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第18話

 そして迎えたテスト当日。我らはある秘策を持ってテストに臨んでいた。

 テストには使い魔の適正に応じて様々な種類のテストが用意されているらしい。その中から一つのテストを選び、合格すればいい。なんでも使い魔の適性を正確に理解しているかどうかもテスト選びで計られているとか。

 アリアが選んだテストは鎧を着こんだカカシに有効打を与えるというものだ。こんなのがテストでいいのかと思う程シンプルな内容だが、シンプルゆえに誤魔化しの利かない内容だ。攻撃力など皆無な魔法の我には不向きに思うが、他にクリアできそうなテストがないので仕方ないらしい。弱いとは惨めよな…。

 それにアリアにはこのテストを合格するための秘策があった。

 その秘策を聞いた我はなるほどと思ったが、言うのは簡単だが、行うのは難しい内容だった。前提条件として、我が影の物質化の魔法をある程度自在に操れることが必須であった。これがまず難しい。

 我は魔法を自力で使えるようになったとはいえ、魔法の発動には時間がかかったし、魔法の効果にもばらつきがあった。秘策を成功させるには、どちらも精度を上げる必要があった。より早く、より正確に。

 魔法の特訓は大変だった。何度魔法を使ったか分からない。思うようにうまくいかず、イライラして心がささくれ立つことも常だった。

 そんな我を癒してくれたのが、イノリスだ。彼女は日中我と一緒にいてくれた。我の怒りを受け止め、励ましてくれた。本当にいい女だ、我が同種ならほっとかないのに。イノリスのおかげでアリアには当たらずにすんだと言ってもいい。子どもには当たれんからな。

 我の魔法の腕は少しずつ上がっていった。そして、昨日遂に秘策を行うのに耐え得るまでに上達した。

 魔法の発動は瞬時にできるようになり、初めは直接触れなければいけなかったが、今ではある程度離れた影も物質化できる。影の重さや硬さもある程度コントロールできるようになってきた。

 後は本番で成功するだけだ。

「次、アリア・ハーシェ君」

 特訓の日々を思い返していると、先生にアリアが名を呼ばれる。遂に我らの出番か。

「クロ、ミスらないでよ」

「貴様こそ、狙いを外すなよ」

 アリアが本を広げ、ページに手を付く。この本はアリア自作の魔導書らしい。見せてもらったこともあるが、変な模様が描いてあるだけのよく分からない物だった。

「いくわよ、影槍、一射!」

 アリアが魔術を発動する。アリアの持つ本の先から真っ黒な槍の様に大きな影が生まれた。

 今だ!

 影は生まれた瞬間にカカシに向かって高速で飛んでいくとカカシを鎧ごと貫いた。

 なんとか成功したみたいだ。これがアリアの考え出した秘策だ。アリアの使った魔術は影を飛ばすだけの魔術だ。当たっても殺傷能力など無い、通常はフェイントなどに使われる魔術らしい。その飛んでいく影を我が物質化し、殺傷能力を生み出す。高速で飛んでいく影に魔法をかけるのは結構難しい。成功率はまだ7割ほどだ。成功してよかった。

 先生がこちらに近づいてくる。

「ふむ、あれは影の魔術だね?それを使い魔の魔法で…なるほど」

「はい。影槍の魔術です。先生も知っての通り、私の放出口は…1です。普通の槍の魔術は使えません。でもコストの低い影の魔術なら槍も使えました。これを戦力化できるのは大きな利点だと思います。あと、影の魔術だと相手の油断も誘えるかもしれません。あとあと…」

 アリアが先生に秘策の利点を説いていく。少しでも点数を稼いで合格をもぎ取ろうというのだろう。なんていうか、たくましいな。

「分かった、分かった。まずはテストの合否を伝える。テストは…合格だ。大負けに負けてな。これはもともと使い魔のテストだ。生徒の協力はある程度認められるが…君たちの場合はハーシェ君の割合が大きすぎる。しかし、使い魔の魔法が魔法だ、その点も考慮した。今回は特別だよ」

「はい。ありがとうございます!」

 合格をもぎ取ったようだ。やるな。

「やったわクロ!」

 アリアが我を抱え上げた。そのまま頭の上まで上げて、クルクルと回り始める。よほどうれしかったみたいだ。だが、我は目が回るので早く下してほしい。

「あぁ聞いていた。よかったな」

「うん!」

 漸く回転も止まり、アリアの胸に抱かれる。ふぅ。

 その時、ルサルカが近づいてきた。イノリスの姿も見える。

「アリア!アリアも合格したみたいだね、おめでとう」

「ルサルカも合格したんでしょ?イノリスすごかったわ」

「うん、イノリスすごいんだよー。」

 ルサルカがイノリスに抱きついて頬ずりし始める。イノリスも褒められたのが分かるのか嬉しそうだ。ここの主従は仲がいいな。

「我も世話になったな、イノリス。感謝する」

「なに?あなたまたイノリスに迷惑かけたの?ダメよ、ちゃんとしないと」

「にゃ~」

「まぁまぁ、イノリスも迷惑に思ってないみたいだし」

 本当にいい女だな、イノリス。我もイノリスと直接言葉を交わしたいものだ。イノリスの言葉は我には分からないし、我の言葉もイノリスには伝わっていないようだ。ちょっと寂しい。まぁ表情を見れば、なんとなく感情は分かるがな。

「それよりアリア、次のテスト自信ある?」

 なに!?次もあるのか!?

「数学の?たぶん大丈夫だけど…どうしたの?クロ」

「次のテストとはなんだ?テストはもう終わったのだろう?」

「次のテストは数学のテストだから、クロには関係ないけど。使い魔のテストはこれからも定期的にあるわよ?」

 なんということだ…。こんなにも大変な思いをしたテストが定期的にある?悪夢だ…。

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