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第9話

 教室に入るとアリアはルサルカ、レイラと談笑していた。仲が良さそうだ。

「あ、クロム。やっと来たわね」

「女の子を待たせるなんて、なってないぞー?」

 ルサルカが冗談めかしにこちらをからかう。

「待たせたか?」

「さっき授業が終わったところだから、そんなには」

「さ、早くイノリスの所いこうよー」

「そうですね。猫ちゃんも来ましたし、そろそろ……」

 どうやら、これからルサルカの使い魔に会いに行くらしい。そういえば、まだ会ってなかったな。三人に続いて教室を出る。だが、三人の進む方向にだんだんと不安がこみ上げてくる。こっちは化け物のいた中庭に続く道だぞ!?今ならまだ引き返せる。引き返すべきだ。

「アリア!」

「なに?」

「こっちは…」

 その時、先頭を歩いていたルサルカが突然走り出した。そして角を曲がり中庭へと駆けて行ってしまう。最悪だ。まだ間に合うか!?我はアリア達を置いてルサルカを追い中庭へと入る。

「待て赤毛!そっちには…!」

 ルサルカは狂っているのか、化け物へと走っていく。化け物も接近するルサルカに気が付き身を起こした。そして、その口をわずかに開け満面の笑みを見せた。そりゃそうだろう。餌が自ら飛んで来るのだ。笑いが止まらないだろう。ダメだ、もう間に合わない…!

「イノリスー!」

 ルサルカが化け物に飛びついた。そのまま首に抱きつき頬ずりまで始めた。

「ゴロゴロゴロ」

 化け物もまんざらでもないのか、ゴロゴロと喉を鳴らし満面の笑みだ。ルサルカの頭に頬ずりしている。なんだこれは?

 呆然としている我の後ろからアリアとレイラが現れ、驚愕に固まっている我を抜き去り、化け物に近づいていく。

「クロム?どうしたのよ。いくわよ?」

 アリアに話しかけられて、漸く我の頭が再起動する。ルサルカがイノリスと呼んで化け物に抱きついた。化け物もそれを受け入れている。イノリスとは確かルサルカの使い魔の名前のはずだ。化け物の首には使い魔の証があった。つまり、この化け物がイノリスでルサルカの使い魔?

 そんなバカな。あれは人に御せるような、そんな生易しいものじゃないはずだ。しかし、目の前ではルサルカに続きアリア、レイラまでイノリスを撫でている。なんだこれ?

 我は意を決してイノリスに少しづつ近づいていく。

「アリア、危険はないのか?」

 一応アリアに確認をとる。

「え?あー確かに最初はびっくりするかもしれないけど、イノリスは良い子よ?」

 良い子?この化け物が?

「どうかしたの?」

「なんかクロムが怖がってるみたいで」

 そりゃ怖いだろ?え?我がおかしいの?

 アリアが我を抱き上げる。

「ほら、今日はクロムの顔見せなんだから。しっかり挨拶しなさい」

 アリアがだんだんとイノリスに近づいていく。

「おいアリア!やめろ!」

「こら、暴れないの!」

 そう言うとアリアは我をイノリスの鼻先に突き出した。

「イノリス、この子が私の使い魔のクロム。仲良くしてあげてね」

 イノリスの目線が完全にこちらを捕捉している。イノリスが口を開いた!?もうダメだ。お終いだ。我は思わず目を閉じてしまった。

 ベロン

 顔に何か柔らかいものが触れた。食われた!?しかし予想していた痛みは訪れなかった。不審に思い目を開けてみる。

 ベロン

 イノリスが俺の頬を舐めていた。コイツ…我を食うつもりじゃないのか?イノリスの顔を見ると友好的な笑みを浮かべている。猫みたいな顔立ちだからか、我にはイノリスの表情が読める。むしろ人間の表情より読みやすいくらいだ。コイツ、我の仲間になりたいのか?

 こうまでされては……応えぬわけにはいくまい。我は身を乗り出すとイノリスの鼻に自分の鼻をくっつけた。

「よろしくな」

「にゃ~」

 挨拶が済んだと判断されたのか、アリアが我を開放する。

「ね?良い子でしょ」

「そうだな……」

 我を食べなかっただけで良い子だと思える。一応挨拶を交わしたが、我は未だイノリスの事を信じきれずにいた。

「友達になれて良かったね、イノリスー!」

ルサルカがイノリスをわしゃわしゃと撫でまわしている。アイツ、あんなに毛並みが乱されてるのに…懐広いなぁ。

「じゃあ私そろそろ先生の所に行ってくる」

「先生にご用があるのでしたか?」

「えぇ、クロムのことでちょっとね…」

「じゃあまた食堂でー」

 二人と別れて先生とやらの所にいく。先生ってたしか教室で訳分からん話を延々としていた奴のことだろ?なんだか会うのは気が進まないな…。

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