ある日の休日。
アリア、ヒルダ、ルサルカ、レイラ達四人は、レイラの部屋に集まりお茶会なるものをしていた。お茶会とは、その名の通りお茶を飲む会合らしい。何が楽しいのかよく分からない催しだ。
しかし、アリア達は楽しそうにお茶を飲み、お喋りに興じていた。我の見たところ、お茶会とはお茶の良し悪しよりも、誰と飲み、語るのかが重要と見なのだろう。
今回のお茶会に限らず、皆が集まる場合はレイラの部屋に集まる場合が多いな。おそらく、椅子やテーブルがあるので都合が良いのだろう。アリアの部屋には、そんな物は無いからな。
「ああああー。どうしたらいいのぉおおおおおおおー!」
アリアが頭を両手で抱え、天井を見上げて唸りだした。行儀が悪いな。いきなりどうしたんだ?
「どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたも……。これよ! 進路希望調査の結果! 見てよ! 全部ダメだった……」
アリアが、その手に持った紙を皆に掲げて見せる。ヒルダ達の視線が、アリアの持つ紙へと集まった。そして、ヒルダとレイラが眉を寄せて深刻そうな顔を浮かべる。
「これは……」
ヒルダが口を開くが、後が続かないようだった。それほど悪いことが書いてあるようだな。
「あたしもダメだったよ!」
ルサルカが、アリアに張り合うように元気に自分の持つ紙を広げてみせる。ルサルカの広げた紙を見たヒルダとレイラの表情が、更に悪くなる。どうやらルサルカの紙にもよくないことが書いてあるようだ。ルサルカ……ダメさを競ってもな……。もうちょっと建設的なことで競ってほしい。
「逆に勧められているのは危険な部署ばかり……。これは明らかに二人を使い潰す気ですわね……」
「ヒルダ様もそう思われますか? これはやはり……」
「ええ。パルデモン侯爵の仕業でしょう」
パルデモン侯爵? たしかヒルダをかどわかした犯人だったな。我らはヒルダを助けることに成功はしたが、その代償にパルデモン侯爵の恨みを買ってしまった。
ふむ。パルデモン侯爵が、ついに報復を仕掛けてきたのか。
「なんでパルデモン侯爵?」
「パルデモン侯爵は第一陸軍卿、軍の重鎮なのです。私達の進路は主に軍ですから、二人を危険な部署に配属させようと、パルデモン侯爵が圧力をかけているのかもしれません」
「そんなぁ……」
アリアとルサルカがうなだれる。
「お二人ともすみません。わたくしを助けたばかりに……」
ヒルダの言葉を聞き、うなだれていたアリアとルサルカの二人は、勢いよく顔を上げた。
「ヒルダ様のせいじゃないわよ!」
「そうそう! 悪いのはそのパンモンデ? だよ!」
ルサルカよ。パルデモンだ。なんだ、そのパンを捏ね繰り回してそうな名前は。
「ですが、どうしましょう? 一度軍に入るとなかなか辞めれないと聞きますし、軍に入るのは危険かもしれません。となると民間のお仕事ですけど……」
「民間だと借金がね……」
アリア達は今、魔道学院の学費と奨学金の二つを国に借金している。軍に入ると、その借金の一部が減額される制度があるようだ。おそらく、貴重な戦力である魔導士と使い魔を国に取り込む為の制度だろう。
「ですけど、命には代えられません」
「命……そうよねー……」
軍というのはよく分からんが、命の危険があるほど危ないらしい。ならば避ければいいと思うのだが、そうすると、今度は借金が重くのしかかる。
腕を組んで考え込むアリアとルサルカを見て、おずおずとヒルダが口を開くのが見えた。
「元凶であるわたくしが言うのもおかしな話ですが……もしよろしければ、わたくしと一緒にハンターになりませんか?」
「ハンター…?」
アリアがヒルダの言葉を聞いて首を傾げる。
ふむ。なるほど、ハンターか。ヒルダは以前からハンターになりたいと言っていたな。悪い選択肢ではないのではないだろうか? ハンターが何をするのか、具体的には知らんが。
アリアはヒルダの話を聞いて眉を寄せて考え込んでいた。だが逆に言えば、考え、迷うくらいにはハンターという選択肢はアリなのだろう。
「皆さんとなら、きっと高名なハンターになれますわ!」
「ほんと?」
「本当ですわ。ルサルカさんもイノリスもとても優秀ですもの」
「そうかなぁーでへへ」
ルサルカが一瞬で懐柔されていた。チョロすぎない? チョロすぎて猫のおじさん心配になってくるわ。
ルサルカは懐柔され、アリアは迷っている。ヒルダはここが押し時と見たのか、アリアにハンターの良いところを力説し始めた。
「ハンターは、狩ったモンスターと、そのモンスターが貯め込んでいた財宝が、ハンターの物となるのです。一獲千金も夢ではありませんわ!」
「財宝……一獲千金……!」
アリアが揺れている。この分だと、落ちるのも時間の問題かもしれない。やれやれ、アリアもチョロいな。我がしっかりしなければ!
我が決意を固めていると、レイラの姿が目に入った。レイラは、ハンターの話で盛り上がる3人を寂しそうな目で見ていたのが我の印象に深く残った。