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第11話

「「魔法が使えない?」」

 ルサルカとレイラの声がハモった。そんなに驚くことか?普通は使えないぞ。

 此処は所変わってアリアの部屋。食事を終えて、我らはアリアの話を聞くために集まっていた。

「そんなことあるんだ。本当に使えないの?」

「先生は時々あることだって言ってたけどね。まだクロムと会って二日目だから何とも言えないけど、本当に使えないみたいよ」

 この言い草、まだ我が魔法を隠していると疑ってるな。本当に使えなのだが。

「ですが、猫ちゃんは魔獣ですよね?どうして使えないんでしょう?」

「クロムはまだ魔力を感じられないみたい。うーん、クロムが魔法と気づかずに魔法を使ってる場合もあるって言ってたわね。二人とも、クロムが魔法みたいなことやってたら教えてちょうだい」

「それはいいけどさ。明日の授業はどうするの?」

「それなのよねー……」

 アリアが頭を抱えてしまった。聞けば、明日は使い魔と一緒に受ける授業があるようだ。そこでは、主が使い魔の使える魔法を把握して、使い魔の魔法の練習などをするらしい。魔法の使えない我は、受けても意味がない授業だな。

「それに近々使い魔のテストもあるみたいだし…どうすればいいのよ」

「それまでに猫ちゃんが魔法を使えるようになれば良いのですけど…」

「なんとかなるって。な、クロム!」

 ルサルカに頭を撫でられる。コイツ、けっこう力が強い。頭がグワングワン揺らされる。やめれ。

 三人はその後もしばらく話していたが、やがてルサルカとレイラは自分の寝床に帰っていった。アリアも用があったのか二人と一緒に出て行った。我は机の側面で爪とぎしながら考える。どうやらアリア達にとって魔法とは、我の想像以上に重要なもののようだ。我は自らの内側に意識を集中する。しかし熱いものとやらは分からなかった。有るのはさっき食べた夕食の肉くらいだ。腹いっぱいだな。

 そうこうしている内にアリアが帰ってきた。手には大きなたらいを持っている。コヤツ、まさか…!?我は身体が強張るのを感じた。

「そんなに怖がらなくても、今日は洗わないわよ。これは私の分」

「べ、別に怖がってなどいない。うんざりしただけだ」

「そう。まぁブラッシングはするけどね」

 ブラッシング…?なにやら不穏な響きだ…。

 そう思っていると、アリアが棘のたくさん付いた物を片手に近づいてきた。

「それで何をする気だ?」

「何って、毛繕いって言えば分かるかしら」

「そんなものですれば、我がズタズタになってしまうだろうが!」

 コイツ、なんて恐ろしいことをしようとするんだ。こんなことを考える人間が怖い。

「大丈夫よ。ほら、柔らかいの」

 アリアはそう言って棘を押す。棘はむにゅりと曲がっている。確かに柔らかいようだ。だがしかし…。

「レイラに聞いたけど、ブラッシングが好きな猫もいるみたいよ。きっと気持ちいいから。やってみましょ。」

「だが、毛繕いは自分でもできる。我には必要ない」

「もう頑固ね。いいからやるの。やらないと部屋が毛だらけになっちゃうんだから」

 そう言うとアリアはブラシを我の背中に当てる。コイツ、だんだん遠慮が無くなってきたな。…元からなかったか。ブラシが毛並みに沿ってズゾゾゾっと動かされる。ブラシの毛先が我の地肌をなぞっていく。背中がぞわぞわする。だが、これは、気持ち良い…?我はアリアの前に座り直した。

「ね?気持ちいいでしょ?」

 素直に認めるのはなんとなく癪だな。

「…続けることを許す」

「もう、素直じゃないんだから」

 アリアがクスクス笑いながらブラッシングを続ける。

「毛並みに沿うようにな」

「はいはい」

 ブチッ!

「痛っ。毛並みに沿うようにと言っただろ!」

「難しいのよ、ちょっと足伸ばして横になりなさい」

 我は仕方なくアリアの言う通りに体勢を変える。その後もコロコロと体勢を変えつつブラッシングを受け続けた。これ気持ちいい。

「よし、こんなもんでしょ。結構取れたわね。ほら」

 アリアがブラシを見せてくる。ブラシには我の毛がかなり付いていた。こんなに…!?

「我、ハゲないかな…」

「大丈夫でしょ。今日は初めてだからたくさん取れただけよ」

 そういうものだろうか?

