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第69話

 ある日の休日。

 アリア、ヒルダ、ルサルカ、レイラ達四人は、レイラの部屋に集まりお茶会なるものをしていた。お茶会とは、その名の通りお茶を飲む会合らしい。何が楽しいのかよく分からない催しだ。

 しかし、アリア達は楽しそうにお茶を飲み、お喋りに興じていた。我の見たところ、お茶会とはお茶の良し悪しよりも、誰と飲み、語るのかが重要と見なのだろう。

 今回のお茶会に限らず、皆が集まる場合はレイラの部屋に集まる場合が多いな。おそらく、椅子やテーブルがあるので都合が良いのだろう。アリアの部屋には、そんな物は無いからな。

「ああああー。どうしたらいいのぉおおおおおおおー!」

 アリアが頭を両手で抱え、天井を見上げて唸りだした。行儀が悪いな。いきなりどうしたんだ?

「どうしたんですか?」

「どうしたもこうしたも……。これよ! 進路希望調査の結果! 見てよ! 全部ダメだった……」

 アリアが、その手に持った紙を皆に掲げて見せる。ヒルダ達の視線が、アリアの持つ紙へと集まった。そして、ヒルダとレイラが眉を寄せて深刻そうな顔を浮かべる。

「これは……」

 ヒルダが口を開くが、後が続かないようだった。それほど悪いことが書いてあるようだな。

「あたしもダメだったよ!」

 ルサルカが、アリアに張り合うように元気に自分の持つ紙を広げてみせる。ルサルカの広げた紙を見たヒルダとレイラの表情が、更に悪くなる。どうやらルサルカの紙にもよくないことが書いてあるようだ。ルサルカ……ダメさを競ってもな……。もうちょっと建設的なことで競ってほしい。

「逆に勧められているのは危険な部署ばかり……。これは明らかに二人を使い潰す気ですわね……」

「ヒルダ様もそう思われますか? これはやはり……」

「ええ。パルデモン侯爵の仕業でしょう」

 パルデモン侯爵? たしかヒルダをかどわかした犯人だったな。我らはヒルダを助けることに成功はしたが、その代償にパルデモン侯爵の恨みを買ってしまった。

 ふむ。パルデモン侯爵が、ついに報復を仕掛けてきたのか。

「なんでパルデモン侯爵?」

「パルデモン侯爵は第一陸軍卿、軍の重鎮なのです。私達の進路は主に軍ですから、二人を危険な部署に配属させようと、パルデモン侯爵が圧力をかけているのかもしれません」

「そんなぁ……」

 アリアとルサルカがうなだれる。

「お二人ともすみません。わたくしを助けたばかりに……」

 ヒルダの言葉を聞き、うなだれていたアリアとルサルカの二人は、勢いよく顔を上げた。

「ヒルダ様のせいじゃないわよ!」

「そうそう! 悪いのはそのパンモンデ? だよ!」

 ルサルカよ。パルデモンだ。なんだ、そのパンを捏ね繰り回してそうな名前は。

「ですが、どうしましょう? 一度軍に入るとなかなか辞めれないと聞きますし、軍に入るのは危険かもしれません。となると民間のお仕事ですけど……」

「民間だと借金がね……」

 アリア達は今、魔道学院の学費と奨学金の二つを国に借金している。軍に入ると、その借金の一部が減額される制度があるようだ。おそらく、貴重な戦力である魔導士と使い魔を国に取り込む為の制度だろう。

「ですけど、命には代えられません」

「命……そうよねー……」

 軍というのはよく分からんが、命の危険があるほど危ないらしい。ならば避ければいいと思うのだが、そうすると、今度は借金が重くのしかかる。

 腕を組んで考え込むアリアとルサルカを見て、おずおずとヒルダが口を開くのが見えた。

「元凶であるわたくしが言うのもおかしな話ですが……もしよろしければ、わたくしと一緒にハンターになりませんか?」

「ハンター…?」

 アリアがヒルダの言葉を聞いて首を傾げる。

 ふむ。なるほど、ハンターか。ヒルダは以前からハンターになりたいと言っていたな。悪い選択肢ではないのではないだろうか? ハンターが何をするのか、具体的には知らんが。

 アリアはヒルダの話を聞いて眉を寄せて考え込んでいた。だが逆に言えば、考え、迷うくらいにはハンターという選択肢はアリなのだろう。

「皆さんとなら、きっと高名なハンターになれますわ!」

「ほんと?」

「本当ですわ。ルサルカさんもイノリスもとても優秀ですもの」

「そうかなぁーでへへ」

 ルサルカが一瞬で懐柔されていた。チョロすぎない? チョロすぎて猫のおじさん心配になってくるわ。

 ルサルカは懐柔され、アリアは迷っている。ヒルダはここが押し時と見たのか、アリアにハンターの良いところを力説し始めた。

「ハンターは、狩ったモンスターと、そのモンスターが貯め込んでいた財宝が、ハンターの物となるのです。一獲千金も夢ではありませんわ!」

「財宝……一獲千金……!」

 アリアが揺れている。この分だと、落ちるのも時間の問題かもしれない。やれやれ、アリアもチョロいな。我がしっかりしなければ!

 我が決意を固めていると、レイラの姿が目に入った。レイラは、ハンターの話で盛り上がる3人を寂しそうな目で見ていたのが我の印象に深く残った。

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