてもらうからな」
「それで、どうやってそっちに行くんだ?」
神様はちょっと笑った。
「先程この小屋に到着した時点から、ゆっくりと空の果ての国に向かっている」
「…気が付かなかったな」
「神の力だからな」
神様は上機嫌だ。
俺は小屋の近くを歩いた。
ある程度まで行くと、そこから先は空だった。
俺の小屋は時空を繋げたまま、異世界へとゆっくり飛んでいく。
「空の果ての国への扉が見えてきたな」
空に大きな扉が見えてきた。
扉は音もなく開いた。
異世界の入口が歓迎している。
俺はそう思った。