「さて、私も身体を綺麗にしないと」

 そう言うと、アリアは水を張ったたらいに近づいて行った。アリアが黒の上着を脱いでいき、腰に巻いた黒い布、スカートを下ろす。白い下着を纏ったアリアが現れた。アリアは下着も脱ぐとたらいの水に布を浸し、その布で体を拭っていく。

 我はアリアの脱いだ下着に近づいた。今朝方、服はハゲ隠しという結論が出たが、なぜ見えないところまで下着を着るのか分からない。ひょっとして、何か我も知らない効果があるのだろうか?

 まずは臭いをかぐ。アリアの匂いが強くした。直にアリアの肌に触れていた物だからだろう。次に手で突いてみる。これは…温いな。肉球がほのかに温かい。まだアリアの体温が残っているのだ。我はアリアの白い下着の上に腰を下した。ふー温い温い。下着は柔らかい布でできているのか、触り心地がいいのもポイントが高い。

「あなた何やってるのよ?」

 振り向くとアリアが半目でこちらを見ていた。

「温くて、つい、な」

「そう…。なんか変態っぽいわね」

 へんたいとはなんだろう?アリアは水浴びを終えたようだ。今日は髪まで洗ったのか、髪が濡れている。アリアは机に近づくと、机の引き出しから何かを取り出した。それをアリアが頭の上に掲げると、アリアの髪がまるで風に吹かれているように揺れた。

「それは何してるんだ?」

「髪を乾かしてるの。これは温風の魔道具よ」

 そう言って、アリアがこちらに何かを持っている手を向けると温かい風が吹いた。

 なんだこれは!?

「アリア…貴様は…まさか、風が操れるのか!?」

「あなた何言って……あぁ、クロムに魔術を見せるの初めてだったわね。そうよ、私は風を操ったわ。これが魔術。こういった不思議な現象を起こすことを魔術、魔法と呼んでいるわ。そして、あなたにも魔法が使えるはずなの。どう?少しは魔法に興味が沸いてきた?」

「我にも風が…しかし、あんな弱い風ではな…」

 あんな弱い風を起こせたところで、何の役にも立たない。

「風とは限らないわよ。もっとすごいことが出来るようになるかも」

「もっとすごいこと…」

 例えば相手を吹き飛ばすほどの強風とかか?良いかもしれない。相手の体勢を崩せるのは大きな利点だ。いや、弱い風でも使いようか?弱い風でも、こちらが風下になるように調整すれば、臭いで獲物に気付かれることはなくなるだろう。これも大きい。我ももう少し真剣に魔法を使えるように努力してみるか。そのためには魔力の感知か…。あれは気が滅入る作業だ。まるで、あるはずのない物を永遠と探しているような気分がする。

「よし、もういいかな。クロムもう寝るわよ。明日も早いんだから」

 アリアが寝床に上がる。我も寝るか。魔法の事はまた明日考えよう。我はベッドに上がり、アリアの横で身体を横たえた。

「明かり消すわよー」

「うむ」

 一瞬で辺りが暗闇に染まる。これも魔術とやらか?我はアリアの腹の上に登った。ここはぷにぷにと柔らかく、温かくて最高の寝心地だ。

「うぷっ、ねぇ、重いんだけど」

「そうか」

 我はアリアの腹の上で丸くなる。寝心地はいいが、一つ難点を上げるとすれば、それは狭いことだな。

「そうか。じゃなくて、降りなさいって言ってるの」

「だが、ここはぷにぷにで温かくて寝心地がいいんだ」

「ちょっ!?ぷにぷには止めなさい!まったく、女の子になんてこと言うのよ」

 怒られてしまった。褒めたのだが…解せぬ。

 結局、アリアに腹の上から降ろされてしまった。アリアが寝入ったらまた登ってみるか。しかし女の『子』か、やはりアリアは子どもなのか?

「アリア、貴様はまだ子どもなのか?先生とは随分と体格が違ったが」

「そうよ、子ども。まだ12歳よ」

「12歳!?とんだ老婆ではないか!」

「老婆って、失礼ね!人間だとまだまだ子どもなのよ。15歳で成人、やっと大人になるわ」

 猫だと15歳などかなりの長生きな部類だ、大半は死んでいる。それでやっと大人になるとは…人間とは成長するのに時間がかかるらしい。

 しばらくするとアリアからスースーと規則正しい寝息が聞こえるようになった。眠ったか?早速とばかりに前足をアリアの腹に乗せてみる。反応なし。いけるな。我はアリアの腹にそっと登る。

「うぐっ…スー…スー…」

 よし、起きてないみたいだ。我も眠るか。我はアリアの腹の上で丸くなった。

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