「はい、リピートアフターミー。わかる、大変だったね、辛かったね」
「わかる、大変だったね、辛かったね」
ルーが言った後にムツヤとユモトは続けて言う。
「よし、それじゃモモちゃんが来たらオッケーね?」
「わかりました!!」
そして、タイミングよく部屋のドアが開いた。そこに立っていたのはモモだ。
「あ、あの、ご心配お掛けしました……」
申し訳無さそうに一礼してモモが部屋へと入る。気まずい沈黙が流れた。
「モモちゃん紅茶でも飲む?」
「あ、はい、頂きます」
「じゃ、じゃあ僕が淹れますね!!」
「ユモトちゃんしくよろー!」
こんな時はおちゃらけたルーが救いになる。モモは椅子に座り、ふぅっとため息を吐いた。
「モモさん、どうぞ」
「すまないな、ユモト」
目を細めてモモは紅茶に口をつける。
「私は、父は間違ったことをしていると思います」
「わかる」
ムツヤが言うと部屋の空気が凍った。思わずアシノはムツヤの頭を引っ叩く。
「え、えーっと、モモちゃんのお父さんがいた事は本当にビックリしたわ!!」
ルーが必死にごまかそうとしていた、ムツヤは何故自分が引っ叩かれたのか分からないでいる。
「私は…… 私は父を止めたい。亜人と人間が憎しみ合うなんて間違っています!!」
「分かります、モモさん」
ユモトは教わったからではなく、本心からそう言った。
「そうだ、赤い玉を使ってお父さんとお話してみますか?」
ムツヤの提案にモモはハッとする。
「ムツヤ殿!! お願いします!!」
ムツヤから赤い玉を受け取ってモモは壁に投げつけた。しかし、その玉は落ちてコロコロと床を転がるだけだった。
「何か使うには他に条件があるのかも知れないな」
アシノが言うとモモは残念そうに下を向いた。
「考えていても仕方がないわ、お夕飯を食べましょう!!」
ルーの提案通り、みんな腹が減っていたし、疲れも溜まっていた。
街に混乱が起きたというのに、ホテルのビュッフェは、いつもの様に用意されている。
モモは料理に口をつけるが、何となく味がしない。しょっぱいかどうかしか分からなかった。
夜になり、疲労困憊の皆はぐっすりと眠っていたが、モモは眠れずに居る。
「ハァイ、モモちゃーん?」
「ルー殿…… 寝なくて大丈夫なのですか?」
「私、夜行性だからねー」
モモの横になるベッドに腰掛けると、モモも体を起こす。
「モモちゃん、こっちおいでー」
ルーに言われるがままモモが近づくと、おもむろにモモの頭を胸に抱きしめた。
「る、ルー殿!?」
「私にはモモちゃんの気持ちを分かってあげられないけど、今はこうしていよ?」
誰かに抱きしめられるなんていつ以来だろう。モモは人肌のぬくもりを感じていた。
しばらくして、ルーがモモを離した。
「どう、眠れそう?」
「はい、ありがとうございます」
次の日、皆が起きて朝食を摂り、待機していると、部屋のドアをノックされた。
「失礼します。国の使いの方がお見えになっております」
来たかとアシノは思い、一行は兵の後を着いてゾロゾロと城へ向かう。
王の間に通されると、サツキ達が既に待っていた。その隣には見慣れないパーティが居る。
そして、大臣のイグチと近衛兵長カミト、その他議員が王の後ろへ並んでいた。
「勇者アシノよ、先日はご苦労だったな」
「はっ、皆様の協力があってこそで御座います」
アシノは膝を付いて王に返事をする。
「して、勇者イタヤよ。そなたは何をしていた」
ムツヤが初めて見るパーティを王は睨んでいた。
「いやー、すいません王。近くの街で魔物の群れの襲撃がありまして……」
バツが悪そうに勇者と言われた男は謝る。
「まぁよい。そなた達に命令を下す」
「はっ!」
勇者達は返事をした。
「勇者サツキはこの王都の護衛にあたれ。勇者アシノと勇者イタヤは魔人の捜索及び討伐を命じる」
「はっ!」
アシノ達が言うと、次はイグチが質問をする。
「勇者の皆様。何かご質問は御座いますか?」
そう言われるとアシノが表を上げた。
「はい、勇者トチノハの件はいかがなさいますか?」
アシノの質問にイグチは答える。
「勇者トチノハの件も解決をせねばなりませんが、まずは国を滅ぼそうとする魔人を先決すべきだと、昨日の議会で決まりました」
「かしこまりました」
「他に質問が無ければ、さっそく皆様には任務にあたって頂きます」
「はっ!」
そう言って勇者とそのパーティは王の間を後にした。
「なんで、なんで私がアシノ先輩と旅をできないんですか」
外壁まで見送りに来たサツキが言う。勇者達が集まっているので見物人も多かった。
「まぁそう言うなサツキさん」
ハッハッハと笑いながら勇者イタヤは言う。
「そうだ、お前には王都を守ってもらわないといけない」
アシノが言うが、サツキはむくれている。
「そろそろ出発するぞ!」
「はい」
アシノが言うとモモは馬車を走らせた。ムツヤ達とイタヤのパーティを乗せる馬車の二台が並んで出発する。
まずは攻撃の効かないモンスターを倒す武器を手に入れるため、イタヤが試練の塔へ向かう事になっていた。
道中休憩を入れた時に改めて自己紹介が始まる。
「勇者アシノパーティの皆さん、改めてよろしく! 俺はイタヤって言います」
オールバッグに灰色の髪をした勇者イタヤはそう自己紹介をした。
「よろしくおねがいします!」
ムツヤが元気よく返事をした。
「おー、元気がいいね、ハッハッハ」
よく笑うおっさんだなとモモは思う。
「こっちは俺の妹のサワだ、人が言うには天才魔法少女だ」
「お兄ちゃん! 恥ずかしいからそういう事を言わないで! それともう少女って歳じゃないし!」
20代半ばぐらいの、イタヤと同じ髪色でショートカットの女が怒って言った。
「そして、こっちはウリハ。幼馴染の腐れ縁だ。魔剣士をやっている。凶暴だからエサを与えないでくれ」
「お前は一言多いんだよ!」
茶髪の長い髪をした男勝りな女がイタヤの腹を肘で突く。
「ぐふっ!!」
腹を突かれたイタヤは変な声を上げた。