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第50話

 ハッと驚きと共に目を覚ます。我が警戒も忘れ眠りこけるなど異常事態だ。急いで周囲を確認する。

「痛たたた!?」

 慌てて身体を起こそうするが、全身が鈍い痛みを上げて、痛みにビックリして、中途半端な姿勢で動きが止まってしまった。痛みは我慢できない程ではない。我は痛みを我慢して上体を起こし、周囲を確認する。

 ここはアリアの部屋のようだ。我はベッドの上で寝ていたらしい。周囲に人の気配はない。窓から見える景色は暗く、もう日が沈んだ後だと教えてくれる。しかし、何で体が痛いんだ?我は眠る前の記憶を呼び覚ます。

 たしか、授業で模擬戦をやったはずだ。相手は小さな魚。先手は我が取ったが、魚に爪が届かず、魚の反撃の水の魔法に逃げ惑い、アリアが影弾の魔術を外して、魚の主の水槍の魔術を…そうだ、避けたと思ったら水の槍が広がって…その後の記憶がない。おそらく、水の槍に被弾したのだろう。それで全身が痛むのか。

 我が気を失った以上、模擬戦は負けだろう。また負けたのか。それも、あんな小さな魚に。その事実と、全身を蝕む鈍い痛みが我を苛立たせる。

「はぁ…」

 ため息と共に身体の力を抜き、ベッドに倒れこむ。ついでにこの苛立ちも抜けてしまえば良いのだがなぁ。

「はぁー…」

 苛立ちを吐き出すように長めにため息をつく。少しは落ち着いたか?まぁ気休めにはなったのだろう。少し思考がクリアになる。クリアになった思考が、廊下を歩く足音を感知する。この音の感じ…足音の主はアリアだろうか?足音はこの部屋の前で止まり、やや時間があって扉が開く。

「クロー、起きてる?」

 いつもより声量を抑えた、囁くような声と共にアリアが部屋の中に入ってくる。その手には二つの器が握られている。たぶん我の夕食だろう。もう日も暮れている。夕食の時間のはずだ。

「なんだ起きてるじゃない。どう体調は?」

「動くと体中痛いが、我慢できない程ではない」

「そう…。一応お医者さんにも診てもらったけど、大したことないって。後でちゃんとリノアにお礼も言っておくのよ」

「そうか。医者は分かるが、なぜリノアの名前が挙がるんだ?」

 何か世話になったのだろうか?

「リノアの魔法はね、回復魔法なのよ!」

 アリアが興奮したように教えてくれる。なんと、リノアの魔法は、体の傷を癒すことが出来るらしい。それを我に施してくれたようだ。

「未だに魔術では再現できない貴重な魔法よ!リノアってすごい子だったのね!」

 でも、まだ体中が痛いのだが……リノアの魔法を受けてこれだろ?受ける前はどれほど酷い状態だったんだ……。ゾッとするな。

「はい、これご飯。お腹空いてるでしょ?」

 そう言ってアリアがベッドの傍の床に器を置く。器の中には肉とチーズが一欠けら入っていた。いつもは肉だけなのだが、今日はチーズもあるらしい。見ていると腹が減ってきた。

 我は上体を起こす。やはり動くと鈍く体が痛む。動くのだるいな。亀のように首が伸びれば、このまま動かずに飯が食べれるのに。そんな埒もないことを考えながら、動く気にもなれず飯を見ていると、飯に影が差した。

「…っ!?」

 最初はアリアの影かと思ったが、違う。影は我から伸びている。

「クロこれって!?」

「あぁ」

 こんな不思議な現象、魔法以外考えられない。魔法を使った感覚は無かったのだが…無意識に使ったのだろうか?

「これは…影の形を変える魔法?クロ、もう一度動かしてみて」

 影に動けと念じる。コツは要るが、影は我の意のままに前後上下左右、何処へでも動いた。長さも大きさも自由自在だ。

「これって、実体化した影も操れるのかしら?試してみて」

 アリアの指示通り、影を実体化し、動けと念じる。実体化した影は、思った通りに形を変えた。これ、かなり画期的な魔法ではないか?試しに実体化した影を操り、アリアを小突いてみる。

「ちょ、ちょっと!止めなさい!」

 次に、アリアに実体化した影を巻き付け、上に持ち上げてみる。

「キャッ!?こらクロ!離しなさい!離して!」

 我はアリアをそっと降ろし、拘束を解いた。

「はぁ…怖かった…。クロ!あなた私に不満でもあるわけ!?」

 アリアが何か騒いでいるが、我はそれよりもこの魔法の汎用性の高さに感動していた。実体化の魔法と併用することで、かなり自由度高く現実に干渉できる。

 ビュンッ!

 影はかなりの速度で動かすこともできる。この魔法は攻撃にも転用できそうだ。響いた風を切る音にアリアがビクッとしている。

「アリア!この魔法すごいぞ!」

「そうね…」

 騒いでいたアリアが、いつの間にか俯き気味で手を口に当てて考え込んでいる。

「実体化の魔法を使うことで、実体化した影を操る。私を持ち上げるくらいだもの、力はあるみたいね…」

 アリアが実体化した影を手の甲でノックするように叩く。

「影の強度も十分…。これ攻撃にも防御にも使えるんじゃないかしら。ううん、それだけじゃない。もっと色んなことにも使えるわね。私達に不足していたものを一気に補えるかも…!クロ、これすごい魔法よ!」

 アリアにもすごい魔法に見えるらしい。この魔法は期待できるな。

「早速いろいろ試してみましょ」

 その言葉に我はうんざりする。我も新しい魔法がどんな性能なのか気になるから、付き合いはするが…。アリアの場合は細かい所まで延々と試していくからなぁ…。はっきり言えばかなり面倒な作業だ。

「そうねぇ…まずは自分以外の影も操れるのか試してみましょ」

 アリアがウキウキと指示を出す。まったく…何が楽しいのだか。はぁ…。

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